閉ざされた先にあるもの
雪崩の危険地帯から離れた岩場で、騎士団は一度足を止めた。
風は弱まっていたが、冷気は依然として鋭い。
ラルフは崖の方向を一度だけ見た。
霧に覆われ何も見えない。
表情は変わらなかった。
「ここを野営地点とする」
低く静かな声だった。
動揺は微塵もない。
「野営班と捜索班に分ける。捜索は、私と副団長が指揮を執る」
その言葉にジークが顔を上げた。
「俺も行きます」
即答だった。
ラルフは視線だけを向ける。
数秒。
「許可する」
ジークは強く頷いた。
ラルフはそれ以上何も言わなかった。
(……生きていてくれ)
表には一切出さずに、それだけを心の中で繰り返していた。
その頃 ―― 洞窟の奥でリリアは煙の流れを見つめていた。
「……こっちです」
煙は壁の隙間へ吸い込まれている。
ノルも気づいた。
「穴……?」
だが人が通れる大きさではない。
拳ほどの隙間だった。
リリアは周囲の大きめな石を拾った。
「広げます」
迷いはなかった。
石を叩きつける。
鈍い音。
ノルも反対側から崩し始めた。
「……っ」
呼吸が荒くなるが止めなかった。
少しずつ壁が崩れていく。
土が落ち、石が転がる。
そして ――
「……開きました」
人がようやく通れる隙間が現れた。
二人は顔を見合わせる。
言葉はなかったが進む以外の選択はなかった。
リリアが先に入る。
狭く暗い。
冷たい空気が流れている。
奥へ。
奥へ。
やがて ―― それは現れた。
「……っ」
ノルが息を呑んだ。
鉄でできている重厚な扉が現れた。
古そうだが確かに使われている形跡がある。
リリアはゆっくりと手をかけた。
ノルも構え目で合図する。
―― ゆっくりと開ける。
軋む音が響き、扉が開いた。
その瞬間、二人は言葉を失った。
いくつも並ぶ檻。
その中に ―― 人がいた。
子供たち。
痩せ細った身体。
怯えた目。
リリアたちを見て、顔を上げている。
「……なんで……」
ノルの声が震える。
リリアも動けなかった。
山中のこんな場所になぜ子供が。
一人の少女が震える声で言った。
「……たすけて……」
その声を聞いて、リリアの中で決まった。
ゆっくりと前へ進んだ。
騎士として守るために。
捜索は困難を極めていた。
雪に覆われた崖。
霧は深く、足場は不安定だった。
「……痕跡がない」
ジークが低く呟く。
焦りが滲んでいた。
オスカーは答えない。
代わりにラルフを見た。
ラルフは崖の縁に立って下を見ている。
「ここを降りる」
ラルフが言った。
誰も反論しない。
できなかった。
ジークは歯を食いしばった。
「お供します」
それだけ言った。
ラルフは一度だけ頷いた。
「ロープあるか」
オスカーは小さく息を吐いた。
「俺も行く」
ラルフは否定しなかった。
ロープを固定し、慎重に降りていく。
雪が崩れ、足場が滑る。
だがラルフの動きに迷いはなかった。
やがて ―― ラルフの足が岩棚に触れた。
「……」
視線を動かすと、雪の上に足跡があるのが目に入った。
ラルフの目が見開かれた。
「……いた」
小さく呟いた。
オスカーとジークが降りてくる。
「二人は ―― 」
言葉が止まる。
足跡は洞窟へ続いていた。
消えず、雪に埋もれてもいなかった。
「……生きてる」
オスカーが呟いた。
「行くぞ」
それだけ言い洞窟へ入る。
暗く静かだった。
奥へ進むと空気が違う。
ラルフの耳が何かを捉えた。
微かな音。
人の声。
「……誰か……」
小さな声が確かに聞こえた。
ラルフの足が止まる。
心臓が一度だけ強く打った。
その声は ―― 知っている声だった。
間違えるはずがない。
ラルフは声を確かめるように一歩前へ踏み出した。
闇の奥へ。
そして ―― その先に影が見えた。




