表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/141

崩れる均衡

夜もすっかり更け、王宮の灯りもまばらになった頃だった。


オスカーの執務室には、まだ灯りがついていた。


机の上に広げられた王宮の見取り図。


その上に身を乗り出すようにして、リリアは視線を落としていた。



「……ここが爆弾の位置……」


小さく呟く声はかすれていた。


何度も見て、何度も書き直した印が紙の上に重なっている。



(どうすれば防げる……)


ラルフを守るために。


そして誰も死なせないために。


考え続けていた。



だが思考は限界に近かった。


オスカーはしばらくその背中を見ていたが、何も言わず部屋を出た。



そして戻ってきた時、手には軽食と紅茶があった。



「ローゼン卿」


呼ぶが返事はない。



「……ローゼン卿」


それでも反応はない。


オスカーは小さく息を吐き、彼女のソファー横にしゃがみ込んだ。



「リリア」


名前で呼ぶ。


その瞬間、リリアの肩がびくりと揺れた。


はっと顔を上げる。


「……副団長」


「やっとこっち向いたな」



わざとらしく言うと、リリアは申し訳なさそうに俯いた。



「……すみません」


「謝るな」


そう言って頭に手を置くと軽く撫でた。


「休憩も任務のうちだ」


そしてテーブルに軽食を置いた。


「とりあえず食べろ」


「……ありがとうございます」


リリアは素直に手を伸ばした。


小さな口でゆっくりと食べる。


その姿を見ながらオスカーは思った。


(本当に小さな動物みたいだな……)



守られるべき存在なのに、必死に守る側に立とうとしている。


食べ終え、紅茶を飲んだ頃。



オスカーが聞いた。


「何を悩んでる」


リリアは見取り図を指差した。


「爆発を防ぐ方法と……招待客の避難経路です」


真剣な目だった。


「誰も死なせたくないんです」


その言葉に、オスカーの胸がわずかに痛んだ。


「……なるほどな」


しばらく考えた後、指を伸ばす。


「ここを封鎖して、導線を変えれば」


「……あ」


リリアの目が開く。


二人はそのまま話し続けた。


時間を忘れて。



やがて。


「今日はここまでだ」


オスカーが言った。


「でも……」


言いかけた瞬間、身体が浮いた。


「きゃっ……」



オスカーに抱き上げられていた。


「副団長!?」


「強制終了だ」


意地悪く笑う。


「このままだと倒れるぞ」


連れて行かれたのは、隣の寝室だった。


「副団長……自分の部屋に戻ります」


「子供達が寝てる」


「一緒に……」


「今日はここで寝ろ」



有無を言わせなかった。


浴室の前で下ろす。


「シャワー浴びてこい」


そう言って背を向けた瞬間、袖が引かれた。


振り返ると、リリアが俯いたまま彼の腕を掴んでいた。


「どうした」


オスカーが聞くと、彼女は恥ずかしそうに視線を泳がせた。



一瞬で理解した。



「後ろ向け」


彼女が背を向けると、慣れた手つきでドレスの細かなボタンを一つずつ外していく。


指先が触れるたび、リリアの身体が小さく震えた。


だがオスカーはそれ以上何もせず、最後のボタンを外すとすぐに手を離した。


「終わった」


それだけ言って、部屋を出て行った。


リリアは小さく息を吐いた。


(……副団長は本当に……)


何も言わなくても、全部察してくれる。


優しさに胸が締めつけられた。



シャワーを浴び終えて戻ると、柔らかなナイトドレスが用意されていた。



それに袖を通し、寝室へ戻る。


オスカーはすでに隊服の上着を脱ぎ、シャツ姿だった。


リリアを見ると、何も言わずにタオルを手に取った。



「座れ」


素直に従うと、後ろから優しく髪を乾かしてくれる。


指が髪を梳くたび、胸が静かに温かくなった。


「先に寝てろ」


そう言ってベッドに横にさせられる。



リリアは抵抗する気力もなく、そのまま目を閉じた。


安心していた。


副団長がいる ―― それだけで。




どれくらい眠ったのか分からない。


ふと目を覚ますと、部屋はまだ暗かった。


視線を動かすと、ソファーに座るオスカーの姿が見えた。


グラスを手に、一人で酒を飲んでいる。


その横顔が ―― なぜかとても寂しそうに見えた。



リリアは静かにベッドを降り、彼の元へ歩いた。


「……副団長」


小さく呼ぶ。


オスカーの肩がびくりと揺れた。


「……起こしたか」



「いいえ」


少し迷ってから言った。


「……大丈夫ですか」


オスカーは一瞬だけ驚いた顔をして ―― そして笑った。


「ああ」


だが、その笑顔はどこか弱かった。



気づいた時には、リリアは彼の頭を撫でていた。


子供をあやすように。


その瞬間 ―― オスカーの手が伸びた。



リリアの腰を掴み、そのまま膝の上に座らせる。


「……副団長……?」


そして強く抱きしめ、顔を彼女の肩に埋める。


「少しだけ……このままでいさせてくれ」


初めて見る姿だった。



副団長ではない。


一人の男の姿だった。



リリアは何も言わず、彼の髪を撫で続けた。



やがて。



「……ありがとう」


小さく呟いた後、


「冷えるな。ベッドに戻れ」


そう言ったが、腕は離れなかった。


オスカーは俯いたまま動かない。


「……副団長」


呼んだ瞬間だった。



オスカーはリリアの身体を抱き上げ、そのままベッドへ下ろした。


ベッドが沈み、すぐに唇が重なる。


深く触れたのは一瞬だけだった。



次の瞬間には、指先が彼女の奥を探り当てていた。


迷いのない動きだった。


触れられた瞬間、リリアの身体がびくりと跳ねる。



「……っ、あ……」


逃げ場を失ったように、力が抜けていく。


与えられる感覚に抗えない。


リリアはすぐに波に襲われた。


肩で息をする。


熱を帯びた身体が、小さく震える。



だが ―― それで終わらなかった。


オスカーは止まらない。



そのまま、さらに深く触れていく。


そしてオスカーは自制を越えてしまった。



「……あっ……まっ…て……!」


息が詰まる。


身体の奥を満たされる感覚。


オスカーは動きを緩めない。


正確に反応のいい場所を何度も突いた。


何度も何度も終わらない。


「……もう……むり……」


掠れた声。


それでも止まらない。


「……いや……ぁっ」


逃げようとした身体を逃がさない。


リリアが逃げ出そうとすると掴み戻され、さらに激しく追いたてられた。


「……オス…カー……んっ……ぁっ……」


繰り返される波に、身体が何度も震えた。


やがて ―― 外がわずかに白み始めていた。



オスカーは荒い息を吐き、動きを止めた。



そのまま力を失ったように隣へ倒れ込む。


リリアは動かない。


ただ、静かな寝息だけが聞こえていた。



オスカーも目を閉じる。



二人はそのまま眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ