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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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小さな約束

翌日。


騎士団の訓練場には、朝の冷たい空気が流れていた。


剣のぶつかる音。


掛け声。


土を蹴る足音。


いつもの騎士団の朝だった。



その端で、獣騎士隊の子供たちが集まっていた。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


最初に声をかけたのはラビィだった。


心配そうに見上げてくる。


リリアは少し困ったように笑った。


「もう大丈夫ですよ」


その横で、ガルムがじっとリリアを見ている。


鋭い金色の瞳。


「……まだ少し熱ある」


ぽつりと呟いた。


ジークが苦笑する。


「お前、よく分かるな」


ガルムは視線を逸らさない。


「魔力、まだ揺れてる」


その言葉にノルが眉を上げた。


「揺れてるって……そんなの分かるのか?」


ガルムは小さく頷く。


リリアは少し驚いた顔をした。


そして優しく微笑む。


「私も慣れていかないとですね」


その時だった。



「お姉ちゃん」


ラオが声を上げる。


「今日は訓練する?」


ネアも静かにこちらを見ている。


ラドラは少し不安そうだった。


昨日の炎のことを気にしているらしい。


リリアはその様子を見て、優しく笑った。


「今日は軽くにしましょう」


子供たちがほっとした顔をする。



ジークが腕を組んだ。


「副団長からも言われてるから、今日は様子見だ」


ノルも少し言いにくそうに言った。


「団長も……めちゃくちゃ怖い顔してましたからね」


リリアは苦笑する。



その時、訓練場の入口から声がした。


「怖い顔とは失礼だな」



全員が振り向く。


そこに立っていたのはラルフだった。


後ろにはオスカー。


団員たちが一斉に姿勢を正す。


ラルフはゆっくり歩いてくる。


その視線がリリアで止まった。


ラルフは少しだけ眉を寄せたが、何も言わなかった。


オスカーが口を開く。


「今日は軽めの訓練にしておこう。共鳴の確認だけ」



ガルムが一歩前に出た。


「僕、やる」


リリアは少しだけ迷った。


だが、ガルムの前に立つ。


「少しだけですよ」


ガルムは頷いた。



金色の瞳がリリアを見つめる。


静かな共鳴。


空気がわずかに震えた。


その瞬間――



ラオの身体が光る。


「うおっ」


ラオが驚く。


「力……強くなってる!」


ネアが静かに呟いた。


「やっぱり……」


ラビィが嬉しそうに言う。


「お姉ちゃんすごい!」


リリアは少し照れた。



ラルフは黙ってその様子を見ていた。


オスカーが小さく息を吐く。


「やっぱりですね」


ラルフは頷く。


「間違いないな」


そしてリリアを見た。



リリアの黒髪がふわりと揺れる。


見つめる瞳は、薄紫色に光っていた。


暖かい空気を纏い、その姿はどこか神秘的だった。



ラルフは一瞬、息を呑む。


そしてすぐに声をかけた。


「今日はここまでだ」


団員たちが散っていく。



リリアは帰ろうとするガルムに声をかけた。


「ガルム」


ガルムが振り返る。


リリアは優しく言った。


「もし、今後も昨日みたいなことが起きても、それはガルムのせいではありません」


ガルムが目を見開く。


「私に耐性がないからです。だから――」


リリアは微笑んだ。


「これからも一緒に練習しましょう」


ガルムの目が潤む。


「……うん」


昨日からずっと気にしていた。


それを、リリアはちゃんと分かっていたのだ。



ガルムは力強くリリアを見上げた。


「明日からも頑張るね!」


「はい」


リリアは優しくガルムの頭を撫でた。



獣騎士隊の子供たちも寮へ戻っていく。




やがて訓練場には、リリアとラルフだけが残った。


夕方の光が差し込んでいる。


しばらく沈黙。



ラルフがぽつりと言った。


「リリア、話がある」


リリアが顔を上げる。


「婚約の話だ」


リリアの目が丸くなる。


ラルフは少しだけ視線を逸らした。


「アンナの時は盛大にやっただろ。

 リリアも……ああいうのがやりたいか」


少し間が空く。



リリアはうつむいた。


「私は……」


大々的にやるのは、気がひけた。


けれどラルフの立場を考えると、そうも言えない。



ラルフはその表情を見て察した。


「もし、リリアが良ければ」


静かに言う。


「婚約式は身内だけの小さいものにするか」


リリアが顔を上げる。


ラルフは続けた。


「世間へのお披露目は、結婚式でやればいい」


リリアは驚いた。


「いいんですか?」


ラルフは穏やかに言う。


「無理せず、お前が喜んでくれる形にしたい」


リリアは言葉を失った。



少しして、小さく笑う。


「……はい」


その答えを聞いて、ラルフはリリアを抱きしめた。



愛おしそうに見つめ、そっと口づけた。



夕日の光が、二人を静かに照らしていた。

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