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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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爆発の時

ラルフとアンナは中央の大階段を登ろうとしていた。


大広間の視線はすべて二人に注がれている。


祝福、羨望、好奇 ―― 様々な感情が渦巻く中、ラルフはただ前を見据えていた。


その時だった。


リリアの視界の端で男の指が、服の内側へ滑り込むのが見えた。



心臓が大きく脈打つ。


ドクン ――


ドクン ――


(今……!)


リリアは壊れた令嬢のまま、わずかに指先を動かした。


他の誰にも気づかれないほどの小さな合図。


オスカーは見逃さず、身体が迷いなく動いた。


一歩で間合いを詰め、その男の腕を掴み上げる。



「なっ ―― 」


男の顔に明らかな動揺が走った。



「ジーク!」


鋭い声が飛ぶ。


「はい!」


ジークが反対側から飛び込み、男の肩を押さえ込んだ。


「ぐあっ!」


男の身体が床へと叩きつけられる。



同時に ――


「皆様、下がってください!危険です!」


ノルが叫び、貴族たちを誘導する。


ざわめきが一気に広がった。



「な、何だ!?」

「何が起きた!?」

「きゃあっ!」



悲鳴。

恐怖。

混乱。



ラルフは即座にアンナの腕を掴み引き寄せた。


「下がれ」


アンナは何も言わず従った。


階段の上では、王もまた王妃を庇うように抱き寄せ、護衛隊と騎士団の騎士たちがその周囲を固めていた。



ラルフの金の瞳が床に押さえつけられた男を射抜く。



その目はすでに騎士団長のものだった。


「何人いる」


男は歯を食いしばり、吐き捨てた。


「言うわけないだろう……!」

「くっ……離せ!」


「動くな」

オスカーの声は氷のように冷たかった。


抵抗する男の服の内側へ手を入れ、小さな金属の装置を取り出した。


それを見た瞬間、オスカーの目が変わる。


「……やはりか」



起爆装置。


その言葉が意味するものを理解した瞬間空気が凍った。



「ば、爆弾……!?」


誰かが叫ぶ。


恐怖が一瞬で広がった。



騎士たちが即座に動き、貴族たちの避難を開始する。


「こちらへ!」

「急いでください!」



「 ―― きゃあああっ!!」


悲鳴が聞こえた瞬間、リリアめがけて数人の黒い影が飛び込んできた。


剣が振り下ろされる。


「っ!」


リリアは咄嗟に、近くにいた騎士の腰から剣を抜き取った。



キィン!!


激しい金属音が響き渡る。


受け止めた。


壊れた令嬢ではない。


騎士の動きだった。



男が驚愕に目を見開く。


「なっ ―― 」


リリアは踏み込み、そのまま剣を弾き上げた。


そして ―― 反撃。


鋭い一閃。


男達の剣が床に落ち、倒れ込んだ。


騎士たちが飛び込み、倒れた男達を取り押さえた。



その場にいた貴族たちが息を呑む。


「……あれが……壊れた令嬢……?」

「嘘……だろ……」


誰かが、呟いた。



リリアは肩で息をしていた。


「お姉ちゃん!」


ガルムの声。


手が握られると同時に ―― 映像がリリアの頭の中に流れ込んだ。



(――っ!!)



爆弾がもう一つ。


柱の影。


時限装置。


(まだ……ある!)



リリアは急いで叫んだ。



「今すぐここから離れて避難してください!!」



その声は壊れた令嬢のものではなかった。


騎士の声だった。



貴族たちが一斉に出口へ向かう。


王族もまた護衛に囲まれながら会場の外へと誘導されていく。



ラルフが最後に振り返った。


リリアを見ると目が合った。



次の瞬間――


カチ。

カチ。

カチ。

音。



リリアの血の気が引いた。



( ―― 来る)



映像で見た音。



「急いでください!!」


(――間に合った)


会場の扉が閉まった瞬間だった。


―――― ドォォォンッ!!!!



爆発。


凄まじい轟音。


爆風が大広間を飲み込んだ。



「 ―― っ!!」


リリアの身体が吹き飛ばされる。


柱に叩きつけられた。


鈍い衝撃。


肺から空気が抜ける。


「……ぁ……」


視界が揺れ、床に崩れ落ちた。


遠くで誰かの叫び声が聞こえた。


「リリア!!」


ラルフの声だった。



だが ――



リリアの意識はゆっくりと闇へ沈んでいった。

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