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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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近すぎた代償

ラルフは無言のまま、リリアを肩に担いで歩いていた。


王宮の長い廊下。


すれ違う使用人たちが、次々と足を止める。


騎士たちも同じだった。


誰も声をかけない。


かけられない。


ラルフから放たれる威圧が、あまりにも重かった。


怒り。


それとも ―― それ以外の何か。


そのすべてを押し殺した背中だった。


リリアは肩の上で小さく息を潜めていた。


(……怒ってる)


はっきりと分かる。


触れている手がいつもより強い。


乱暴ではないが優しくもない。



やがて扉が開く。


ラルフの私室だった。



中へ入り ―― 重い音を立てて閉まる。


その音が、外界との繋がりを完全に断ち切った。


ラルフはそのまま部屋の奥へ進み、リリアをベッドへ降ろした。


少しだけ乱暴に。


「……っ」


息が漏れる。


リリアは恐る恐る顔を上げた。


ラルフが見下ろしていた。


瞳だけが異様に鋭い。


怒っている……そう思った。



「何か言うことは」


低い声だった。


逃げ場のない声。


リリアは慌てて身体を起こした。



「もっ……申し訳ありませんでした」


声が震える。


手を強く握る。



(やりすぎた……)



王族を跪かせた。


団長を皆の前で。



沈黙が落ちる。



ラルフが近づき、リリアの顎に手をかける。


逃げられないように顔を上げさせる。



「俺を跪かせた感想は」


「……っ」



言葉が出ない。


ラルフの口元が歪む。


笑っている。


だが ―― 優しさのない笑みだった。



「今日はたっぷりお仕置きしないとな」


その言葉と同時にリリアの手首が掴まれる。



次の瞬間、紐が巻き付いていた。


騎士が罪人を拘束する時に使う紐だった。


「……え」


理解が追いつかない。


ラルフは無言で縛る。


そして ―― へッドボードの装飾へ結びつけた。



腕が上へ引き上げられる。


仰向けにさせられ完全に動けなくなった。



「団長……」


声が小さくなる。


ラルフの返答はない。


次に布が視界を覆った。


目隠し。


暗闇で何も見えない。


何も分からない。


行動も、視界も、奪われた。


恐怖がじわりと広がる。



(……捕まったの……?)


心臓が速くなり、呼吸が浅くなる。


ラルフの気配が近づくと耳元で囁いた。


「まだ仕事が残っている。また後でな」


リリアの身体が小さく震えると布団が掛けられた。


足音。


扉が開き、閉まる。


リリアは一人になった。


「……団長……」


返事はない。



静寂だけが残った。



扉の外。


ラルフは数歩進み止まった。


壁に手をつくと、石の冷たさが掌へ伝わる。


息が乱れていた。


細い指を思い出す。


自分の頬に触れた感触。


震えていた目。


逃げなかった。


「跪きなさい」


あの声。


「……まいったな」


低く呟く。


あれは任務だと分かっている。


必要な演技だった。


理解している。


理解しているのに、胸の奥がざわついている。



「無事でよかった」


本音だった。


リリアは止まらず突っ走る。


自分を顧みない。


だからこそ…… 分からせなければならないと思った。


危険と恐怖を。


自分が何をしたのかを。


だが不安に揺れたあの目を見た瞬間、理性が揺らいだ。


気づけば縛っていた。


守るためなのか、罰するためなのか。


自分でも分からなかった。



「俺は何をしている……」


小さく吐き捨てる。


拳を握り、壁を叩きたい衝動を必死に抑える。


しばらくして、ゆっくりと息を吐いた。



そして歩き出す。


向かう先は副団長の部屋だった。


扉の前で止まる。


ノックもせずに開けた。



「オスカー」



声はいつもの団長の声だったが、瞳の奥だけがまだ揺れていた。

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