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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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夜のあとで

リリアはゆっくりと目を覚ました。


最初に見えたのは暗い天井だった。


ぼんやりと焦点が合う。


窓の外はまだ暗かった。


どれくらい眠っていたのか分からない。


身体がひどく重い。


指先ひとつ動かすだけで、遅れて感覚がついてくる。


(……ここは……)


思考が追いつかないまま、ゆっくりと顔を横へ向けた。


反対側に誰かの気配を探す。



「起きたか」


ラルフが気付くと同時に、頭を優しく撫でられた。


リリアの身体がびくりと揺れる。



ヘッドボードに上半身を預け、書類の束を手にしている。


片手で紙をめくりながら、もう片方の手でリリアの髪を撫でていた。


何事もなかったかのように。


「……だん……ちょう……」


声がうまく出ない。


舌が重い。


自分の声ではないみたいだった。


ラルフがふっと笑う。


「ん? どうした」


優しい声だった。


さっきまでの威圧はどこにもない。


リリアは答えようとして ―― 代わりにラルフの服を掴んでいた。


指に力が入らない。


それでも縋るように脇腹へ顔を寄せる。


自分でも、なぜそんなことをしたのか分からない。


ただ ―― 離れたくなかった。


ラルフは一瞬だけ目を見開き、そして困ったように笑った。


(……無意識だな)


分かっている。


本人に甘える意識はないのだろう。


ただ安心できる場所へ寄ってきただけだ。



それでも ―― 愛しくて仕方なかった。


リリアの髪を撫でながら声をかける。


「まだ深夜だ。もう少し寝るか?……それとも風呂に入るか」


リリアは目を閉じたまま、


「……おふろ……」


小さく答えた。


「分かった。待ってろ」


ラルフはベッドを降り、浴室へ向かい湯を張った。


湯気が立ち始めたのを確認してから、戻ってきた。


ベッドの上のリリアをそっと抱き上げる。


何も身につけていない身体は驚くほど軽かった。


浴室へ運び、そのまま湯船へ下ろす。


温かさに包まれた瞬間、リリアの身体から力が抜けた。


「……はぁ……」


小さな吐息。


その顔を見て、ラルフも一緒に浴槽へ入った。


後ろから抱き込むように腕を回す。


リリアの身体がぴくりと固まるとラルフは苦笑した。


「熱くないか? 今さらそんなに緊張するな」


冗談のように言う。


リリアは何も答えられなかった。


少しずつ意識が戻ってくる。



同時に ―― 記憶も戻ってくる。


恥ずかしさ、戸惑い、混乱。


様々な感情が胸を満たす。



そして、恐る恐る聞いてみた。


「……団長……」


「ん?」


「もう……怒ってないですか……」


ラルフは一瞬だけ黙った。


そして、


「元々、怒ってはいない」


そう答えた。


リリアは安堵の息を吐いた。


それなら、なぜあんな顔をしていたのか。


あんな空気を纏っていたのか。



その疑問をラルフは察した。


小さく笑って、


「男の嫉妬だ」


そう言った。


リリアは目を見開いた。


意味を理解するのに時間がかかった。


湯船の中で顔が熱くなる。


その後、ラルフはリリアを湯船から出し、身体を拭き、用意していた服を着せた。



暖炉の前のソファーへ座らせる。


軽食を口元へ運ぶ。


「食べろ」


リリアは素直に口を開けた。


ゆっくりとした時間が流れる。


何も起きない時間。



やがて、ラルフは再びリリアを抱き上げ、ベッドへ戻した。


布団をかけ額に口づける。


「ゆっくり寝ろ」


低く優しい声で。


「おやすみ」


ラルフも隣へ入る。


だがすぐに上半身を起こし、書類を読み始めた。



リリアはなぜか寂しくなった。


迷惑をかけたくない。


だから何も言わない。


ただ ―― 少しだけ近づいた。


本当は抱きつきたかった。



その時だった。


ラルフが小さくため息を吐くと、リリアの身体が強張る。


(……また迷惑を……)


そう思った瞬間。


書類が横に置かれた。


ラルフが横になる。


そしてリリアを胸の中へ抱き寄せた。


「眠れないか」


頭を撫でる。


寝かしつけるように。


リリアの目がゆっくり閉じていく。



しばらく経った時 ―― ラルフが小さく呟いた。



「……リリア、愛してる」



リリアの心臓が大きく跳ねた。


寝ていると思ったのだろう。


だから言ったのだ。


本音を。



リリアは顔を埋めたまま小さく答えた。


「……私も……」


声にならない声だった。


だがラルフは聞き逃さなかった。


身体を離しリリアの顔を覗くと目が合う。


「本当か」


真剣な声だった。


リリアは恥ずかしそうに、逃げずに言った。


「……大好きです」



その瞬間、ラルフは強く抱きしめた。


何も言わずに。


ただ失わないように。


二人はそのまま眠りについた。


夜が明けるまで、互いの体温を確かめるように。

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