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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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境界へ

夜明け前。


騎士団本部の裏門には、冷たい空気が流れていた。


空はまだ暗い。


東の空が、かすかに白み始めているだけだった。


吐く息が白く広がり、すぐに夜の空気に溶けていく。


数頭の馬が並び、その前に五人の姿があった。


ラルフ。

オスカー。

クラウス。

リリア。

そしてガルム。


潜入任務のため、全員が目立たない旅装。


装備も最低限だった。


剣も、普段の騎士団用ではなく、飾りのない実用的なもの。


騎士団の紋章もすべて外している。


見れば、ただの旅人にしか見えない。


リリアは手袋をはめ直す。


革の感触を確かめながら、剣の位置を整えた。


腰の重み。

鞘の位置。

抜く動作の感覚。


一つずつ確かめる。



服の内側に隠したネックレスが、胸元で小さく触れた。


無意識にそこへ手を当てる。


ほんの一瞬。


すぐに手を離した。


ラルフはその仕草を見ていたが、何も言わなかった。


今は任務が優先だった。


静かな緊張が、その場を包んでいる。


しばらくして――


「時間だ」


ラルフの静かな声が響いた。


全員の視線が集まる。


「国境までは三時間。

 正規の関所は使わない。旧交易路から森へ入る」


オスカーが続く。


「昨夜確認した限り、見張りは三人。交代は夜明け後。

 巡回の間隔も長い。今が一番抜けやすい」


ラルフが頷く。


「予定通り進む」


短い言葉。


それだけで空気が引き締まる。



今回の任務は潜入。


騎士団としての作戦ではない。


公式記録にも残らない。


見つかれば―― 外交問題になる。


最悪の場合、戦争の火種になる可能性すらあった。



ラルフは全員を見渡した。


その視線は、いつもの団長のものだった。


「森から先は敵地だ」


低い声が、冷たい朝の空気に落ちる。


一人ずつ目を見て言う。


「単独行動は禁止」

「情報優先」

「戦闘は最終手段」


「忘れるな」


全員が静かに頷いた。


誰も余計な言葉は発しない。


それぞれが馬に手をかける。


鞍に足をかけ、軽く体を持ち上げた。


リリアが跨った馬の前に、ガルムが座る。


慣れた動きだった。


小さな体が前に収まる。


ガルムは周囲を見渡していた。


金色の瞳が暗闇を見ている。


そして、ぽつりと呟いた。


「人、いる」


その一言で空気が変わり、全員が視線を向けた。


ガルムの瞳は門の外の暗闇を捉えていた。


「遠く」


少し首を傾ける。


「森に二人」


オスカーが小さく頷く。


「巡回ですね」


状況を確認する声だった。


ラルフは馬の手綱を握る。


「気を引き締めろ」


少しだけ間を置き


「出発する」



馬が動いた。



門が静かに開く。


蹄が石畳を打つ。


コツ、コツ、と乾いた音が朝の静寂に響いた。


やがて音は土の道へ変わる。


王都の灯りが、ゆっくり遠ざかっていく。


夜の空気の中へ。


森へ。



五つの影は、静かに消えていった。



潜入が――始まる。

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