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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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揺らぐ魔力

王宮の会議室では、重い空気が漂っていた。


長い机を囲む貴族たち。


書類の擦れる音だけが静かに響いている。


その中央に、ラルフは座っていた。


宰相事件の後処理。

各地の報告。

そして隣国の動き。


話し合うことは山ほどあった。



だが――


(騎士団はどうしている)


ふと頭に浮かぶ。


今は休暇期間とはいえ、騎士団の動きは止まらない。


特に最近は、新しい部隊ができたばかりだった。



獣騎士隊。



リリアが統率長となった、あの子供たちの部隊。


ラルフは腕を組みながら、静かに会議を聞いていた。


一方その頃。


騎士団の訓練場では、剣の音が響いていた。



乾いた衝突音。

掛け声。

土を蹴る足音。



中央ではオスカーが腕を組み、団員たちの稽古を見ていた。


「踏み込みが甘い」


低く言う。


「もう一回」


団員が慌てて構え直す。


その横では――


獣騎士隊が集まっていた。


リリア、ジーク、ノル。


そして六人の獣人の子供たち。


今日は能力の確認をしていた。



ガルムが静かに言う。


「どこまで使えるか、確認した方がいい」


ラオが腕を鳴らす。


「俺、やってみる」


ネアは壁際で静かに立っている。


ラドラは少し緊張したように手を見ていた。


リリアは優しく頷く。


「順番にやりましょう」


最初はラオだった。


身体強化。



地面を蹴る。


次の瞬間。



「速っ」


ノルが声を上げる。


ラオの動きは、普通の騎士より速かった。


ジークが腕を組む。


「確かに強いな」



次はネア。


影が揺れる。


次の瞬間。



姿が消えた。


「……!」


リリアの後ろに現れる。


ノルが目を丸くした。


「影移動」


ネアは静かに頷いた。



そして最後。


ラドラだった。


ラドラは小さく息を吸う。


手を前に出した。


「……炎」


次の瞬間。



炎が噴き上がった。


「おい!」


ジークが叫ぶ。


思ったより大きい。


炎が壁に当たり、跳ね返る。



その軌道の先に―― リリアがいた。


「リリア!」


その瞬間だった。



ぱん、と空気が弾けた。


透明な膜がリリアを包んだ。


炎は弾かれ、消えた。



ラビィだった。


両手を広げていた。


「危ないでしょ!」


ラドラに怒る。


ラドラは小さくなる。


「ごめんなさい……」


まだうまく制御できていない。



リリアは膜の中から微笑んだ。


「ラビィ、ありがとう」


ラビィは少し照れた。


リリアはラドラを見る。


「ラドラ」


優しく言う。


「もう少し制御できるように練習しましょう」


ラドラは頷いた。


「うん……」


その時だった。


ガルムが近づいてきた。


「お姉ちゃん」


リリアを見る。


「僕の目、見て」


リリアは少し首を傾げた。


「ガルム?」


だが、その目を見る。


金色の瞳。



その瞬間―― ぐらり。



視界が歪んだ。


世界が揺れる。


「……っ」


膝が折れた。


リリアはその場にしゃがみ込んだ。


「リリア!」


ジークがすぐに駆け寄る。


リリアは目を押さえていた。


「……っ……」


立てない。


言葉も上手く出ない。


ジークはすぐにオスカーを呼んだ。


「副団長!」


オスカーが駆け寄る。


「どうした」


ガルムが慌てた。


「ごめんなさい!」

「僕の魔力流したら吸収できなかったみたいで……」


オスカーは少し考える。


リリアの呼吸を見る。


瞳の焦点。


「……魔力の反動か」


静かに言う。


「横になれば落ち着く」


ガルムは不安そうだった。


「本当に……?」


オスカーは優しく頷いた。


「大丈夫だ」


そう言って―― リリアを抱き上げた。




騎士団宿舎のリリアの私室。


リリアはベッドに横になっていた。


だが様子がおかしい。


「……っ」


呼吸が荒い。


額に汗。


身体が熱い。


オスカーは水を持ってきた。



「飲めるか」


だが焦点が合っていない。


オスカーは上半身を少し支える。


グラスを口元に持っていく。


少しずつ飲ませる。


水が口の端からこぼれた。


オスカーは指で拭った。


その瞬間。



リリアが無意識に手に触れる。


冷たい手を求めるように。


すり寄る。


オスカーの動きが止まる。


(……マジかよ)


困ったように息を吐く。



その時、リリアの呼吸がさらに乱れた。


頬は赤く、体温も上がっている。


オスカーは静かに立ち上がった。


「団長呼んでくる」




数分後。


扉が開いた。


ラルフとオスカーが部屋へ入った瞬間、二人は同時に足を止めた。


ベッドの上で、リリアがぼんやりと座り服を脱いでいた。


「……暑い……」


掠れた声。


おぼつかない手で、隊服のボタンを外している。


床には服が落ちていた。


ラルフが部屋に入ったときには、リリアは下着姿だった。


脱ぎかけのシャツが胸元まで落ちている。



ラルフの表情が変わる。


「こら」


低く言うと、すぐに駆け寄った。


さらに服を脱ごうとしているリリアの両手首を掴む。



「から……だ……あつ……い…の…」


リリアの瞳はとろんとしていた。


焦点も合っていない。


額には汗がにじみ、呼吸も少し荒い。


体の奥で魔力が暴れているようだった。



ラルフは小さく舌打ちする。


(魔力酔いか……)


その様子を見ていたオスカーは、苦笑しながら扉の方へ向いた。



「俺、外で待ってますね」


だがその時。


「まっ……て……」


弱い声。


リリアの視線が、オスカーを捕まえた。



ぼんやりした瞳で、じっと見つめている。


オスカーは足を止め、ため息をついた。



ラルフが呆れたように言う。


「誰におねだりしてるんだ」


声は低い。


ほんの少しだけ、苛立ちが混ざっていた。



オスカーが様子を伺う。


「団長、俺どうすればいいですか」


苦笑い。


ラルフとオスカーの視線が交わる。



短い無言の会話。



次の瞬間――



リリアの身体から力が抜けた。


ぐらりと揺れる。


「おい」


ラルフはすぐ腕を離し、体を支えた。


そのままゆっくりとベッドへ横にさせる。


リリアはすでに意識を失っていた。



静かな寝息。


ラルフは大きく息を吐いた。


「……まいったな」


「おそらく魔力酔いですね」


「だろうな」


ラルフは額を軽く押さえた。


「一緒にいたのがお前でよかったよ」


オスカーは肩をすくめる。


「これは対処を考えておいた方がいいかもしれませんね」


ラルフは頷いた。



そしてベッドの横に椅子を引き、静かに座った。


眠っているリリアを見守る。


しばらくして――


リリアの瞳がゆっくりと開いた。


「……ん……」


ラルフが顔を上げる。


「起きたか」


リリアは少し体を起こした。


「身体はどうだ」


「……ちょっと、だるいだけです」


ラルフはほっと息をついた。


そしてベッドの端に腰を下ろし、リリアの顔を見た。


その瞬間。



ラルフの眉が動く。



「リリア……瞳の色が変わったな」



「えっ?」



ラルフは机の上にあった鏡を取りに行き、リリアへ渡した。


リリアは恐る恐る覗き込む。



そこに映っていたのは―― 薄紫の瞳。



「団長……これ……」


驚いた声。


「魔力の影響かもしれないな」


その言葉に、リリアははっとした。


「ガルムは?」


「オスカーに任せた」


ラルフは少し間を置き、リリアを見た。



「それより、魔力酔いの時、覚えてるか?」



リリアは静かに記憶を辿った。


暑くて――

服を脱いで――

ラルフに止められて――


(……オスカーに……助けを……)



思い出した瞬間。


リリアの顔が固まった。



ゆっくりラルフを見る。


ラルフはリリアを見つめたまま言う。


「その顔は覚えてるんだな」


リリアは慌てて頭を下げた。


「す、すみませんでした……」


ラルフはぽん、と軽く頭を叩いた。


「今日はここで寝ろ。俺はまだ仕事だ」


そう言って立ち上がる。



部屋を出ようとした、その時。


後ろからリリアが抱きついた。


「お仕事、頑張ってください」


小さな声。


ラルフは振り向く。


リリアを抱きしめ返す。



そして少し目を細めた。


「その格好は誘っているのか」


リリアは真っ赤になる。


ラルフはくすっと笑い、唇に軽く口づけた。


「休んでろ」


そう言って部屋を出て行った。




騎士団の執務室。



ラルフは椅子に座り、額を押さえた。


さっきの光景が頭に残っている。


オスカーの前で、無防備なリリア。


守れるのは副団長だ。


だが――


ラルフは深く息を吐いた。



「……どうするか」


深く息を吐く。



頭を抱えたまま、しばらく動かなかった。

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