絶望
「俺が外を見てきます」
オスカーが静かに話した。
「だめだ。お前もいつ暴走するかわからないんだぞ」
ラルフはオスカーを睨んだ。
「ここには水も食料もない。外の様子を見てくるしかないです」
その言葉に、クラウスがすぐに口を開いた。
「そんな身体では無理だ」
オスカーも魔力にあてられ、顔色が悪かった。
すると、部屋の中にいた人々から不安そうな声が上がった。
「もし団長さんたちがいなくなったら、俺たちはどうなるんだ」
「頼むから置いていかないでくれ……」
「また魔物が来たら終わりだ……」
避難している人々の顔は青ざめていた。
ラルフは小さく息を吐いた。
「置いていかない。約束する」
落ち着いた声だった。
それだけで、少しだけ空気が落ち着く。
ラビィがラルフの側へ寄った。
小さな手を、左脇の傷へそっと乗せる。
淡い光が滲んだ。
「ありがとな」
ラルフはラビィの頭を優しく撫でた。
ラビィは少し嬉しそうにしながらも、真剣な顔で告げる。
「出血のところは閉じたけど、表面までは治せてないです。だから、無理はダメです」
「ああ。分かった」
ラルフはそう答えた。
けれど、その目はすでに扉の向こうを見ていた。
――その時。
扉の外から、誰かの叫び声が響いた。
「いやああああっ!!」
皆が一斉に扉を見て、空気が張り詰めた。
避難していた人々は息を呑み、身を縮める。
ラルフとオスカーは剣に手をかけ身構える。
数名の騎士団員も剣を握った。
重い空気の中、全員が扉へ視線を向ける。
次に何が来ても迎え撃てるように。
ラルフは静かに剣を抜いた。
すると、黒いモヤが扉の隙間からゆっくりと流れ込んできた。
床を這うように広がっていく。
「まずいな……行くぞ」
ラルフが扉を開けると、廊下には護衛隊と魔物が溢れていた。
赤い目をした護衛隊。
黒いモヤから這い出る魔物。
その数は多すぎた。
「数が多すぎます……」
オスカーが呟いた。
ラルフは剣を握り直した。
「ここで俺達が諦めたら、誰も助からない」
その言葉と同時に、ラルフが先頭で飛び出した。
一振りで魔物を斬り払う。
返す刃で護衛隊の剣を弾き、みぞおちに蹴りを入れた。
オスカーも後ろから続く。
相手の剣筋を見切り、最小限の動きで護衛隊を気絶させていく。
騎士団員たちも必死に応戦した。
しかし、一人が魔物に腕を噛まれた。
別の騎士は護衛隊に背後から殴られ、そのまま倒れ込んだ。
「下がれ!」
オスカーが叫ぶ。
だが、その声も混乱の中に飲まれていった。
魔物の黒いモヤが、じわじわとオスカーの周囲にまとわりつく。
胸が苦しい。
呼吸が浅くなる。
視界が歪む。
それでも、剣を離さなかった。
「……っ……まだ……」
足元がふらつく。
護衛隊の一人を殴り飛ばした瞬間、膝が崩れた。
「副団長!」
騎士団員の声が響く。
オスカーは壁に手をつき、なんとか立ち上がろうとする。
だが、身体に力が入らない。
視界が暗くなる。
「……団長……」
そのまま、床へ倒れ込んだ。
ラルフは振り返った。
「オスカー!」
その瞬間、左脇の傷が大きく開いた。
血が滲み、隊服を赤く染める。
それでも止まらない。
魔物が飛びかかる。
ラルフは剣で受け止め、そのまま斬り伏せた。
だが、背後から護衛隊の剣が突き刺さる。
「っ……!」
鈍い音が響く。
ラルフの身体が揺れた。
護衛隊の剣が身体から抜けた瞬間を狙い蹴り飛ばした。
ラルフは剣を支えに、その場に膝をつく。
床に血が落ちる。
それでも、倒れなかった。
ラルフは剣を床に突き刺し、ギリギリの状態で身体を支えていた。
呼吸が荒い。
視界も霞む。
それでも、前を向いていた。




