団長の決断
執務室の扉が開いた。
先に出てきたのはラルフだった。
その後ろにリリア。
そして最後にオスカー。
三人が並んで廊下へ出た瞬間――
騎士団の空気が、ぴたりと止まった。
廊下のあちこちに、団員たちがいる。
書類を運んでいる者。
武器の整備をしている者。
巡回から戻ったばかりの者。
だがその全員が、同時にこちらを見た。
そして――
一斉に視線を逸らした。
「……」
ラルフの目が細くなる。
明らかに、不自然だった。
オスカーが小さく笑う。
「団長」
「何だ」
「みんな気になってるんですよ」
ラルフは小さく息を吐いた。
「暇なのか」
その一言で、数人の団員が慌てて動き出す。
だが完全に誤魔化しきれていない。
ラルフは一歩前へ出た。
低い声が廊下に響く。
「全員、訓練場に集合」
その一言で、空気が引き締まった。
「五分だ」
騎士団員たちは一斉に動き出す。
「はっ!」
足音が廊下を駆けていく。
リリアは少し驚いたようにラルフを見た。
「団長?」
ラルフは答えない。
ただ、訓練場へ歩き出した。
リリアとオスカーも後に続く。
訓練場には、すでに団員たちが並んでいた。
整列。
静まり返っている。
ラルフはゆっくりと前へ出た。
視線が団員たちを一人ずつなぞる。
重い沈黙。
やがて、ラルフは口を開いた。
「ローゼン卿のことだ」
その瞬間、空気が変わった。
全員が息を止める。
ラルフは続ける。
「騎士団を辞めることはない」
ざわめきが広がる。
ノルが思わず声を上げた。
「えっ」
すぐにジークに肘でつつかれる。
「静かにしろ」
だが団員たちの表情は明らかに驚いていた。
ラルフは構わず続ける。
「ただし」
その声が一段低くなる。
「今まで以上の実力を求める」
誰も口を開かない。
ラルフは振り返った。
リリアを見る。
金色の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「守られる騎士はいらない、守れる騎士になれ」
リリアは背筋を伸ばした。
「はい」
はっきり答える。
ラルフは小さく頷いた。
そして団員たちへ向き直る。
「異論はあるか」
沈黙。
数秒のあと。
「ありません!」
誰かが叫んだ。
それをきっかけに声が上がる。
「ありません!」
「団長の判断に従います!」
訓練場に声が響く。
ラルフは満足そうに頷いた。
「ならいい」
短く言う。
そして一言。
「稽古を始めろ」
空気が一気に動き出した。
団員たちが動き出す。
だが―― 視線は時々、リリアへ向けられていた。
その中には期待も、驚きも。
そして―― わずかな敬意も混ざっていた。
オスカーはその様子を見て、くすっと笑う。
「団長」
ラルフが視線を向ける。
「ずいぶん思い切りましたね」
ラルフは腕を組んだ。
「最初から決めていた」
オスカーの眉が上がる。
「そうなんですか?」
ラルフは小さく息を吐いた。
「……あいつは止まらない」
視線がリリアへ向く。
訓練場の中央で剣を握っている。
その背中を見て、ラルフは言った。
「なら、強くさせるだけだ」
オスカーは肩をすくめた。
「団長も大概ですね」
ラルフは何も答えない。
ただ、リリアを見ていた。
その目は―― 団長のものだった。
だが同時に。
どこか誇らしげでもあった。




