選んだ未来
二ヶ月後。
ラルフたちはアルトシュタイン領の中でも一番辺境にある屋敷へ生活拠点を移した。
―― そして。
辺境領に越してきて、四年の月日が経った。
ラルフは領主として、日々書類仕事に追われている。
オスカーは辺境領の黒騎士団団長兼ラルフの補佐官として、多忙な日々を送っていた。
クラウスは執政官として政務・財政・人事・情報整理を司り、補佐にはアンナが就いている。
セドリックは魔術師として、他国の情報を掴み裏で動かしていた。
治癒師としてルークも同行を申し出てくれた。
さらにルーヴェル王国からはレイラも加わっている。
黒騎士団にはルーヴェル王国の獣騎士団からサーヴィル、ゼノ、ヒューガ、グエン、ロクス、そして数名が赴任していた。
本来、他国からの騎士派遣は国家問題に発展しかねない。
そのため彼らは一度獣騎士団を辞め、自らの意思でリリアに付き従う道を選んだ。
バルトは少し寂しそうにしていたが、
「部下をさらに育てる良い機会だ」
そう言って、リリアの背中を押してくれた。
―― リリアは辺境領に移ってすぐ、ラルフと結婚した。
公爵夫人として、そして黒騎士団副団長として、獣騎士たちの“共鳴”と“絆”を束ね、その力を高めていた。
領民からの信頼も厚く、強さと優しさを併せ持つ象徴として慕われている。
そんなある日 ――
黒騎士団の朝の稽古を終え、オスカーは庭園を歩いていた。
前方に小さな影が見える。
「オスカー!」
弾むような声とともに、小さな女の子が駆けてきた。
オスカーは自然にしゃがみ、そのまま抱き上げる。
「アリス、走ったら危ないだろ」
「オスカーがぎゅってしてくれるから平気だもん!」
ラルフとリリアの三歳になる娘、アリスだった。
後ろから歩いてきたラルフとリリアは、その様子を見て笑う。
「お前に懐きすぎだろ」
「俺の方が優しいもんな」
「うん!アリスはオスカーのお嫁さんなるの」
アリスは嬉しそうにオスカーに抱きつく。
リリアはその様子を見て、優しく微笑んだあと、アリスに声をかけた。
「お父様が寂しがっていますよ」
アリスは少し悩んだあと、ラルフへ手を伸ばす。
抱き上げられると一瞬だけ満足したように笑い、すぐにひょいっと降りた。
そのまま広場へ駆けていき、メイドと遊び始めた。
その背中を見送りながら、リリアはオスカーへ声をかける。
「朝稽古で疲れてるのにごめんね」
「大丈夫ですよ」
オスカーは軽く答えると、そっとリリアの耳元に顔を寄せた。
「頑張ってるご褒美もらえると嬉しいな」
その言葉に、リリアは少しだけ頬を染める。
その時 ―― ラルフの呆れた声が落ちる。
「二人でイチャイチャするな」
「結婚は譲ったんですから、たまにはいいじゃないですか」
「子供の教育に良くないだろ」
オスカーはムッとした表情を浮かべ、リリアへ向き直る。
「だったら今度は俺との子供を作ろう。そうしたらラルフにガミガミ言われないだろ」
リリアは一瞬だけラルフの様子を伺う。
ラルフは小さく息を吐いた。
「分かったよ。許してやるから寝室だけにしろ」
リリアとオスカーは一瞬目を見合わせ固まる。
そして ―― くすっと同時に笑った。
その様子を見ていたラルフは、ゆっくりとオスカーに歩み寄ると、そのまま耳元で低く囁いた。
「お前も覚悟しとけよ」
ニヤリと意地悪く笑った。
リリアにも歩み寄ると、
「またあとでな」
そう言い、優しくリリアの額に口づけた。
そしてそのまま背を向け去っていった。
残された二人は顔を見合わせ、どちらともなくまた小さく笑った。
穏やかな時間がそこにはあった。
「お母様ー!見てー!」
アリスが笑顔でリリアを呼び、手を振っていた。
―― 選んだ未来は、ここにある。
ここまで『悪女の選択』を読んでくださり、本当にありがとうございました!
リリア達の物語を最後まで見届けてもらえて、とても嬉しいです。
悩んで苦しんで、それでも自分の幸せを選び抜いた彼女達を書けて、私自身すごく楽しかった作品でした。
ひとまず本編はここで完結となりますが、番外編やその後の話など、書きたい気持ちはまだまだあるので、ご希望のお声など頂けたら、またふらっと更新するかもしれません。
その時は、ぜひまた遊びに来てもらえたら嬉しいです!
本当にありがとうございました!




