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11話 ブロークン・ヘッドフォン 傷ついたココロへ



    小林もうどうの章



 別の線というの組織の人員の口座を調べることだ。


 身内が裏切る原因は色々あるが、その中で最も多いのは鞍替え、だ。別の組織に乗り換える時、手土産として元いた組織の評判を落としたり仕事を奪ったりするのだ。


 身内に裏切り者がいるとしたら、それはどこかの組織の誰かから報酬をもらって指示された可能性が高い。  

  

 もうどうは水星近くの小惑星へ車を飛ばしていた。


 組織の人員の情報は全て分かっている。あらかじめ裏切りそうな人員もリストアップしている。そいつらからあたるのも良いがもっと確実な方法がある。


 火星、木星、おうし座、いて座には武器の保管倉庫があり、発注内容に合わせて発送できるラインが組み込まれている。そこは宇宙でもっとも金を産む場所だ。 管理を任せている種族は知能が高く、物事の管理に長けている。


 働いている五人の借金を消して新しい人生を与え、金貸しを説得してみなにとって良い合意をとりつけた、はずだった。


 調べてみるとここ数ヶ月どうもその五人の口座に入金がある。もうどうが月給を入金している口座ではない。偽名に偽の住所に、嘘の記録で開かれた口座だ。全て実態のないペーパーカンパニーからの支払いで、少額に分けての送金になっている。

 

 五人を小惑星の廃倉庫に集めた。小惑星に降り立ち適当なクレーターに車を停める。扉は外側からチェーンで施錠されているだけだ。


「ようようよう。おぉおう。調子はどうだ」

 

 すでに五人がさびだらけのパイプ椅子に座っていた。この種族はみな同じ顔に見える。


 全員丸坊主だし吊り目だ。髪型やピアスなんかで特徴をつけてもらわないと誰か誰だか分からない。しかも五人とも黒の革ジャンに黒のジーンズと着てる。中に来てるシャツはそれぞれ違うが、それはそれで紛らわしい。


「絶好調だよ、もうどう。そっちこそ調子はどうだい」


「きつしはどうしたんだい」


 もはやお馴染みの質問だな。


「ひょっとしてストライキってやつかい? 地球ではよくやるんだろ」


 いつも通りよそよそしい声だ。機嫌を損ねたら面倒だとでも思われているのだろう。実際そうだが。


 もうどうは前に立って五人を見据える。


「サンボーンのことは残念だった。みんなうまくいくよう望んでたし、事後処理もほとんど済んだ。あとは渡すはずだった武器をどうするかだ。別の取引に流用することはできない。中古だと知れれば評判が落ちる」


 一番右に座っていた者が声を上げた。


「そうだな。フョードル。君の言う通りだ。冷静で、正しい判断だ。そこで、賢い君に一つ質問をしたい」


「なんだい」


 フョードルは機嫌良さげに他の四人を見渡した。


「君は恩人に火を放つような者は殺されて当然だと思うか?」


 もうどうは少し声を低くして、ゆっくりと話した。頭を下に傾けて目だけで前を見る。


「あー、難しい問題だな」 


 自信に満ちた声。半年前に金星にいた時とは大違いだ。


「それは、当然じゃないのか」


「もうどうは何度か頷いて唇の端を持ち上げた。


「そうか」


 倉庫にはもうどうの言葉しか響かない。五人とも異変を感じ取ったらしく、誰も大っぴらに呼吸しようとしない。息を押し殺して集められた理由を見定めているようだった。


「意味が分かるか? フョードル、マクファレン、ジーズ、ハロハロ、バティシーノ」


 右から一人ずつ、ウェーブのように顔が上がる。


「君たちは火を放ったのか? 恩人である俺に対して」


「何言ってんだよ、もうど」


「今回の取引の失敗は単に我々とサンボーンの見解が食い違っていたというだけにとどまらない。何者かが今回の取引を失敗させるために、我々の評判を落とすために仕組んだことだった。そしてその裏切り者。火を放った者はこの中にいると思うのだ。もしくは全員がそうかもしれない」


「も、も、もうどう。何の話かわからないよ。きっと何かの間違いだ。俺たち全員あんたに感謝してる」


「頼む、ジーズ。座れ」


 ジーズは坊主頭を撫でると、静かに座った。


「お前らの口座を調べた。送金があるじゃないか。ここ三ヶ月。人生が変わるような額だ。俺の支援がなくても十分生きていける。家族と一緒に豪華ヨットを買って、天王星の広大な黄色い海に漕ぎ出すことだってできる。誰にそそのかされた。え?」


 黙りこくる。誰もしゃべらない。


「よし、分かった。最初に話した者の家族には手を出さないと誓おう。それ以外は、どうするかは分からない。君たちが好きだ。本当に。俺のために本当によくしてくれた。だからこんな風に終わるのは残念だし、ましてや君たちの大事な者を見せしめにしなければならないのは、残念以外の言葉が思いつかない……」


 まだしゃべらない。みな下を向いているがお互いを伺うように横目でちらちらとアイコンタクトしている。


「裏切ってなんかいないよ。もうどう、聞いてくれ」


「ほう。ではどうしてお前ら五人の口座に送金があったんだ」


 また黙る。


「なんだ? 聞いてくれというから質問をしたんだが。もういいのか。罪を認めるか? 俺を裏切ったらどうなるかは知っているはずだ。金星の貨物庫よりもひどい結末が待ち受けているぞ」


「フリーランスで仕事を受けたんだ」


「…………なに?」


「この三ヶ月で、売上が落ち込んだろ? あんたが地球に落ち着いてからだ。てっきり隠居して、ビジネスの方はもういいのかと、それで、他の仕事を受けたんだ。葉巻銀河から流れてくる物資をあんたの木星の倉庫でさばいた。それで手数料を受け取った。ものすごい額だった。だからあんたにもいずれ言おうと、五人で話してたんだ。それで、あんたが今日招集をかけたから、ちょうどいいから言おうと思ってたんだ」


「そんなことが信じられるか? 売上が落ち込んだといってもたったの二パーセントだ。俺が隠居して商売をほっぽりだしただと? ふざけるなよ。毎月ここにきて直々に売上の確認をしてるし報告を受けてるだろ。商売がどうでもよくなったのならそんなことするか」


「いや、ほんとだって。詳しい書類を渡せる。取引相手のことも、全部教えれる。誓っていうけど、あんたの評判を落とすようなことはしないよ。ほら、これが書類だよ」


 真ん中に座っていたジーズが革ジャンの内側から封筒を取り出して、渡してくる。


 もうどうはジーズに目を合わせたまま封筒の中身を確かめる。


 フリーランスで仕事を受けたというのは葉巻銀河のクルンハットカルテル。自動小銃と爆弾だけが収入源のちゃちな中小マフィア。政府に莫大な献金をして犯罪行為をお目こぼし願っている。

 

 流れてきていたのは自動小銃。


 基本的に武器取引というのは戦地に供給する前に検問所を通して書類をねつ造する必要がある。検問所を木星の倉庫に設定していたというわけか。 ここにいるバティシーノは書類偽造の専門家だ。雇い上げる理由は分かる。


「も、もちろん爆弾は扱ってない。あんたの爆弾嫌いは知ってるし、そっちの方が条件は良かったけど断ったよ……。自動小銃だけ」


 説明されなくても、それは書類を見れば分かる。見たところクリーンだ。


「…………」


 裏切り者はこいつらではない。他にいるということか。内心疲労を感じながらも怒りでそれを打ち消した。


「いいだろう。今後は俺がこの取引を管理しよう。君たちの取り分は十五パーセントだ。それでこの流れは続ける。後ほど先方と交渉してこっちに流す品物の量を増やしてもらう。これでみんなハッピーだ。疑ったことはすまなかったがこれから仕事を受ける時は必ず一言俺に相談しろ」


「あぁ、もちろんだ」 


 五人が口を揃えてそう言った。


「他に何か、隠してることはないな」


「あー、おれたちの他にもフリーランスで仕事を受けたやつがいるよ」


「そいつは誰だ」


「えっと。技術者のワイオミング・スターツベルクだ。あんたと知り合いだと言ってた」





「やあワイオミング」


「もうどう。ここは仕事場だ……」 


 ワイオミングは最後まで言えず、肩を押さえてうめく。 


 硝煙の匂いと、すぐに固まって軽快な音を出して床に落ちる血しぶきには目もくれずワイオミングの目を凝視した。


 汚いオフィスだ。


 書類やフォルダがあちこちに散らばっているし棚からは紙がいくつもはみ出ている。酒と宇宙タバコの匂い。胸焼けがする。結局断酒はうまくいかなかったか。


「君のことはよく知ってる。奥さんの名前はもちろん、娘のビリーが一番好きな動物は宇宙コオロギだ。毎週土曜には俺が買ってやった車でへび座のビーチにでかけてスパイシーフードアンドロスのひき肉料理を食べる。娘さんは果汁アレルギーだから牛茶を頼むだろう。君の実家の住所も知ってる。君は知ってたか? 二ヶ月前に引っ越したそうだぞ」


「う、そんなの初耳だ……」


「親不孝者だから知らないだろうな。そりゃそうだ。君は生来のろくでなしなんだから」


 銃を向けたまま、書類やフォルダを床に落として机の上に座る。


「どんな恩を受けても後ろ足で砂をかけるのが習い性だ。反省せず、過ちを繰り返し、それを隠匿するためにさらに砂をかける。話せ。俺に黙ってフリーランスで仕事を受けてたって? どうして隠してた。たった二パーセント利益が落ち込んだぐらいで落目になったと思ったのか?」


「そ、そ、そ、そんなんじゃない。君が落ち目になっただなんて……う……」


「全て知ってるんだ。見落としてたよ。自分の口座じゃなくて他のやつらの名義で口座を開き、そこに報酬の金を分散させていたな。さすがといえばさすがか」


「ち、ち、違う、た、ただ」


 また言葉は続かなかった。ワイオミングは次は左膝を押さえる。


「考えてしゃべった方が良いぞ、ワイオミング」


「君にもらった、金が、そ、底をついたんだ。結局、ギャンブルをやめられなくてさ……。また借金をした。ギャンブルで、勝てば全部オッケーだと思って、借金を賭けたけど負けまくったよ。借金を返すために借金をして、とうとう車を取られることになった。そんなことになったら……、家族に面目が立たない。だから、仕方なく……君の不利になるような、噂を……。君の通信網は回避して、ばれないようにして……。し、し、仕方なかっ……」


 また言葉は続かなかった。膝、股関節、膝の皿。穴が空いた場所が多すぎて押さえるのは諦めたようだ。両腕をだらしなく投げ出す。


「仕方なく、俺を裏切ったか? それで、誰に指示された。もうとぼけるなよ。そう指示したやつがいるんだろう」


「あ、ああ。じゅ、十二ページ。その、ファイル……。それと、あんたに頼まれてた記録の解析もすんでる……。十六ページに入ってる……」


 銃と視線を向けたまま、目の前の黒いファイルの十二ページを開ける。ご丁寧に今まで受けた仕事を全てファイリングしているとは。


 パッツィオファミリーのドン・ベッツィ。 表向きは政治家でフェンネルの敵でもある。


 フェンネルを揺さぶるために下請けの自分を攻撃したか。他のページも見てみる。今まで頼んだ仕事も記録してある。


 こんなの、もし政府のガサ入れがあったら有力証拠以外の何者でもなくなる。十六ページを開けてみると解析結果が入っている。何枚かの用紙に渡っている。


「も、も、もうどう。あんたのためなら……なんでもするよ。だから、頼む。見逃してくれ……。こんなことはしたくなかった……でも」


 ファイルを閉じて左手に持つ。


「君の家族には手を出さない」


 頭に風穴を作ってやるとワイオミングは後に倒れた。もうどうはm65のポケットから携帯を持ち出す。クリーニング屋に連絡して死体は保存しておくように言っておく。


 ギャンブラーは嫌いではない。何がなんでも勝ち残ってやろうという気概も悪くない。 だが、結局、良い方には転ばない。最終的に頭が吹っ飛ばないと、楽にはなれない。



 携帯に番号を入力する。


「シルビオ、仕事だ。住所を送るからそこに来てくれ」

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