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39話 ラスト・トレイン・ホーム 終局

「ふぇ、ふぇ、ふぇ、フェンネルさんだったんだね……」


 死体を見ながらきつしは言った。


「ああ。その他にも大勢な」


「片付けるか」


 防球ネットの裏に折りたたんでいた荷台を持ってくると、その上に死体を載せていった。珍しくもうどうが全ての死体を積み込んでくれた。その間何もしゃべらなかった。地下に運び込んでクリーニング屋に電話すると車で死体を指定の場所に運んだ。カシオペヤ座付近の小惑星のクレーターの中だった。


 それをすませると家に帰った。


 駐車場に車を停めるて部屋へ入る。


 きつしは施錠して奥へ進む。いぬが足元に擦り寄ってくる。頭を撫でてやる。相変わらずもふついている。いつまでも触っていたい。軽々しく抱きついてくる。背中の装置にも慣れたようだ。


「毛がちょっと伸びたんじゃない?」


「そんなことないよ」


 キッチンからもうどうの声が聞こえる。冷蔵庫を開ける音も。


「ほら」


 オレンジジュースとミルクセーキを持っていた。オレンジジュースのグラスには一輪のオレンジが挟まっている。キッチンの真向かい、玄関のすぐ隣のリビング(とはいっても本棚と丸い机と一人がけのソファが二つあるだけの狭い空間だけれども)の机の上に飲み物を置いて、どかっとソファに腰掛けた。 


 もうどうはm65ジャケットを脱ぐのも忘れて体を沈めている。


「座れよ」


「そ、そ、そ、そ、そ、そうするさ」


 きつしは革ジャンを脱いでコート掛けにかけてソファに座った。


 もうどうは足を組んで足首をぐるぐると回していた。カラフルなジョーダンが回ると三色旗の掲揚のように見える。


 もうどうはテレビのリモコンに手を伸ばしてスイッチをつけた。


 一つのチャンネルがジェントロヴェルーンウェン銀行の倒産を報道していた。もうどうは鼻を鳴らすとすぐに別のチャンネルに切り替えた。ピザ人間のインターホンの営業番組だった。リモコンをテーブルの上に放るとオレンジジュースのグラスを手に取る。


 しばらく何も話さず営業番組を見ていた。


 ミルクセーキを何度かすすった。


「ぐ、ぐ、ぐ、具体的にどんな裏切りだったのさ」


 もうどうはグラスから口を離すと、机に丁寧に置いた。ソファから体を起こす時一つ唸り声を出した。


「どんなのかって?」


「う、う、うん」


「…………」もうどうは指を絡ませて親指と人差し指の間に顎をつけた。


「フェンネルからもらったリスト、サンボーンが取引決定前後に通信した相手のリストをワイオミングに調べさせた。ワイミングが調べてる間俺は自分の組織で金の増えた人員を調べた」


「……ほ、ほ、ほ、報酬を貰ってると考えたのかい? 評判を落とす代わりに」


「そうだ。いや、普通はそう考えるだろ。それで水星の倉庫に勤めてるやつら五人が容疑者として上がった」


「ま、ま、マクファレンたちかい」


「ああ。だがそいつらは裏切ってなくてフリーランスで仕事を受けただけだった。逆にワイオミングが裏切ってたんだ。実際に噂を流して評判を落としたのはやつだ」


「だ、だ、だ、だから死体に……」


「そうだ。奴から聞き出した依頼主はドン・ベッツィ」


「ふぇ、ふぇ、ふぇ、フェンネルさんと敵対してた」


「そうだ。俺たちを揺さぶることでフェンネルを攻撃しようしたんだと思った」


「こ、こ、こ、殺したのかい?」


「ああ。シルビオと一緒にな」


「け、け、け、結婚式だろ?」


「仕方ないだろ。他の傭兵は使いたくなかった」


「と、と、と、と、とにかくそれで裏切り者探しは終わったのかい?」


「いや。その後にサンボーンから襲撃されたんだ。利恵菜がさらわれた」


 さして驚かないのは普段からこれ以上の出来事に遭遇しているからだろう。


「きょ、きょ教室にはいたけど、無事だったの」


「ああ、治療した」


「ハヴァキャンプ先生?」


「そうだ」


「ぼ、ぼ、ぼ、僕も診てもらったことがあるよ。あの人はゆ、ゆ、優秀だから、利恵菜には何の障害も残らないだろうね」


「不満か?」


「そういうわけじゃないけど、じゃ、じゃ、じゃ、邪魔と言えば邪魔でしょ」


「まあな」 


 もうどうはオレンジジュースのグラスに手を伸ばした。グラスは汗をかいていた。


「そ、そ、そ、それで?」


 もうどうはグラスから口を離すと、右手で少し揺らした。もうほとんど残っていない。


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