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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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届いた声

リリアはうなされていた。


「お姉ちゃん! 助けて……!」


泣きそうな声が響く。


王宮の中では、人々が倒れていた。


黒い穴から魔物が溢れ、騎士たちが必死に剣を振るっている。


獣騎士隊の子供たちも戦っていた。


けれど、次々と倒れていく。


魔物の数が多すぎた。


血の匂い。


悲鳴。


苦しそうに呼吸する声。


その中で、ラルフとオスカーが避難者を庇いながら戦っている。


それでも押されていた。



リリアははっと目を覚ました。


「……っ……」


息が荒い。


周囲を見渡したが何も起きていない。


窓の外も穏やかだった。


鳥の声、風に揺れる木々。


いつもと変わらない日常。


(……夢?)


けれど、夢にしては現実味が強すぎた。


胸の奥がざわついた。



その時、部屋の扉が開いた。


「目が覚めたか」


振り返ると、セドリックが部屋に入ってきた。


リリアはすぐに、今見たものを話した。


「夢じゃない気がするんです……

皆、苦しそうで……団長さんも、副団長さんも……」


セドリックは黙って聞いていた。


「夢ではなかったとして、今のお前に何ができる」


リリアは言葉を失った。


確かに、今の自分に何ができるのか分からない。


戦うことも。


助けることも。


思い出せないままでは、何もできない。



リリアはセドリックを見つめた。



「お兄様……私の記憶、戻せませんか」


「本気で言ってるのか」


「はい」


リリアに迷いはなかった。


セドリックはしばらく黙っていた。


やがて、小さくため息を吐く。


「戻せたとしても、全部は無理だ」


「それでも……お願いします」


リリアの決意は揺らがなかった。


セドリックは諦めたように目を閉じる。


「分かった」


「そこに座れ」


リリアはベッドに座り、静かに目を閉じた。


セドリックが頭に手を置き、何かを唱える。



その瞬間。


頭の中にかかっていた霧が、少しずつ晴れていく。



獣人の子供たちを保護したこと。


その子供たちが、自ら志願して獣騎士隊になったこと。


ガルム、ラビィ、リッカ、ラオ、ネア、ラドラ。


それぞれの能力。


オスカーが、ずっと側で守ってくれていたこと。


支えてくれていたこと。


ラルフと婚約式をした日の幸せ。


クラウスとアンナが、陰で支えてくれていたこと。


それなのに、自分は逃げた。


共鳴の能力。


その副作用。



いろんな記憶が、一気に頭の中を駆け巡る。


「っ……!」


リリアはセドリックの手首を掴んだ。


「はぁ……っ……はぁ……っ……」


息が荒い。


涙が止まらなかった。


苦しい。


辛い。


それでも。


全部、自分の大切な記憶だった。



「私……戻らないと……」


セドリックはリリアを見つめた。


「それなら、ロクスたちに声をかけた方がいい」


リリアは涙を拭いながら頷いた。


「はい」


リリアは立ち上がった。


もう、逃げたくなかった。


セドリックと共に、部屋を出た。



獣騎士団は王宮へ戻ってきていた。


「お父様!」


リリアが駆け寄る。


バルトは驚いたように目を見開いた。


「リリア! どうした」


リリアは息を整えながら、さっき見た夢のことを話した。


王宮の中で人々が倒れていたこと。


魔物が溢れていたこと。


ラルフたちが苦しそうに戦っていたこと。


話しながら、胸の奥がまたざわついた。


バルトは真剣な顔で聞いていた。



「もしかしたら、ガルムが必死に飛ばした想いかもしれないな」


「え……」


「ガルムの能力は未来視だけじゃない。強い感情や危機感があれば、相手に断片を飛ばすこともある」


リリアは唇を噛んだ。


やっぱり、あれは夢じゃない。


「すぐに向かおう」


バルトがまわりを見渡した。


「ルーヴェル王国は大丈夫なんですか?」


リリアが不安そうに聞いた。


「獣騎士団全員が行くわけじゃない」


「数人で行く。問題ない」


バルトはそう言って振り返る。


「サーヴィル、ゼノ、ロクス、ヒューガ、グエン」


呼ばれた五人が前へ出る。


「お前たちも一緒に行ってくれるか」


サーヴィルは静かに頷き、ゼノは腕を組んだまま小さく息を吐いた。


ロクスは真っ直ぐリリアを見る。



そして、新たに呼ばれた二人も前へ出た。


ヒューガ・バルディ。


鋭い目をした虎の獣人騎士だった。


大柄な体格に加え、筋肉質な身体つき。


静かな威圧感があった。



その隣には、さらに大きな男が立っていた。


グエン・ジガード。


ゴリラの獣人騎士。


誰よりも大きな体格をしているが、表情は穏やかだった。


「承知しました」


五人は揃って頭を下げた。


リリアはその姿を見て、小さく息を吸う。


もう迷わない。


今度こそ、自分が助けるのだと。



リリアたちが王宮に着いた時には、庭園はひどい有様だった。


地面はえぐれ、草木は踏み荒らされている。


黒い淀みがあちこちに残り、空気まで重かった。


馬を降りた一行は、ゆっくりと中へ進んだ。


「これは酷いな……」


バルトが呟いた。


「何があったんでしょう」


サーヴィルも周囲を警戒していた。


リリアは不安そうに辺りを見回した。


庭園の草むらから、銀色の尻尾が少しだけ見えた。


「ガルム!」


リリアは咄嗟に駆け寄った。


草むらの奥で、ガルムが小さく震えていた。


「お姉ちゃん……」


「遅くなってごめんね」


リリアはしゃがみ込み、ガルムを力いっぱい抱き締めた。


ガルムは安心したようにリリアの服をぎゅっと掴む。


バルトが近づき、静かに聞いた。


「何があったか話せるか」


ガルムは小さく頷き、リリアから身体を離した。


「護衛隊の人が騎士団に駆け込んできて、助けを求めたんです。

護衛隊の人達は目が赤くて、暴走してるみたいでした。

あと、黒いモヤが床に広がって……

そこから魔物達がいっぱい出てきて……

外にいた騎士団員は、みんなやられました……」


その言葉に、バルトは険しい顔になる。


「なるほどな……」


短く呟くと、すぐに皆へ指示を出した。


「どこかに避難部屋があるはずだ。とりあえずそこを探すぞ」


「はい」


一行が王宮内へ進み始めた、その時だった。



廊下の奥から、重たい足音が響く。


皆が一斉に剣を構えた。


現れたのは、赤い目をした王立護衛隊だった。


数人ではない。


十数人近くいる。


その後ろには、黒い淀みから這い出るように魔物まで混ざっていた。


「っ……!」


リリアは息を呑んだ。


護衛隊の人々は苦しそうに呻きながらも、剣を構えて襲いかかってきた。


「殺すな! 気絶で止めろ!」


バルトが叫ぶ。



最初に飛び出したのはヒューガだった。


大きな虎の獣人の身体が一気に踏み込む。


護衛隊の男の剣を受け止め、そのまま腹に拳を叩き込んだ。


男は吹き飛び、壁に叩きつけられる。


「邪魔だ」


低い声だった。



次にグエンが前へ出る。


大きな腕で魔物を掴むと、そのまま床へ叩きつけた。


床が揺れる。


だが、黒い淀みから次々と魔物が現れる。


「数が多いですね……!」


サーヴィルが舌打ちしながら魔力を流す。


蛇の獣人らしい鋭い動きで、相手の身体を拘束していく。


ゼノは二本の短剣を使い、護衛隊の武器だけを狙って落としていた。


ロクスはリリアの前へ立つ。


「リリア様は下がっていてください」


「でも……!」


その時、一体の魔物がリリアへ飛びかかってきた。


リリアは咄嗟に床に落ちていた剣を拾う。


身体が自然に動いた。


横に斬り込む。


魔物の爪を弾き、そのまま柄で顔を殴った。


「……っ」


自分でも驚いた。


ロクスが目を見開く。


「やはり、身体が覚えているんですね」


リリアは小さく息を吐く。


怖い。


でも、立ち止まれなかった。


奥ではバルトが大剣を振るい、魔物をなぎ払っていた。


「急げ! 長引けば囲まれる!」


その言葉に、一同は再び前へ進み始めた。

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