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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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白銀の導き

夜明け前の空気は肺を刺すように冷たかった。


まだ空は薄暗く、野営地は静まり返っている。


焚き火の残り火が、かすかに赤く燻っているだけだった。


リリアはゆっくりと目を覚ました。



理由は分からないが胸の奥がざわついていた。



落ち着かない。



毛布から抜け出し、外へ出ると白い息が静かに空へ溶けていった。



少し離れた岩の上に、小さな影が立っているのが見えた。



白銀の髪に同じ色の耳と尻尾。


昨夜助け出した、オオカミの獣人の少年だった。



少年は微動だにせず、山の奥を見つめていた。


風が吹き、銀の髪が揺れる。



「おはよう」


リリアはできるだけ優しく声をかけた。


少年の耳がぴくりと動く。


ゆっくりと振り返った。


金色の瞳。


その瞳を見た瞬間リリアは息を呑んだ。


怯えではない ―― これから起こることを知っている目だった。




「早いね」


そう声をかけた瞬間、少年の顔が強張った。


「お姉ちゃん……」


声が震えていた。


「今すぐここから移動しないと」


嫌な予感が背筋を走る。


「みんな、死んじゃう」



「……え」


理解が追いつかない。


だが少年は叫んだ。


「早く!!」


その声には、迷いがなく確信があった。



リリアは急いで走り、ラルフのテントを開ける。



「団長!」


中にいたラルフとオスカーが同時に顔を上げた。



「どうした」


リリアは息を整える間もなく、少年の言葉を伝えた。


沈黙が落ちる。


ラルフとオスカーの視線が交わされた。


短いが十分な時間。


ラルフとオスカーがテントから出ると声を上げた。


「総員、起床! 即時撤退する」


理由は説明しないが誰も疑問を口にしなかった。


「荷物は持つな。そのまま退避」


騎士団は迅速に移動を開始した。


少し離れた林へ。



そしてあえてテントも、焚き火跡も、そのまま残した。



罠のように。




しばらく様子を伺っていると、黒い影が現れた。


複数人が音もなく野営地へ近づき ―― 火を放った。


炎が一気に燃え上がる。


テントが焼け落ちる。


誰もいないことを確認すると影は山の奥へ消えていった。


林の陰からそれを見ていたオスカーが小さく言った。


「追いますか」


その時、白銀の少年が首を横に振った。



そしてリリアの前へ歩いてくる。


小さな手を差し出した。


「……見て」


リリアはそっとその手を握った瞬間 ―― 映像が流れ込んできた。



炎。

黒装束の男。

山道。

小屋。

地下。

拘束具。



「――っ!!」


咄嗟に手を離した。


膝が崩れ、呼吸が乱れる。


「はぁ……はぁ……!」


オスカーが支えた。


「大丈夫か」


「……はい……」


リリアは確かに見えた。



「山の中腹に……小屋があります」


声は震えていたが、瞳は強かった。



ラルフの空気が変わった。


「行くぞ」


それだけ言い、騎士団は移動を開始した。


やがて小屋が見えるとラルフが手で合図をする。



突入。


戦闘は短時間で終わった。



敵は制圧された。



地下室。


そこにあったのは証拠の数々だった。


拘束具。

鎖。

小瓶の薬。

売買記録。


そして、一枚の書類にリリアの手が止まる。



ローゼン家の紋章。

そして名前は ―― クラウス・ローゼン



リリアの瞳がわずかに見開いた。


平然とした顔のまま。


これから起こる不穏な空気を静かに感じ取っていた。

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