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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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守るための線

副団長執務室。


夜はすでに更けていた。


机の上には書類が積まれ、

ランプの灯りだけが部屋を照らしている。


その部屋の中央で――


リリアは、ラルフの膝の上に頭を乗せて、ソファーに横になっていた。


額には、冷たく絞ったタオルが乗せられている。


頬は少し赤く、呼吸もまだ少し荒い。


ラルフは静かにタオルを取り、もう一度水で濡らして絞る。


そしてまた額に乗せた。


その手つきは、驚くほど丁寧だった。


リリアは薄く目を開ける。


「……団長」


弱い声だった。


ラルフはすぐに視線を落とす。


「起きるな。まだ熱がある」


低く言う。


その様子を、少し離れた場所から二人が見ていた。


オスカーとクラウスだ。


オスカーは腕を組み、苦笑している。


「団長、そこまで過保護にしなくても死にませんよ」



ラルフの目が細くなる。


「黙ってろ」


短い返答だった。


クラウスはそれを見て、わずかに口元を緩めた。


だがすぐに表情を戻す。



「話を戻そう」


静かな声だった。


「今回の件だ」


リリアは少し身じろぎする。


ラルフの手が、そっと肩を押さえた。


「聞いているだけでいい」


リリアは小さく頷く。


オスカーが机に寄りかかった。


「昼間、ガルムの話では、練習するようになってローゼン卿に流す魔力量を増やしたそうです。

そして、ガルムの魔力と共鳴したということみたいです」


クラウスが腕を組む。


オスカーは続けた。


「他の獣騎士にも聞きましたが、ローゼン卿と共鳴すると能力が上がるとも言っていました」


ラルフがリリアに視線を落とす。


静かに言った。


「つまり―― リリアは獣人の魔力を引き上げる可能性がある」


クラウスの目がわずかに細くなる。


「それが事実なら、国家が放っておく能力じゃないな」



部屋が静かになった。



リリアの指が少し震える。


ラルフはそれに気づいた。


「気にするな。お前は何も変わらない」


リリアは少しだけ安心した顔をした。


オスカーが小さく息を吐く。


「問題はもう一つあります」


視線をリリアへ向ける。


「発熱です」


クラウスが眉をひそめる。


「共鳴の反動か」


「おそらく」


オスカーは頷いた。


「魔力の流れが急に増えたことで、身体が耐えきれなかったのでしょう」


そして静かに言う。


「これはまた起きると思います」


沈黙が落ちる。



ラルフはしばらく何も言わなかった。


リリアの髪を指で整える。


そして、静かに口を開いた。


「協力してほしい」


オスカーが少し驚いた顔をする。


クラウスも目を細めた。


ラルフは続ける。


「俺一人では目が届かない」


ラルフは少しだけ顔をしかめた。


「だが……他の男に触れられるのは気に入らない」



オスカーはため息をついた。


「ではどうしたいんです」


ラルフの眉間にしわが寄る。


「だから二人に頼んでる」


クラウスが淡々と言う。


「つまり」


少し整理するように言った。


「発熱時の対応は、この三人で管理するということでいいのか」


ラルフは頷く。


「そういうことだ」


オスカーは苦笑した。


「とんでもない役目ですね」


その時だった。


「……すみません」


リリアが小さく言う。


申し訳なさそうな声だった。


その瞬間。


ラルフの手が軽く頭を叩いた。


「謝るな。お前の問題は、もう俺たちの問題だ」


リリアは驚いた顔をする。


クラウスが静かに言う。


「その通りだ」



ラルフはもう一度タオルを直す。


そして小さく呟いた。


「とにかく、今は寝ろ」


リリアはゆっくり目を閉じた。


ラルフの膝の上で。


呼吸が少しずつ落ち着いていく。


部屋が静まり返った。



その静けさの中で、ラルフが小さな声で言った。


視線をオスカーへ向ける。


「副団長」


オスカーが軽く眉を上げた。


「さっきの箱の中身、分析を頼む」


オスカーは箱を見下ろした。


「わかりました」


ラルフは少しだけ表情を緩めた。


「お前も気を付けろよ」


オスカーは小さく笑う。


「ありがとうございます」


ラルフは今度はクラウスをみた。


「クラウス」


クラウスが視線を向ける。


「家の方は大丈夫か」


クラウスは落ち着いた声で答えた。


「両親が口を挟まぬように手は打ってあります」


ラルフは小さく笑う。


「さすがだ。仕事が早いな」


クラウスは平然とした顔をした。


「兄として当然だ」


ラルフは何も言わなかった。


ただ静かに、膝の上で眠るリリアを見ていた。


その瞳には――


守ると決めた男の色が宿っていた。

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