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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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越えてしまった夜の先

朝の光が静かに部屋へ入り込んでいた。


薄く差し込む光が、白いシーツの上に影を落とす。


オスカーは目を覚ました瞬間、自分の腕の中の感触に気づいた。


柔らかく温かい。


一瞬、現実が理解できなかった。


だが ―― 視線を落とした瞬間、すべてを思い出した。



リリアが眠っている。


何も身に着けていないまま。


白い肌が、無防備に晒されている。


自分の腕の中で。



「……っ」


息が止まる。


触れた感触。


縋るように掴まれた指先。


漏れた声。


震えた身体。



そして ――


何度も。


何度も。


自分が止まらなかったこと。



「……っ」


血の気が引き、手が震えた。


(俺は……何を……)


理解した瞬間、吐き気にも似た感覚が込み上げる。


やってはいけないことをした。


絶対に越えてはいけない一線を、自分の意思で踏み越えた。


守り、支えるべき相手を。


自分の欲で ――


「最低だ……」


かすれた声が漏れた。



その時だった。



「……副団長……」


小さな眠気の残った声。


リリアの瞼がゆっくりと開いた。


視線が合う。


数秒。


時間が止まったようだった。



オスカーは弾かれたように身体を離した。



「……すまない」


即座に言った。


声が震えていた。


「本当に……すまない」


ベッドの上で頭を下げた。


副団長としてではなく。


ただの男として。



「……謝って許されることじゃない」


拳を握る。


「お前を守る立場の俺が……」


言葉が詰まる。


続けられなかった。


怖かった。


彼女が自分をどう見ているのか。



沈黙。


長い沈黙。



リリアは何も言わなかった。


ただ布団を胸元まで引き寄せ俯いていた。



そして小さな声で言った。


「ごめんなさい……」


オスカーは顔を上げた。


「何でリリアが謝るんだ」


思わず強く言った。


リリアは少しだけ視線を上げた。


「私……」


言葉を探すように、唇が震える。


「副団長が……辛そうに見えたんです」


オスカーの呼吸が止まる。


「私も……寂しくて……逃げませんでした」


責めるでもなく、許すでもなく、ただ事実を口にしただけの正直な言葉だった。



オスカーの胸が強く痛んだ。


彼女は自分を罰しなかった。


責めなかった。


ただ自分の弱さを認めていた。



オスカーはゆっくりと近づいた。


そしてリリアを抱きしめた。


壊れ物を扱うように。


強くはないけれど、確かめるように。


「……もうこんなことは二度としないと誓う。ごめん」


その声は掠れていた。



だが次の瞬間、オスカーはリリアの唇に口づけた。



リリアの目が見開かれる。


驚き、身体を離そうとするとオスカーの手がそっと頬を包んだ。



「……今だけ。嫌か?」


囁くように言った。


リリアは一瞬だけ迷い、そして目を閉じた。


唇が再び重なる。


今度は昨夜とは違う。


激しさではなく、確かめるような甘く優しいキスだった。


舌がゆっくりと触れ、絡む。


リリアの呼吸が、わずかに乱れる。


拒めなかった。


拒まなかった。


ただその口づけを受け入れていた。



朝の光の中で。



二人はもう戻れない場所に立っていた。

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