37話 ブレイム・イット・オン・ミー 全部自分のせいではないんでしょう?
覚悟はできていた、が実際に目前にしてみると申し訳なさが勝った。いずれは教師たちの前で自分たちがしていることを説明して釈明する時がくることは分かっていたのだ。
きつしはもうどうの隣で取引の場や組織同士の交渉でやっているように表情を固めて手を体の前で組んだ。地下の貯留槽で鈴音を介抱して家に帰して制服からいつもの仕事着に着替えた。
グレーのスラックスに黒のコーデュロイシャツ、アクションプリーツのついた革ジャンだ。肩に突き刺さっていたガラスもとったし血も拭いた。
これから起こることは全て嘘だ。言い訳、ここに居座って目的を果たすための。もうどうを不幸にした「あの男」を探すための言い訳だ。
もうどうが引き戸を開けて会議中の教師たちを見下ろすと、彼らは狐につままれたような表情で自分たちを見た。
「おじゃまでしたか? いやぁ、さっきからくしゃみが止まらないもんでね。何か自分たちについて並々ならぬ噂がささやかれているような気がして、この部屋に近づくたびにくしゃみが強くなって」
「小林、何をしている。会議中だぞ」
「俺たちを退学にする会議だろ? だったら俺たちにも参加する権利はあるはずだぜ」
「校長、見ましたか。これ、これですよ。この態度と物言い」
校長はもうどうの方を見た。もうどうも校長の方を見た。校長の顔は福井県警の女性本部長によく似ていた。メガネをかけてはいるが、似ている。
「今、わたしのことを福井県警の女性本部長に似ていると思ったでしょう」
校長の言葉は意外にももうどうではなくきつしに向けられていた。すっかり仕事モードに入っていたせいで「はい」と正直に、硬く答えてしまった。
校長は少し笑ってメガネをとった。まさに瓜二つだった。
「似ていて当然です。双子なんですよ。わたしは妹です。まあわたしは姉のように色のワンピースで通勤なんてことはしませんが」
きつしは少し口角を上げて返事と変えた。 校長はゆっくりと立ち上がると机に両の手のひらをついてもうどうを見た。
「小林くんと村山くん、かな」
「そうですよ? ここにいる教員全員、俺たちのことが特に俺のことが大好きなようで苦情を並べ立てては退学にしろとうるさかったでしょう。でもね、いやよいやよも好きのうちっていう言葉もありますから」
「彼らの意見を聞いて、正直わたしもあなたたちを退学に処した方が良いと考えています。あなたたちにいくつか質問をしたいのですがよろしいですか?」
校長が言い終えるともうどうはにんまり笑って開口した。
「あなたのように礼儀をわきまえた綺麗な人間とは話しますよ」
もうどうが言うと校長はその言葉を聞き流すように視線を下に落として書類をめくった。
「まず、あなたの仕事について。宇宙で何かをしているというのは本当ですか?」
「本当です。戦争中の宇宙人たちに武器や設備を売っています。また、表向きのビジネスとして戦争で破壊された街などを治す公共事業も手掛けています」
教師たちが多少ざわついた。
「証拠はありますか?」
「もちろんあります。ですがあなたたちに見せるつもりは一切ありません」
「それはどうしてですか?」
「あなたたちには決して理解できないからです」
部屋の空気が弦をピンと張ったようにピリついた。
「……なるほど。では学校で科学実験などを行っているようですが、校内で宇宙ペスト、宇宙エイズを流行らせたのは故意ですか?」
「いえ。完全なる事故でした。感染した生徒や教員には然るべき治療を施しました」
「吸血鬼の何かというのは?」
「この学校に吸血鬼がいたので排除したというだけのことです。体育教師として人間社会に潜伏していました」
また部屋がざわついた。
「……青山先生が? 交通事故で亡くなられたのではなく?」
「そうです。気味の悪い生き物ですよ」
校長は顔を歪めて書類に目を落とした。顔はきつしの方に上がった。
「村山くん」
「はい」
「あなたにも二、三質問をしても構わないですか?」
「大丈夫ですよ」
相変わらず硬く答える。校長は右の手のひらを握り拳に変えてごにょごにょと動かした。緊張している時はああするんだろう。自分と同じだと思った。
「村山きつし、と聞くと我々教員は必ず、三年前失踪したある男子生徒を思い浮かべます。中学三年生でした。周囲からは両親から虐待を受けているというような報告も受けていました。警察も捜索したようですが、ついに見つかりませんでした。行方不明者リストには今も名前が載っています。ご両親は遠方に引っ越されたようで、連絡がとれません」
「そうなんですか。一日も早く彼らが再会できることを祈ります」
機械的に答える。
「行方不明者リストに載っている顔写真とあなたの顔を見比べてみると、非常に似ています。そこで質問ですがあなたは失踪した村山きつしくん本人ですか? それとも同姓同名の別人で、他人の空似というだけのことですか?」
校長と、他の教員の顔がこっちに向いた。もうどうはずっと校長の方を見ている。こういう時にどう答えれば良いかは心得ている。
大層なものではない。嘘をつく必要はない。
ただの真実を教えてやればいい。
「いいえ。自分はその失踪した村山きつしくんとは何の関係もありません」
校長は黙ってきつしの方を見た。きつしは目を逸らさない。表情筋を全く動かさずに見返してやる。
「……分かりました。それでは質問は以上です。ええ、特に質問の内容を鑑みて決定を下したというわけではないのですが、それに本来はこのような形で、当事者に勧告されることはないのですが教員の意見や事実確認の上であなたたち二人を退学に処すことを決定したいと思っています」
教師たちの首がウェーブのように縦に振れる。校長はテーブルについていた両手で書類をまとめた。
「校長」
もうどうが声を上げた。校長が向くと、両手を体の前で組んで肩を回した。
「なんですか」
「そちらの要求通りに質問に答えたのですから、我々にも釈明する時間を与えていただけませんか」
「ダメに決まってるだろ。お前たちは退学だ。ほら、出てけ」
担任が立ち上がってもうどうに食いかかった。
「構いませんよ」
校長は冷静にそう言った。担任は校長の方を少し見てゆっくりと体勢を戻した。
「ありがとうございます。あなたが他の教員、というよりも教員と呼ぶ価値すらない自己中心的で独断的でどこか自分の授業と思想に価値があると勘違いをしている社会の爪弾き集団たちのように判断力がない人じゃなくて良かった」
「わたしを褒めてくれるのは嬉しいですけど、他の教員を中傷することは許しませんよ」
「あなたの言うことなら聞きますよ」
「……それで、釈明というのは」
「ええ。釈明にあたって、あなたと他の人間にグラウンドに出ていただきたいのですがよろしいですか?」
「グラウンドに何があるんですか?」
「それはお楽しみということで」
部屋にいた教員たちと校長はもうどうときつしの後ろを歩いて、グラウンドへ向かった。




