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2話 ウィー・アー・ヤング 若気の至り

「なあ。別に変な意味はないけど」


 きつしは左でもうどうの声を聞いた。もうどうは片手をハンドルに置いて視線は正面のまま。


「な、な、なんだい」


「銃、持ってるか」


「ああ、も、も、持ってるよ。それが?」


「どこに持ってる」


「どど、どこって。腰に挿してるよ」


「そうか」


「ど、どうして?」


「落とし穴っていうのは、標的が気付かないから意味がある。もし落ちたとして命が助かる場合とそうでない場合がある」


「じ、じ、銃があれば解決できるのかい? その状況を」


「いや。状況を良くするのはいつでも冷静さと知識だ。銃は安心させてくれる。安心は冷静になるのに一役買ってくれる」


 もうどうはもったいぶりながら言い終えると満足気に肌を撫でた。


「……ああそう」 


 納得できたようなできていないような曖昧な感情を含みながらもきつしは頭の右の方をかく。車は器用に隕石の欠片や宇宙ゴミを避けながら進んでいく。

 

 もうどうは器用に破片を避けながら車を進める。

 

 きつしはグローブボックスから双眼鏡と円形のレーダーを持ち出して双眼鏡を覗き込む。見たところ相手はまだ来ていない。相手側偵察はレーダーに引っかからないし見張りもいない。到着する前から嗅ぎ回られるストレスがないのは大きい。この小惑星はもともと惑星の一部だった。百年も前の戦争で破壊された。惑星の破片はぶつかり合って小惑星になりやがて土星の輪に埋もれた。


 もうどうは徐々に高度を下げて、車を着陸させる。急ブレーキがかかると体が前に跳ねる。


 辺り一面乾いた砂利漠。埃が風に舞っている。実際に外に出てみなくても寒いことが分かるし、多少空気も薄いはずだ。空は黒いが所々星や隕石の欠片が光っていて暗くはない。


 もうどうが鍵を抜くとカーナビや計器の光が消える。


 きつしはふうと息をついてシートベルトを抜いて服装を整える。ブレザーのボタンにシートベルトが引っかかった。制服での仕事は初めてだった。


「きつし」


 もうどうはハンドルに両手を置いて下を向いている。


「な、な、な、な、なに」


「お前も分かってるかもしれないが今回の取引はちと危険かもしれない。さっきお前に銃があるかどうか訊いたの

は万が一のためだ。向こうが銃を抜いてからじゃ遅い。だからといって向こうが抜く前にこっちが抜けば正当防衛で通らなくなる。だから、銃を抜くそぶりを見せたらすぐに、撃て。抜くんじゃない。撃つんだ」


「わかった」


「ドアは開け放しておく。いざとなったらドアに隠れて、な?」


「ああ、わ、わ、わかった」」


 ふと右腰に密着する銃の感触が強くなった。二十五メートル。四十口径のプラズマ銃。


 きつしは下を向く。銃身は多少他の銃よりも分厚いが大きさも重さもさほど他の銃と変わらない。

 

 だが弾丸は電気と熱エネルギーだ。腹にくらえば一気に肉がただれ、衝撃で全ての臓器が動きを止める。出血はするがすさまじい熱のせいですぐに固まる。飛び散った血もそのままで固まる。出血部から固まった血がぶらさがるのだ。


 頭にくらえば終わったことすら気が付かない。相手が苦しむことはない。恐ろしい武器だがある意味、残酷ではない。


「サンバ人が来やがった」


 もうどうは忌々しげに呟いた。


 きつしは視線を前に戻す。


 仰々しい船が砂利を吹き飛ばしながら大げさに着陸する。タラップを兼ねているドアが開いてスモークが噴き出す。煙に覆われながら頭から腕が生えている大きな図体の生物が降りてきた。


 ピースサインを作っている者、中指を立てている者、順番に折っては開く動作を繰り返す者。上裸、赤色のボロ布で下半身を隠しただけの格好。おそらく背中に武器を隠している。

 中央の、金色の布をまとったリーダーらしき者を取り囲んでいる。


「いくぞ」 


 もうどうは言うとドアを開け放して車を降りる。きつしも倣う。予想通り風は冷たく砂利を踏む感触は少しく気持ち悪い。

 

 いつもの手順通り、もうどうが取引相手に挨拶。きつしが品物を用意。品物を試す前に送金手続きをさせる。送金が済めば残りを発送する。


「コバヤシ、もうどう」


 金の布をまとったサンバ人がもうどうに笑いかける。


「我が種族の、頭の、腕は、感情を表すのだよ。緊張したり、動揺したり、怒ったりすると、握り拳を作って上げ下げするようになる」


「いいことじゃないか」


 もうどうは鼻を鳴らしながら応えた。


「君の評判は聞いている。今や軍需産業は全面的に君のテリトリーだ。この宇宙のどの業者よりも優れた武器を作るそうじゃないか」


「あんたの評判も聞いてるよ。ドン・サンボーン。今度月の営業所を任されたってな。サンバ人の機転の良さと効率主義には脱帽だね」


「我が種族に敬意を表してくれて嬉しいよ。今度、反政府軍勢の会議にも出席する。戦争での我々の功績が認められてね。だからもっと良い武器が必要なんだ。それで、フェンネルに紹介されて君に連絡したというわけだよ」


 もうどうは頷いて指を鳴らす。その音を聞くときつしは車に戻りランクから荷物を下ろして荷台に載せた。


「ああ、君が、噂に聞く、天才科学者コバヤシもうどうの唯一無二のパートナー、きつしだね。君にずっと会いたいと思ってきた。波乱万丈で変わり者の天才科学者を扱うにはどうしたらいいのかな?」

 

 ずっ、ずっ、ずっ、と笑いを漏らす。きつしも愛想で笑う。


「品物です」


 きつしはバールでふたをこじ開けて、中身を見せる。あたりでは霧が出始めている。


「悪趣味な、いて座模様の服を頼んだ覚えはないがね」


 サンボーンの頭の腕がひくひくと動く。もうどうは木箱に手を突っ込み、羽目板を外す。サンボーンは中身を覗き込むと満足そうに唸った。


「良さそうな、武器だ。これが全て君の手作りとはな」


「品物はオーダー通りに揃えてる。送金が確認でき次第残りを発送する」


「結構だ。これでようやく平等に戦えるというものだ。敵も味方も君の作った武器を使っているからな。今のところかなり不利な状況だよ。まあこれで形勢は変わる」


「よかったじゃないか」


「しかしまあなんだ。知ってるか? 政府は君を指名手配者第五位から四位に昇格させた。戦争犯罪で、しかも武器の製造、販売、供給を一度にやって指名手配されるのは歴史上君だけだそうだ。だけど、政府の馬鹿どもときたら、気づかずに君の武器を使ってるんだ。ほんと若いのに大したもんだ。どうやって政府にも武器を売りつけてる。まさか連中は君の武器だとは知るまい。え?」


「それは企業秘密だからねえ」


 もうどうはニヤつきながら返す。

 土星の輪が霧で見えなくなった。風が吹いて周囲の音が聞き取りづらい。。


「おーい、お前ら」


 サンボーンが頭じゃない方の手をこまねくと六人が駆け寄ってくる。


「おい、これが品物だ。試してみろ」


 部下たちは武器に手を伸ばす。もうどうは武器の上に平手を打ち付けた。


「送金が済んでからだと説明したはずだ。試してもいい。だが先に金を払え」


 サンボーンやその部下たちの頭の腕が握り拳を作る。


「少しくらいいいじゃないか。触って試し撃ちをするだけだ」


「言ったはずだ。そういう例外は作らない。相手が誰だろうと、こっちの手順に従ってもらう」


 サンボーンの頭の腕の握り拳が、少しずつ上下に揺れる。


「君はさっき我が種族の機転の良さと効率主義には脱帽だと言ったはずだ。これが我が種族のやり方なのだ。その手をどけろ」


「好きになさい。あんたら分かってないようだが、俺たちを困らせて良いことは一つもない。俺たちが機嫌を損ねれば武器は手に入らない。武器が手に入らなければあんたらは負ける。負けりゃああんたは震えながら『食われつつある銀河』に雑魚逃げだ」


「分かっていないのは君だ。我々を甘く見ない方が良い」


「と言いながら俺から武器を買うのかい?」


「ドン・サンボーンにその口のきき方は許されない」


 部下の一人が銃を抜きもうどうの手の上に突きつける。他の五人も武器を手に取る。きつしにも銃口が向く。

 きつしは唇を噛む。

 

 一手遅れた。せめてもの救いはきつしが銃に手を伸ばす前だったことだ。もし銃を手にしていればおそらくすでにここは血の海だったはずだ。


 サンボーンは頭の握り拳を激しく上下させながらもうどうに顔を近づける。もうどうは視線をやることも眉一つ動かすこともせずただ、石のようにそこに立ち尽くしていた。


「我が種族の機転の良さを君も見習った方が良い。事前に取り決めた手順がなんだ。我々は客だ。君が優れた科学者で、武器商人だというのは認めている。君のこともすごく気に入っている。しかしだ。侮辱されるのは許されない。侮辱という行為は死に値する」 


 もうどうは依然動かない。


「理解をしてくれたかな?」


 砂利が風に巻き上げられて風の音もはっきりと聞こえるようになった時もうどうはサンボーンに顔を見せた。 


「ああ……。十分理解した。たとえこの宇宙での闇取引の作法を全く守らず、客として然るべき礼儀を持ち合わせていないとしてもそれは種族として誇るべき慣例だというんだろう」


 何が起こったか。きつしに分からないことはなかったが反応は多少遅れた。


 もうどうは近くの腕を捻り上げた。銃はすぐに地面に落ちてその瞬間、きつしは考えるより早く銃を抜いたのだった。目の前に向けて一発撃つとすぐに車のドアに隠れて撃ち続けた。


 もうどうは部下を突き飛ばして間合いをとるとすぐに銃を抜いた。隠れることも後ずさることもせず地獄への片道切符を配り続けた。 サンボーンは生き残った部下に守られながらタラップを登っていく。もうどうはさほど接近もせずに生き残った部下の頭に空洞を作った。すぐにサンボーンの足にも同じ空洞ができた。 


 サンボーンは叫びながらタラップをどうにか登り切った。タラップが引っ込んで、ドアが閉まろうとするが部下の死体が引っかかってドアが閉まりきらない。サンボーンは迷わずに死体を蹴った。船はまるで汗を飛ばして逃げる漫画のキャラクターさながら真空空間に滑り出た。もうどうは船に向かって撃ち続けた。着弾したかは分からないが、とにかく、撃ち続けた。


 もうどうは船が見えなくなると、銃を下げた。もったいつけて腰に戻す。


「帰るぞ」


 もうどうは踵を返すときつしを見ずに吐き捨てた。

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