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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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守る力

リリアは剣を手に、王宮の廊下を走っていた。


床には血が飛び散り、あちこちに倒れた人影がある。


息が苦しい。


胸がざわつく。


早く行かないと。


そんな焦りだけが、リリアを前へ進ませていた。



角を曲がった瞬間――



「……っ」


リリアは息を呑んだ。



血まみれの廊下。


その中で、オスカーが壁際に力なく座り込んでいた。


顔色は悪く、呼吸も浅い。



その少し先では、ラルフが剣を支えに膝をついていた。


両脇から血が流れ、隊服を赤く染めている。


それでも、まだ前を向いていた。



リリアの胸の奥で、何かが切れた。


怒りだった。


自分でも驚くほど、感情が溢れていた。


剣を握る手に力が入る。


身体の奥から熱が湧き上がる。


魔力が剣へ集まっていくのが分かった。



その時。


一体の魔物が、ラルフへ飛びかかった。


ラルフは剣を握り直すが、身体が動かなかった。


もう間に合わない。


そう思った瞬間――


魔物の動きが止まった。



「……え……」


ラルフが目を見開く。


魔物の身体が、真横に吹き飛んだ。


次の瞬間、リリアが廊下の奥から現れた。



銀色の剣が閃く。


一振りで魔物をなぎ払う。


そのまま踏み込み、護衛隊の剣を弾き飛ばし、柄で気絶させた。


「リリア……」


ラルフは信じられないものを見るように、その名を呼んだ。


リリアは振り返らなかった。


その瞳は真っ直ぐ前だけを見ていた。


さらに後ろからロクス、ヒューガ、グエンが続く。


ロクスが素早く護衛隊を気絶させ、ヒューガは力で魔物を吹き飛ばす。


グエンは大きな身体で道を塞ぎ、避難者の部屋へ近づく敵を叩き落としていた。



廊下の奥から、低い笑い声が響く。


「ようやく来たか」


黒いローブを纏った男が現れる。


反王立派貴族の長だった。


男の周囲には黒いモヤが渦巻いている。


「お前さえいなければ……!」


男はリリアを睨みつけた。


「獣人と王立騎士団を繋げたのはお前だ!

お前のせいで我々は居場所を失った!

獣が支配する国と同盟なんぞ組おって。

誇り高きは人間だ!」



男が手をかざすと、床に黒い魔法陣が広がった。


そこから巨大な魔物が這い出る。


さらに、黒い鎖のようなものがリリアへ向かって伸びた。


リリアは咄嗟に剣で弾くと鎖が床をえぐった。



「リリア、下がれ!」


ラルフが叫ぶ。


だが、リリアは動かなかった。


「私が助けます」


小さく呟いた。


その言葉に、ラルフが目を見開く。



男は再び魔法陣を展開する。


無数の黒い刃が、リリアへ向かって飛んだ。


リリアは剣を構える。


身体が自然に動いた。


剣を振るうたび、淡い光が刃に宿る。


ロクス、ヒューガ、グエンの能力が共鳴の力によりリリアに流れ込んできた。


黒い刃を弾き、消していく。


「なんだ……!」


男が焦り始める。


リリアは男へ向かって走った。


魔物が前に出るが、その瞬間。

リリアの剣が光る。


魔物の身体が真っ二つに割れ、黒いモヤとなって消えた。



男は後退る。


「来るな……!」


さらに黒い魔法を放とうとする。


だが、リリアは止まらなかった。


「あなたのせいで、皆が苦しんだ!

ラルフも、オスカーも、子供達も……!」



怒りと悲しみが溢れる。


リリアは剣を振り下ろした。


すると男の魔法陣が砕け散った。


そのまま男の身体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。


男は血を吐き、力なく崩れ落ちた。


廊下に静寂が戻った。



リリアは荒い息を吐きながら立ち尽くしていた。



その背後で、ラルフが小さく笑った。


「……強くなったな」


その声を聞いた瞬間。


張り詰めていたものが切れたように、リリアの目から涙が溢れた。


リリアは剣を落とすように手放し、ラルフの元へ駆け寄った。


「ラルフ!」


膝をつき、血まみれの身体を支えた。


ラルフは荒い息を吐いていた。


ぼやけた視線がリリアを捉える。


「……リリア……」


その声は掠れていた。


けれど、確かに笑っていた。


ラルフは震える腕でリリアを抱き締める。


「来てくれて……ありがとう……」


そう言った瞬間だった。


ラルフの手が力なく落ち、身体が崩れた。


「ラルフ……?」


反応がない。


「ラルフ! ラルフ!!」


何度呼んでも、返事はなかった。


その時、後ろからサーヴィルの声が響く。


「こっちも呼吸が浅くなってる」


振り返ると、サーヴィルの腕の中にはオスカーがいた。


顔色は真っ青で、目も閉じたままだった。



リリアはぎゅっと拳を握る。



助けたい。


二人とも失いたくない。


リリアは目を閉じ、自分の中にある魔力をかき集めた。


できるか分からない。


それでも――助けたい。


その想いだけで、力を増幅させる。



(治癒の力!どうか……お願い!!)



淡い光が、リリアの身体から溢れ出した。



「無理をしてはダメだ!」


バルトが慌てて駆け寄る。


けれど、その光はどんどん強くなっていく。


目を開けていられないほどの光。


廊下一面が白く染まる。



そして―― ぱっと光が消えた。



静寂が落ちた。



苦しそうに倒れていた護衛隊の人々が、ゆっくりと目を開けた。


倒れていた騎士団員たちも、呼吸を取り戻していた。


ラルフも小さく呻き声を出して少し目を開けた。


「……っ……」


「ラルフ!」


リリアが声をかけた。

ラルフは力なく目を閉じた。



「大丈夫か」


バルトが心配そうにリリアに寄り添った。


リリアは荒い息を吐きながら、小さく頷いた。


「私は大丈夫です……」


「でも、ラルフとオスカーが……」



その時、避難部屋の扉が開いた。


血まみれのクラウスが出てくる。


「……お兄様!」


クラウスは辺りを見回し、状況を確認した。


「今の光……リリアか」


リリアはラルフの身体を抱えたまま頷いた。


「残党は俺とサーヴィル副団長、バルト団長で片付けた」


セドリックが遅れてやってきた。


「お前もいたのか」


「怪我はないか」


クラウスはセドリックを珍しく気にかけた。


「兄さんこそ血まみれじゃないか」


「これは俺の血ではない。とりあえず使えそうな部屋に負傷者を運ぼう」


そう言うと、クラウスが中心となって動き始めた。



獣騎士団の力も借りながら、怪我人を王宮内の部屋へ運んだ。


意識のない護衛隊、騎士団員、侍女や文官たちが、次々と空いている部屋へ寝かされていく。


ラルフも、バルトが抱えて運んだ。


リリアはその後、オスカーの元へ向かった。


ベッドに寝かされたオスカーは、まだ顔色が悪い。


リリアはその手を握り、静かに魔力を馴染ませた。


淡い光がオスカーを包む。


オスカーはゆっくり目を開けた。


ぼんやりした視線が、リリアを映す。


「……リリア……ありがとう」


オスカーはそう言うと、安心したように目を閉じた。


その様子を見ていたサーヴィルが静かに口を開く。


「今は身体が壊れてる」


リリアははっとして、サーヴィルを見上げた。


「……壊れてる?」


サーヴィルは静かにオスカーを見下ろした。


「無理をしすぎて魔力が体内の臓器を圧迫している」


「どうすればいいですか」

「今は休ませて様子を見るしかないな」



リリアはラルフとオスカーの看病を続けた。


傷は塞がっている。


呼吸もある。


それなのに、目を覚まさない。



一日。


二日。


三日。


何日経っても、二人は眠ったままだった。

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