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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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向き合う心

部屋に残されたのは、

オスカーとリリア、二人きりだった。



扉が閉まった音が、やけに大きく響く。


オスカーは珍しく、

言葉を選ぶように立ったまま固まっていた。



いつもなら、軽口の一つでもすぐに出るはずなのに。


リリアは、そっと彼を見上げた。


その瞬間、気づく。



ラルフと同じ場所。


唇の端に、薄く切れた傷。


胸がきゅっと締めつけられる。


ゆっくりと立ち上がり、オスカーの前まで歩み寄った。


「……副団長」


小さく呼ぶ。


そして、そっと手を伸ばした。


「痛いですか」


心配そうな顔で、傷に触れそうになりながら問いかける。


オスカーは一瞬目を細め、困ったように笑った。


「ああ……これか」


指先で軽く触れる。


「大したことない」


ラルフと、同じ答え。



その言葉で、すべてを察した。


(……私のせいだ)


昨夜のこと。

告白。

涙。


そして、あの沈黙。



「……すみませんでした……」


小さな声で謝る。


オスカーの表情が変わる。


「なんでお前が謝る」


低い声だった。


責める響きではない。


だが、強く、真っ直ぐな声。



リリアは俯いたまま、言葉を失う。


オスカーはしばらく黙っていた。



それから、ゆっくりと一歩近づく。


近い距離。


だが、触れない。


「謝るな」


静かに言う。



「俺は後悔していない」


その目は、揺れていなかった。



「これからも何かあれば、お前を守る。それは変わらない」


副団長としてではない。


一人の男としての決意だった。



リリアの胸が、締めつけられる。


オスカーは、ほんの一瞬だけ視線を逸らし、それから微笑んだ。


「ラルフと幸せになるんだぞ」



その言葉は、優しかった。


本当に。


リリアの頭に、大きな手が置かれる。


いつものように、軽く撫でる。



その温もりに、涙が込み上げそうになる。



「あー……こういうしんみりしたのは俺に合わないんだよな」


急に明るく言った。


無理をしているのが分かる。


けれど、それもオスカーらしかった。


「これからも副団長としてよろしくな」


そう言って、ふっと身をかがめる。


リリアの額に、軽く口づけた。


一瞬の、優しいキス。


リリアは目を見開く。


だが、嫌ではなかった。


むしろ、最後のけじめのように感じた。



「……はい」


優しく微笑んで答える。


オスカーは満足そうに頷き、扉へ向かった。



ドアを開ける。


そこに――


腕を組み、壁にもたれて立つラルフがいた。


視線がぶつかる。


沈黙。


オスカーはにやりと笑う。


「終わりましたよ。ありがとうございます」



軽い口調。


そして、


「あ、書類は明日までにくださいね」


「わかった」


短い返事。


オスカーはそのまま廊下へ消えていった。



ラルフは、しばらくその後ろ姿を眺めていた。


何も言わない。


だが、その瞳は静かに燃えていた。


扉を閉め、部屋へ戻る。


リリアの前まで歩み寄る。



「話せたか」


低く問う。


「はい」


リリアは小さく頷いた。


その雰囲気を、ラルフは一瞬で察した。


何を話したのか、すべては聞かない。


だが、分かる。


ゆっくりと、リリアを抱き寄せた。


強く。


逃さないように。


リリアの身体が、その胸に収まる。


「……ラルフ」


小さく呼ぶ。


返事の代わりに、唇が触れた。


最初は、優しく。


確かめるようなキス。


だが――


すぐには離れなかった。


指先が背に回る。


深くなる。


甘く、ゆっくりと息が絡み合う。


リリアの指が、ラルフの服をぎゅっと掴む。


「……ん……」


小さな声が漏れる。


ラルフの唇が、さらに重なる。


強い。


だが、乱暴ではない。


自分のものだと、確かめるようなキス。


独占するような、熱。


しばらくして、ようやく唇が離れる。



ラルフの金の瞳が、真っ直ぐにリリアを見つめていた。


ラルフは満足そうに微笑み、もう一度、優しく抱きしめた。



三人の関係は、終わっていない。



けれど―― それぞれが、覚悟を決めた日だった。

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