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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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変わらない関係

オスカーは温かく包まれる感覚で目を覚ました。


ゆっくり目を開ける。


視界に入ったのは ―― 座ったまま肘をつき、眠っているラルフの姿だった。


(俺のこと退かせばいいのに……)


そう思いながらも、そのままにしてくれている優しさが、どこか嬉しかった。


わずかに身じろいだその動きに、ラルフが目を覚ました。


「おはようございます」


オスカーが寝そべったまま声をかける。


「ああ。起きたなら早くどけ」


ラルフが冷たく言い放つ。


「嫌ですよ。寝心地悪くないんです」


「そういうのはリリアにしてもらえ。男にしてもらって何が嬉しいんだ」


「他の男は気持ち悪いけどラルフは特別なんです」


ラルフは前から引っかかっていたことを、そのまま口にした。


「否定するわけじゃないが、お前両性なのか?」



オスカーは少し考え込む。



「そんなに悩まないと答えでてこないか」


「んー、恋愛対象は女性だとずっと思ってます。今も好きな気持ちはリリアですし。だけど最近色々考えるとラルフには何をされても平気な気がします」



正直な気持ちだった。


ラルフはその言葉を真剣な顔で聞いていた。


否定も、肯定もしない。


ただ受け入れるように。


「お前の希望にそえる気がしないな……」


ぽつりと呟いた。


オスカーは起き上がり軽く笑った。


「そんな真剣に考えないでくださいよ。今まで通りでいいんです」


そのまま何事もなかったように部屋を出ていく。


ラルフはオスカーを見送りながら小さく息を吐いた。


(また一つ面倒事が増えたな……)


だがその顔に大きな驚きはなかった。


どこか分かっていたように。




数日後。


リリアとロクスが戻ってきた。


リリアは真っ直ぐオスカーの執務室へ向かう。


ノックもそこそこに扉を開けた。


オスカーは顔を上げると自然に笑った。


「おかえり」


「ただいま戻りました」


リリアはそのままオスカーの隣へ立ち、手を取って小さな箱を差し出した。


「開けてみて」


言われるままに箱を開ける。


中には薄紫の小さな石がはまった指輪が収められていた。


「これは……」


オスカーの目が見開かれる。


「私の指輪と同じで、それには私の魔力を注いで作ったやつだから、これをはめていればある程度の魔力には暴走せずに対応できるようになると思います」


その言葉にオスカーは息を呑む。


「この石はリリアの瞳の色か?」


「うん。オスカーにあげたかったから」


その瞬間、オスカーはリリアを抱き締めた。


強く、けれど壊さないように。


「これで騎士も辞めずにいられるね」


「ありがとう」


その声には抑えきれない感情が滲んでいた。


リリアは少しだけ照れながらも優しく微笑む。


オスカーが左手を差し出す。


「はめてくれるか」


リリアはゆっくりと薬指に指輪をはめた。


「結婚指輪みたいだな」


オスカーはからかうように言うと、


「ダメですか……」


リリアは照れたように見上げる。


その表情にオスカーは堪えきれなかった。


そっと口づける。


ゆっくりと深く互いの存在を確かめるように。



しばらくして、唇が離れる。


「はぁ……このまま押し倒したいがこの後ラルフのとこ行く約束してるんだよな……」


抱き締めたまま、少しだけ名残惜しそうに言う。


リリアはふふっと笑った。


「あっ、今ロクスがお兄様に報告行ってるから、ラルフの部屋で一緒になるかもですね」


「良い方に答えはでたか?」


「もちろん!」


その笑顔にオスカーも自然と笑う。


二人はそのままラルフの執務室へ向かった。


二人がラルフの執務室に入ると、すでにクラウスとロクスがいた。


空気は静かだったがどこか張り詰めていた。


ラルフは二人の姿を確認すると、ゆっくり立ち上がる。


「話しは聞いた。改めて感謝する。本当にありがとう」


そのまま深く頭を下げた。



すると部屋の空気が僅かに止まりクラウスが小さく息を吐いた。


「やめてくださいよ。あなたはドンと構えてればいいんですよ」


いつも通りの口調だったが、その中に信頼が滲んでいた。


オスカーも軽く笑いながら続ける。


「俺もリリアのお陰で騎士辞めずにいられますよ」


そう言って、左手を軽く持ち上げた。


指輪が光を受けて淡く輝く。


ラルフの視線がそこに向く。


「それは……リリアと同じやつか?」


「俺のにはリリアの魔力が入っていて、これで暴走を抑えてくれます」


オスカーはどこか嬉しそうに話した。


その様子をラルフは黙って見ていた。


その時、ロクスが静かに口を開く。


「指輪に魔力を注ぐ作業はリリア様の力を多く使います。なので無茶だけはしないでくださいね」


淡々とした言い方だったが、はっきりとした釘刺しだった。


オスカーは軽く肩をすくめる。


「分かってるよ」


そう言いながらも、その表情はどこか嬉しそうなままだった。


リリアの力を貰っているという事実が、素直に嬉しかった。



一方で ―― ラルフは何も言わなかった。


指輪に向けていた視線を外し、そのまま全員を見渡す。


一瞬で空気が切り替わる。


「話を進める」


簡潔に告げる。


その後は無駄がなかった。


これからの業務内容。


辺境領への移動日。


各自の役割と準備。


必要なことだけを的確に伝えていく。


誰も口を挟まない。


全員が理解しているからだ。


話が終わる。


「準備に入れ」


クラウスが頷き、ロクスも静かに一礼した。


「失礼する」

「失礼いたします」


二人は迷いなく部屋を出ていく。


扉が閉まる。



残ったのは ―― ラルフ、オスカー、リリアの三人だけ。


静寂の中、ラルフはゆっくりと視線をリリアへ向けた。


そして何の躊躇もなく腕を引き寄せる。


「っ……ラルフ?」


そのまま抱き締めた。


逃がさないようにわずかに力を込めて。


「オスカーに指輪をやったんだから俺には?」


珍しく、意地の悪い問いだった。


リリアは一瞬、言葉に詰まる。


「ラルフには……」


困ったように視線が揺れる。


その様子を見てオスカーが苦笑した。


そして、ひょいっとリリアを抱き上げる。


「困ってるじゃないですか」


軽い調子だったが、しっかり助けに入っていた。


ラルフの視線がオスカーへ向き、わずかに鋭くなる。


その空気にリリアが焦り、慌てて言葉を繋いだ。


「ラルフは……私じゃダメですか?」


その一言に空気が止まる。


ラルフは一瞬だけ驚いたように目を丸くした。



だがすぐにニヤッと笑い、リリアへ近づく。


「なら今夜だな。寝れないと思え」


低く囁き、そのままリリアの頭を軽く撫でた。


リリアの頬が一気に赤くなる。


「そうゆうことは二人の時に言ってくださいよ」


オスカーは呆れたように言いながらも、どこか楽しそうだった。


リリアを抱えたまま、くるりと背を向ける。


「ほら、仕事戻りますよ」


リリアは名残惜しそうにラルフを見たが、そのままオスカーに連れられて部屋を出た。


扉が閉まり静寂が流れる。


ラルフはゆっくり椅子に腰を下ろした。



「……二人とも可愛いな」


呆れたようにぽつりと零れる。



その声には ―― わずかに満足げな響きが混じっていた。

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