暗闇を照らす光
ラルフとオスカーは同じ部屋で寝かされていた。
二人とも傷は塞がっている。
呼吸も安定していた。
それでも、なかなか目を覚まさなかった。
部屋には、リリアと獣騎士団の者たちがいた。
ロクスは静かに窓際に立ち、周囲を警戒している。
サーヴィルは時折二人の状態を見て、必要なら薬や処置をしてくれた。
ゼノは無愛想ながらも、食事や必要なものを運んでくれる。
ヒューガとグエンも交代で部屋の前に立ち、護衛を続けていた。
リリアはほとんど部屋から出なかった。
水を替え、額を冷やし、時々手を握る。
それくらいしか出来ないのに、それでも側にいたかった。
数日経った頃、王も見舞いに来た。
王は眠る二人を見つめ、小さく息を吐く。
「二人の状態は」
「回復はしてますがまだ目覚めません」
リリアは王に告げた。
王はラルフの側へ寄り顔を眺めた。
「無理しおって。
よくここを守ってくれた。ありがとな」
王は眠るラルフの頭を撫でた。
リリアは頭を下げて立っていた。
王はリリアを見て、優しく言った。
「君も無事でよかった。無理せず休むんだぞ」
そう言い、リリアの肩をぽんっと叩いて部屋を後にした。
その日の夜だった。
オスカーの指先がわずかに動いた。
「……っ」
リリアは顔を上げ声をかけた。
「オスカー!」
オスカーがゆっくりと目を開ける。
ぼんやりと天井を見上げていたが、少ししてリリアへ視線を向けた。
「リリア……」
「水、飲めますか?」
リリアは身体を支えながら水を飲ませた。
オスカーは少しずつ喉を潤す。
「……ありがとうございます」
まだ声は掠れていた。
リリアはほっとしたように息を吐く。
「まだ無理はしないでください」
リリアはオスカーを寝かせた。
それから数日後。
オスカーは起き上がれるくらいには回復した。
まだ顔色は悪かったが、いつものように軽口を言う余裕も少し戻ってきていた。
「団長、まだ起きませんね」
オスカーが苦笑しながらラルフを見る。
リリアは窓の外へ目を向けた。
暖かな日差しが差し込んでいる。
「今日は暖かいですよ。ラルフが起きたら、お散歩でも行きたいですね」
「そうだな……」
返事が返ってきた。
リリアとオスカーははっとして振り返る。
ラルフが目を開けていた。
「ラルフ!」
リリアは急いで側へ寄った。
「……よかった……」
安心したように目に涙が浮かぶ。
ラルフはそんなリリアを見て、弱く笑った。
「そんな顔するな。生きてる」
「無理しすぎです……」
リリアが泣きそうな顔で言う。
ラルフはゆっくりと手を上げ、リリアの頭を撫でた。
「リリアが来てくれたから助かった。ありがとう」
その言葉に、リリアは涙がこぼれた。
ラルフはオスカーにも目を向けると優しく微笑んだ。
「お前も無事で良かった」
「団長……」
オスカーも涙目になった。
その日の午後。
バルトたちはルーヴェル王国へ戻ることになった。
荷物をまとめ、部屋の入口に集まった。
「本当に助かりました。ありがとうございました」
リリアが頭を下げた。
「今回は獣騎士団がいなかったら助からなかった。本当にありがとう」
「この恩は忘れません」
ラルフとオスカーも続いた。
バルトは腕を組みながら小さく笑った。
「無事ならそれでいい」
サーヴィルも静かに頷く。
「今回は本当に危なかったですね」
ゼノはため息を吐き、ヒューガとグエンもそれぞれ頷いていた。
リリアは少し視線を落とした。
「私は……もう少しだけここにいたいです」
バルトは少し考えた後、小さく頷く。
「分かった。好きにするといい」
その時、ロクスが一歩前へ出た。
「私も残ります」
皆がロクスを見た。
「リリア様のお側にいたいので」
バルトは少し驚いた顔をした。
だが、すぐに小さくため息を吐く。
「……分かった。お前がそうしたいなら許可する」
リリアは驚いてロクスを見上げた。
「本当にいいの?」
「私がお側にいたいんです」
ロクスは真っ直ぐ答えた。
するとサーヴィルが少し笑う。
「ロクスは犬族ですからね。主と決めたら死ぬまで守り続けますよ。厄介なのに気に入られましたね」
ロクスは無表情のままだった。
けれど、後ろの尻尾だけがゆらゆら揺れている。
それを見て、リリアは思わずクスッと笑った。
獣騎士団は帰っていった。
その後、見舞いにクラウス、セドリック、そして獣騎士隊の子供たちがやってきた。
「団長さん、副団長さん、起き上がれたんだね」
ラビィが嬉しそうに声を上げる。
「ああ。もう平気だ」
ラルフはそう言って、ラビィの頭を優しく撫でた。
「何言ってるんですか。今朝目覚めたばかりでしょう」
クラウスが静かに諭す。
ラルフは少しだけ目を逸らした。
そのやり取りに、リリアは思わずくすっと笑う。
部屋の空気が少し柔らかくなった。
その時だった。
リリアは子供たちを見回し、ふと違和感を覚えた。
(あれ……?)
「ラドラは?」
その言葉に、子供たちが口をつぐむ。
部屋の空気が少し重くなった。
ガルムが俯きながら答える。
「ラドラは、行方が分からないんだ」
「……えっ」
リリアは目を見開いた。
「いくら探しても見つからないんだ」
「そんな……」
言葉が出なかった。
リリアの顔が青ざめていく。
すると、セドリックが口を開いた。
「死体が出たわけじゃないんだから様子見だな。獣人の性質上、いなくなることはたまにある」
「そうなのか?」
クラウスがセドリックを見た。
ロクスが静かに話し始めた。
「獣人は種族によって、いろんな性質があります。
一人で姿を消す者もいますし、一定期間戻らないことも珍しくありません。
ですから、あまり悲観的にならなくてもいいかと思います」
ロクスの落ち着いた声に、部屋の空気が少し和らいだ。
リリアは小さく頷いた。
「……そっか……」
そう答えたものの、胸の奥の不安だけは消えなかった。




