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1話 ザ・デッド・ダンス 死霊の盆踊り

 きつしは血が出ている足を引きずりながらも拠点の貯留槽に帰った。


 トンネルに入って、柱の乱立する駐車スペースを抜けて階段を登った。下に水の流れる渡り通路を走って水たまりだらけの作業部屋へ立ち入った。


 赤い文字列を表示し続ける縦型のモニター、監視映像を表示するモニター。もうどうの発明品がつめこまれた金属ラック。ロッカー。


 ファミレスへ向かう前と何も変わらない光景を見るとどうしてか安堵した。

 油断したからか、足の痛みが大きくなってきた。


 右足を踏み出すと刺すような痛みが襲ってきた。水たまりに手をついて倒れた。


 心臓が締め付けられるような気持ちだった。

 もうどうはどこへ。何よりも爆弾は、どうして。


 這うようにデスクの前に座ってなけなしのコンピュータ知識を振り絞る。

 ファミレス店内の防犯映像にアクセスする。


 もうどうと沙織、そして自分。来店してから爆発までの映像。もうどうにそっくりな男がいつ来たのか、いつ出ていったのか。


 きつしたちが来店してすぐの頃、男が座っている席には老人が座っている。


 しかしある時から、老人は男に変わっている。映像を全て見ても、()()()()()()()()()()()()()()

 きつしは頭を抱えた。過呼吸になっているのが分かった。階下で水の流れが強くなったような気がした。

 ドライブに保存されている映像はこれだけだ。爆発以降の映像はむろんのこと存在していない。だからもうどうがどこに行ったのか分からない。

 沙織だ。


 きつしはあることに気がついた。沙織はどうなってしまったのか。机の下、沙織の座っているすぐ側に仕掛けられていた爆弾だ。それが爆発すれば。


 頭を掻きむしる。涙が頬を下っていくのが分かった。ちょうど下で流れている水のようにね。


 きつしはとりあえず足の手当てをしてシャワーを浴びた後しばらく、渡り通路の柵の間に足を投げ出していた。流れる水と溜まっていく水を見ていた。薄暗く、水の反射と吊るされているいくつかの照明だけが光源の中で見えているものも消えてしまいそうだった。


 沙織は死んだ。殺されたのだ。そしてもうどうは消えた。

 これは夢なのではないか。何か悪い類の夢か。

 もうどうの実験が失敗して自分は、どうしようもない悪夢に取り憑かれるようになってしまったのではないか。


 足を引いて、立ち上がった。水は絶えることなく流れていく。

 柵を乗り越えて体を宙に投げ出す。一瞬空気に留まり心地よくすらある逆風を受けながら水へ落ちた。痛みはな

かった。ココロの痛みの方が強かっただけかもしれないが、呼吸はできない。体はある一方向に流されていく。

 抗わざるをえない。


 体の力を抜いて流れが変わる前にはしごを見つけて手をかける。

 水をたっぷりと含んだ重い服を持ち上げてはしごを登る。


 寝台に寝転んだ時、ようやく現実なのだと実感した。苦しい。鼻が痛い。呼吸がままなっていない。


 ふと気付くと自分も一人ぼっちだった。

 もうどうもきつしも家族とうまくいかずに家を出た。


 自分たちは傷ついた。でももうどうには沙織が現れた。

 自分はそういう、二人の幸せを感じ取って孤独を埋めようとしていた。


 それは認める。何も異常なことではない。


 でも沙織は。


 もうどうは。


 きつしはまた、泣いた。


 二日後、沙織は死亡が確認された。


 その二日後、きつしはこっそりと葬儀に出た。そこには利恵菜もいた。


 もうどうはいなかった。

 

 

    三年後 小林もうどうが死ぬまで六年。村山きつしが死ぬまで五年。

    国又利恵菜の章

      

 

 わたしは小林利恵菜になりたいのに。


 雨は嫌いなのだ。特に冬の雨と風。朝起きて雨が降っているだけならまだいい。前日や一週間前からこの日は雨

だ、と予報されている時には全てが憂鬱で起き上がることすら嫌になる。それでも夜の雨は好きだ。冬の夜の雨は好きなのだ。暖かい布団にくるまりながら天井を見つめて屋根に雨粒がぶつかる音を聞く。雨の空気のたちこめる、少し湿ったシーツや布団に体を包まれると言いようのない平和を覚える。


 国又利恵菜くにまたりえなはそうして、少しワクワクしながら枕に唇を押し当てていた。

 高校二年生になってもまだ、誰とも抱き合ったことがなかった。悲しげな雨音や暖かい布団を感じていると誰かに優しく抱きすくめられているような感覚になって幸せだった。


 自分は誰に抱かれたいのだろうと考えると浮かぶのはたった一人の顔だった。


 思い出はいつも明るい。


 小林もうどうとの日々はいつも楽しく、刺激に満ちたものだった。何よりも優しくて。


 もうどうと()から地球を眺めたり動物の言葉を解読したり。何一つとして失いたくない日々だったが結局

それは痣者ですぐに消えてしまった。


 昔のもうどうにとって自分はなんなのだろう。友達だったのか、それ以上だったのか。


 今のもうどうにとっては。


 利恵菜は小さくため息をついた。歯磨き粉の香りがうっすらと広がった。


 明日は少し早めに登校しなければならない。


 もう寝ようと、と思う時に限ってすぐに眠ることができない。時間がいつもより遅く流れていくような気まです

る。考え続けているといずれのその思考に押しつぶされて、眠っている。


 


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