表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/135

瞳の支配

ここ数日、王妃は静かだった。


焦点が合わず、言葉が遅れることもあるがそれでも以前のような激しいヒステリックは起きていなかった。


ルークが調合した解毒薬が確実に効いている証拠だった。


リリアは窓辺に立ち、庭を見下ろしながら考えていた。



敵の動きが消えている。


侍女長も侍女たちもあの日以来、決定的な動きを見せていない。


彼女たちは駒に過ぎない。


もっと奥に、真の闇の黒幕がいる。


向こうが動かないなら ―― 動かせばいい。



その時、扉がノックされた。


焦点の合わない王妃に代わり、リリアが応じる。


「どうぞ」


入ってきたのは執事姿のクラウスだった。


「国王陛下より、庭園でのお茶のお誘いです」


リリアは一瞬だけ兄の目を見た。


わずかに頷く。


何かを察したように、クラウスも静かに目を伏せた。



「分かりました」


支度を整え、王妃を伴い庭園へ向かう。




そこは王が王妃のために造らせた薔薇園だった。


王は壊れてゆく妻を前にして、それでも愛することをやめなかった男の顔をしていた。



騎士団の護衛が周囲を固めている。


団長ラルフ、副団長オスカー、そして団員たち。



その中でリリアの姿に何人かが息を呑んだ。


リリアは青いドレスを身に纏っていた。


胸元と背を大きく開き、身体の線を隠さないドレス。


だが誰一人として表情には出さなかった。


任務だと察して理解しているから。




王妃が差し出された茶を飲んだ。



しばらくして ―― 変化は突然だった。



「……ああ……」


小さく息を漏らす。


その声は苦しみではなく、どこか甘さを含んでいた。


カップが地面に叩きつけられ砕けた。


王妃が立ち上がり歪んだ笑みを浮かべる。


瞳が濁り、熱を帯びていく。


「嫌……嫌よ……」


震える声。


その表情は恐怖ではなく ―― 渇望だった。


毒が入っていたとリリアはすぐに悟った。



護衛が王を退避させる。


リリアはすぐに動いた。


振り上げられた王妃の手を掴む。


そのまま胸を押し、椅子へ座らせた。


王妃の瞳がリリアを見上げる。



焦点は合っていないが、本能が支配者を探している目だった。


「王妃様はそこで見ていてください」


王妃の耳元で囁き、手を離すと振り返り、騎士団の方へ歩く。


視線が集まる中、迷いなく進む。


ラルフの前で立ち止まり見上げた。



威厳がそこにある。


王族としての血。


騎士団長としての圧。



一瞬、足がすくみそうになる。 


だが逃げない。



「跪きなさい」


周囲が凍りついた。



重い沈黙。



ラルフは動かない。


リリアへ重い視線を落としている。


逃げ場のない圧。



リリアは息を飲んだ。


そっと手を伸ばしラルフの頬に触れた。



「ラルフ」


甘く名を呼んだ。


命令するようにもう一度。



「跪きなさい」


その瞬間、ラルフの瞳がわずかに揺れた。


だがすぐに何かを諦めたように目を伏せ、静かに片膝をついた。


誰も声を出せない。


王族の団長が一人の女の前に跪いている。



そして片足に手をかけ、足先に口づけた。


リリアは満足したように微笑んだ。


「よくできました」


ラルフの頭を撫でた後、手を取り、王妃のテーブル前へ導いた。


テーブルの端にもたれさせるように腰を預けさせる。


隊服のボタンに手をかけ、首元から一つずつ外す。


服が開き、鍛えられた肌が覗く。


リリアは迷わなかった。


肌にそっと口づけた。


その瞬間、ラルフの身体がわずかに強張った。


だがリリアは止まらない。


唇が触れた瞬間、彼の体温が直接流れ込んでくるようだった。


さらに唇を這わせる。


そして ―― ラルフは王妃を見た。


とろけた焦点の合わない瞳。


支配されることに溺れている目だった。



(……そういうことか)


やっと理解し、演技に加わる。


ラルフの手が動く。


リリアの頭を撫で、導くように優しく指を滑らせる。



吐息が落ちる。


熱を帯びた呼吸。


乱れた襟。


触れる手。


その姿は、団長でも王族でもなかった。


一人の男だった。


リリアはその手に、一瞬だけ救われたような感覚を覚えた。


完全に一人ではないと。


王妃が恍惚と見つめている。



その瞬間。



侍女がナイフを持って走り込んできた。


ラルフが即座に腕を掴み、床へ押さえつける。


「お前らも苦しめ!家族を奪われる苦しみを!」


侍女は押さえつけられながら叫んでいた。



侍女長も背後から現れたが、オスカーが素早く取り押さえた。


「……お前が……邪魔をするから……!」  


侍女長の憎悪はリリアへ向けられていた。



「牢へ」


ラルフの低い声で騎士団が動く。




すべてが終わったあと。



庭園に残ったのは、ラルフとリリアだけだった。


リリアは深く頭を下げる。


「……団長、先程は申し訳ありませんでした」



沈黙が流れる。



やがてラルフが近づいた。


「ああ」


低く答えた、次の瞬間。


突然リリアを肩に担ぎ上げた。


「……っ団長」


「暴れるな」


静かな低い声。


リリアは息を呑み、身を固くした。


怒ってる…… そう思った。


だがラルフの手は、落とさないようにしっかりと支えていた。


まるで、守るように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ