31話 飾りじゃないのよ涙は
しお花鈴音の章
戦争には武器が必要で高品質な武器を作って売っている、ということらしかった。他にも色々やっているらしかったがあまり覚えていない。
小林のことも話題に出た。あんなひどい性格の人なかなかいないわよね。と言った。
彼は言った。それはもうどうのせいじゃないんだ。暗く言った。それ以上は聞かなかったけれど。
彼がどもる時とどもらない時の違いも、その時分かった。冷静になったらどもらない。
自信に満ち溢れている時はどもらないのだ。 帰り道、小林は一言も喋らなかった。
帰ったのは真夜中だった。両親が、綺麗に整った箱の中で育てた娘がベッドの中で眠り姫になっているを疑うはずがなかった。
その日は寝つけなかった。まだ、まだ終わりたくないと心臓が駄々をこねていたからだ。
二人は転校生ではなかった。二年生の始業式の後、新しいクラスメイトが集められた教室に、ずかずかと入ってきたのだ。小林はほとんど破れた黒のダメージジーンズにネイビーの、四つポケットがあるジャケット。シャツは白色だった。きつしはグレーのパーカーにレザーのジャケット。
黒のスラックス。担任が小林を不審者扱いして、触れようとした時、きつしはその手を思い切り掴んで担任の目をじろりと見た。
そこにあったのは「関係」だった。信頼。友情。そんなものではない。小林は自分が好きに行動できるのはきつ
しが側にいるからだと理解している。きつしは自分が今生きているのは小林のおかげだと信じている。
羨ましい。何よりも、ココロの線のようなもので繋がっている、二人は死なない。
一人が死んでも、一人が生きている限り、もう一人も生き続ける。だから、そう。そういう関係なのだ。
水が垂れている。
自分の顔から、髪から、上から。
体が倒れているのにも気が付いた。遠くの銃声にも。
シャワーヘッドだ。体の力が抜けて倒れていくにつれて、肩がハンドルに当たったのだろう。それで水が出たのだ。
身体中びしょびしょだ。また気が付いた。下腹部の圧迫がなくなっている。
最悪の予感と、自分への失望で、目を閉じて上を見た。シャワーヘッドの細々した水があたる感触がむしろ優しく感じられた。
ガラスの割れる音がした。
自分のココロの中の音ではなく、確かに耳がとらえた音だった。
強まった震えと一緒に立ち上がると、おぼつかない指先でドアに触れた。
音がしないようにゆっくりと、開けた。




