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36話 バーズ・オブ・ザ・フェザー 羽毛の鳥



    学校



「換気ダクトでの麻薬爆発。宇宙ペスト伝染。体育館での銃乱射。宇宙エイズ伝染。睾丸型モンスターの襲来。野球部の用具置き場荒らし。吸血鬼の何か」

 

 書類の上には人間の理解の範疇を超えた文章が連ねられていた。校長になる前は家庭科教員として常識に収まった授業と生活をしていた。


 家庭科というのはそもそも常識を教える科目なのだ。校長になってからはめっきり教科書には触れなくなったし、学校経営者として「常識に囚われない」という文字列をよく目にするようになった。


 メガネを外して無機質な会議室全体を見た。二年生学年団の教員たちががん首揃えてこちらを見ていた。右列に座っているのは教頭、生徒指導、学年主任。左列に座っているのは各クラスの担任、八人。


 空調の音と、自販機の中身を入れ替えにくる業者のトラックの音だけが聞こえる。


 一番奥に座っている八組の担任が手を上げた。世界史の教師だ。


「はい、なんでしょう」 


「その文書にある通り、小林もうどう、村山きつしを学校に通わせ続けるのは我々や生徒にとって、危険であり、脅威であります。即座に強制退学通知を発行し、退学させるべきです。特に小林もうどう。彼は我々や他の生徒を非常に軽んじており、麻薬の爆発や銃の乱射にもあるように人のことを全く考えません」


「さきほどの授業では赤ん坊を殺していました。しかも教室の壁を改造して冷蔵庫を設置しています」


 中央あたりに座っている女の教師も発言した。地理が担当の新卒だったか。


「授業に口を出して中断させるだけでなく、知識のささいな誤りを指摘しては暴言を吐き人間性を否定し、中傷します。授業になりませんよ。彼らの言動が生徒たちにとって悪影響を与えていることは間違いありません。彼らが通学するようになってから学年全体の成績は十一パーセント下がりました」


 学年主任も口を開いた。書類をめくると小林もうどうの記録が現れた。顔を見る限り、普通の学生なのだが。鋭い目に茶色の短髪、鼻筋は通っているし口元もきりっとしている。


 とてもではないが不良には見えない。生年月日や緊急連絡先、考査の成績などの欄があるがほとんど空白だった。担任と学年主任の評価はくそみそだ。


 ほとんどが授業態度と通学に関するものでよっぽどのことがない限り全行埋まらない改善点がびっしりと小さな字で書き詰められている。健康状態欄には巨人症とある。身長はなんと百九十六センチ。


「へえ……」


 思わず驚きの声が漏れた。


 親しい友人の欄には「村山きつし」と「国又利恵菜」の名前がある。この二人も問題児なのだろうか。


 めくると村山きつしの記録があった。彼も不良には見えない。小林よりも優しい感じでまさに好青年といった感じだ。


 村山きつしという名前を見て思い出した。


 数年前、とある男子中学生が失踪した。


 ニュースでは名前は報道されなかったが教育委員会の会議でははっきりと「村山きつし」という生徒名が上がっていた。警察も動いていたが見つからず、捜索は打ち切りになったようだった。顔写真を見てみると、二人は確かに似ている。彼が通い始めてからは確認する時間もなかったし皆同姓同名の別人だと思っていた。


 一度本人なのではないかという話も出たが他人の空似だろうと流していた。この機会に確かめてみてもいいかもしれない。


 彼にも生年月日や緊急連絡先の欄の記入がない。小林とは違って健康状態欄も空白だ。


 改善点は最後の一行を除いて全て埋められていたが内容は小林ほどひどくなかった。


「小林に振り回されることなく自分の人生を生きてほしい」という旨のことが書いてあった。そんな大げさなと思ったが、実際に彼らを見ているわけではないから一概には言えないか、と思い直した。


 親しい友人の欄には「小林もうどう」と「しお花鈴音」の名前がある。国又利恵菜の名前がないのに違和感を覚えた。


「この……国又利恵菜としお花鈴音も授業妨害などに加担しているのですか?」


「いえ」


「二人との関係は?」


「国又は小林の幼馴染で、しお花は村山と交際しているようです」


「なるほど……」


 書類をめくると小林の問題点がぎっしりと書かれていた。細かい字だ。


 顔を近づける。


 宇宙で何やら怪しいことをしている。


「宇宙?」


 さっきの苦情の書類にも宇宙エイズや宇宙ペストという単語があった。


「私も最初は信じられませんでしたがエイリアン相手に何やらものを売り捌いているようです」


「はあ……」


 半信半疑で返事をして続きを読む。


 科学知識と技術はずば抜けており、自分でなんでも作れるという旨の発言をしている。

 実際に教室にも改造を施している。野球部のグラウンドから飛び立つ車の目撃情報が寄せられている。飛び立つ車、宇宙船のことか? 村山は小林のそういった怪しい仕事や科学実験に協力しており、理解を示している。


「校長。もう十分でしょう。これだけ問題があるんですよ。このまま放置すれば人の命が失われるかもしれない。大体ね、彼らは正当な入学手続きすらしてないんですよ。だから退学という言葉もへったくれもない。今すぐにでも追い出せばいい」


「…………彼らは今校内にいるのですか?」


「分かりませんが、明日にでも呼び出しましょう。登校すればですが」


 その場の全員が頷いた。みな賛成ということらしい。ここまで退学意見が強ければ仕方がない。実際彼らは教員や生徒、学校にとって悪影響を与えているようだし、考えてみれば逆に退学にしない方が変だ。


 その時、部屋の扉が勢いよく開いた





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