見つけた先で
洞窟の奥から聞こえた微かな物音に、ラルフの足が止まった。
静寂の中、確かに人の気配がある。
生きている。
そう確信した瞬間 ―― 奥の闇から人影が現れた。
「 ―― 団長」
ラルフの視界にリリアの姿が映る。
隊服は破れ、煤や土で汚れ、頬にはかすり傷。
それでも ―― しっかり立っている。
生きている。
その事実だけで、胸の奥に詰まっていたものがわずかにほどけた。
だがラルフは駆け寄らなかった。
その視線は ―― リリアの背後へ向いた。
そこに並ぶのは、鉄の檻。
その中にいる小さな子供たち。
痩せ細り、怯えきった目で、こちらを見ている。
空気が一瞬で変わった。
ラルフの表情から個人的な感情が消える。
完全に ―― 団長の顔だった。
「副団長」
低く呼んだ。
「解錠しろ」
命令だった。
「了解」
オスカーは即座に動いた。
剣を抜き、鍵の部分へ叩き込む。
金属が歪み、砕ける音。
一つ。
また一つ。
檻が開いていく。
「大丈夫だよ」
オスカーができるだけ柔らかい声で言った。
「もう安全だ」
子供たちは、恐る恐る外へ出てきた。
一人の子供がラルフを見上げた。
耳があった。
人ではなく、獣人だった。
ラルフが険しい顔をした。
アルトシュタイン王国にはいない種族。
つまり ―― 攫われてきた。
それだけで十分だった。
ラルフの中で、敵の罪は確定した。
その時、小さな声が言った。
「……こっち」
獣人の子供がラルフの隊服の端を引っ張った。
「出口、ある」
「出口を知ってるのか」
ラルフが聞いた。
子供は頷いた。
「風、流れてる」
匂いではなく、風。
それでも十分だった。
「案内しろ」
子供たちは迷いなく歩き出す。
リリアやジーク達がその後に続く。
「ローゼン卿」
ラルフが団長として声をかけた。
リリアが背筋を伸ばす。
「怪我は?」
「私は軽傷です」
騎士としての返答。
数秒の沈黙の後、ラルフはノルへ目を向けた。
「フェルスナー卿はどうだ?」
「なんとか動けます」
ノルは青白い顔で答えた。
顔色は悪いが、生きている。
ラルフは無言で頷いた。
ノルはその視線の意味を理解した。
よく生きていた。
そう言われているのと同じだった。
それが嬉しかった。
同時に ―― 悔しさが込み上げた。
自分は守られた側だ。
守ったのは、リリアだった。
ノルは強くなりたいと心の奥底で感じていた。
オスカーはそのやり取りを見守っていた。
任務はまだ終わっていない。
ラルフの背中からは、ほんのわずかに張り詰めていたものが消えていた。
そしてリリアは、その背中を眺めながら歩いていた。
生きて、再びその背を見上げている。
それだけで今は幸せだった。




