表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/135

消えた影

宿を出た後、五人は街の中を歩いていた。


大きな街ではない。


石畳の道に、小さな商店や食堂が並んでいる。


朝の市場が開き始めていて、人の声がちらほら聞こえていた。


だが―― どこか空気が重い。


人々の表情は明るくなかった。


リリアは周囲を見ながら小さく言う。


「皆、少し怯えているみたいですね」


クラウスも同じことを感じていた。


「誘拐の話が本当なら無理もない」


ラルフは前を歩きながら周囲を観察していた。


「まず情報だ。市場を回る」


短く言う。


オスカーが頷く。


「聞き込みですね」


五人は自然に分かれた。


あくまで旅人として。


騎士だと気付かれないように。


市場の端。


リリアはガルムと一緒に歩いていた。


干した肉の店。


パン屋。


香辛料の匂い。


ガルムは静かに周囲を見ている。


「……匂いが変」


ぽつりと言った。


リリアが振り向く。


「匂い?」


ガルムは少し眉を寄せた。


「血の匂いがする」


リリアの胸が小さくざわついた。


「どこから?」


ガルムは鼻を動かす。


「……奥」


細い路地を見た。


リリアは少し考えた。


本来なら単独行動は禁止だ。



だが、すぐそこだった。


「少しだけ見ましょう」


ガルムが頷く。


二人は路地へ入った。


通りから少し離れただけで、急に静かになる。


人の気配が消える。


壁は古く、苔が生えていた。


奥に進んだ。


ガルムの耳が動いた。


「男が二人!」


リリアも気付いた。


奥に影が二つ。


旅人のような格好。


だが、目が合った瞬間、二人の男の表情が変わった。


「……!」


次の瞬間。



リリアの背後から腕が伸びた。


布が口に押し当てられる。


甘い匂い。


「っ……!」



意識が揺れる。


「お姉ちゃん!」


ガルムが叫ぶ。


だがもう一人の男がガルムを蹴り飛ばした。


ガルムの体が壁にぶつかる。


「……っ!」


視界が揺れる。


リリアは必死に剣へ手を伸ばす。


だが腕を押さえられた。


男が低く言う。


「こいつだ」


もう一人が頷く。


「連れて行け」


布の匂いが強くなる。


視界がぼやける。


最後に見えたのは――


必死に起き上がろうとするガルムの姿だった。


「お姉ちゃん……!」



声が遠くなる。



リリアの意識は闇に沈んだ。



数分後。


通りの反対側。


ラルフが足を止めた。


胸の奥がざわついた。


「……」


振り返る。


オスカーが気付く。


「どうしました」


ラルフの目が細くなる。


「リリアは」


クラウスが答える。


「ガルムと一緒に市場の奥を見に行っている」


その瞬間、遠くから声がした。



「……団長!」


ガルムだった。


息を切らしながら走ってくる。


顔が青い。


ラルフの胸が嫌な音を立てた。


ガルムはラルフの前で止まった。


「お姉ちゃんが……連れていかれた」



その瞬間、ラルフの空気が変わった。


温度が消える。


瞳が氷のように冷えた。


「どこだ」


低い声だった。


ガルムが震える指で路地を指す。


ラルフはもう走っていた。


オスカーとクラウスも続く。


だが、路地の奥にはもう誰もいなかった。


残っていたのは――


地面に落ちた、リリアの手袋だけだった。



ラルフがそれを拾う。


握る。


拳が震えた。


その目は、静かな怒りで燃えていた。


「必ず見つける」


低く呟く。



潜入任務は―― 完全に別の形へ変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ