断片の思い出
翌日。
バルト、ラルフ、クラウスは騎士団に用事があると言って、朝から出掛けてしまった。
オスカーも同行する予定だったが、リリアを一人にするなと言われ、屋敷に残ることになった。
「すみません……お仕事だったのに」
リリアが申し訳なさそうに言う。
「いいんですよ」
「サボれるならラッキーですし」
オスカーはふざけたように笑った。
その表情につられて、リリアも笑う。
「俺と二人で何するか?」
そう問いかけられ、リリアは少し考え込んだ。
やがて、ぱっと顔を上げる。
「あっ、いいのがあるんです」
リリアはオスカーの手を引いて地下室へ向かった。
部屋に入ると、そこには魔道具が置かれていた。
「これで映像が観れるんですよ!」
「恋愛物の舞台、観ませんか?」
「おっ、いいな!」
「誰もいないし、飲み物とお菓子も持ってくるか」
二人はキッチンへ向かい、飲み物とお菓子を持って戻ってくる。
ソファーの前に座り込み、床にお菓子を広げた。
「下の方がお菓子広げられるでしょ」
そう言いながら、リリアはクマと猫のぬいぐるみも持ってきて、隣に並べた。
リリアが魔道具に手をかざすと、映像と音が流れ始める。
二人は思ったより真剣に観ていた。
笑ったり、驚いたり。
気づけば、あっという間に時間が過ぎていた。
「意外と面白かったな!」
オスカーが楽しそうに笑う。
「ですよね!」
「よかった。一緒に観れて」
そこまで言って、リリアはふと固まった。
――なんで、オスカーと観たかったんだろう。
自分でも分からなかった。
でも、隣にいるのが自然だった。
その時、ふとリリアの視線がオスカーの胸元へ向いた。
黒い淀みのようなものが見えた。
オスカーは後片付けをしようとしていた。
「副団長さん……それ……」
オスカーは手を止め、振り返る。
リリアが自分の胸元を見ていることに気づいた。
「あー、これな。なんでもないから、気にしなくていい」
軽く流そうとする。
「そんなわけないです!」
リリアが近づいてくる。
オスカーは咄嗟にその両腕を掴んだ。
「大丈夫だから」
少し低い声だった。
その瞬間、またリリアの頭に映像が浮かぶ。
『瞳、綺麗だな……』
優しい声。
そう言って、口づけられた記憶。
「おい、大丈夫か」
オスカーはリリアの変化に気づき、手を離した。
リリアはゆっくりとオスカーに抱きつく。
二人は淡い光に包まれた。
オスカーの胸の重さが、少しずつ消えていく。
「リリア……」
オスカーが驚いたように名前を呼ぶ。
リリアは顔を上げる。
そして、背伸びをしてオスカーに口づけた。
触れるだけのはずだった。
けれど、次第に深くなっていく。
静かな部屋に、小さな音だけが響いた。
オスカーがゆっくり唇を離す。
リリアはとろけたような目で見上げていた。
「思い出したのか」
リリアは小さく首を横に振る。
「馴染ませ方だけ、見えたから……」
そう言って、頬を赤くした。
オスカーはたまらなくなった。
そのままリリアを抱き上げる。
「きゃっ」
驚いた声が漏れる。
オスカーはそのまま座り込み、下から抱きしめた。
「もう少しだけ、お願いできないか」
二人は目を合わせる。
そして、静かにもう一度口づけた。
リリアが一度唇を離す。
けれど、オスカーの方が追いかけるように口づけてきた。
リリアは思った。
――これ、知っている気がする。
「キス……上手ですね……」
リリアが小さく呟く。
オスカーはにこっと笑った。
「これ以上したら、止められなくなりますよ」
耳元で囁かれ、リリアの顔が真っ赤になる。
その後は、二人で地下室を片付けた。
何事もなかったように夕食を作りながら、皆の帰りを待っていた。




