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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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再び動き出す者達

ラルフとオスカーは、毎日夕刻になるとリリアのもとを訪れていた。


「明日は同盟締結式があるんだ」


ラルフは、眠ったままのリリアに静かに語りかける。


「しばらくは会えなくなるな」


返事はない。


それでも、続けた。


「また戻ってきたら、毎日来るからな」


その言葉は、自分に言い聞かせるようでもあった。



「すぐ戻るから待っててくれよ」


オスカーも、いつも通りの穏やかな声で話しかけた。


静かな時間が流れる。


返ってくるものはないと分かっていても――


それでも、声をかけずにはいられなかった。




そして翌日。


二人は式典のため、ルーヴェル王国へ向かった。


同盟締結式は滞りなく進み、


その後のパーティーも無事に終わった。



黒狼――バルトとも再会する。


ラルフは書類を受け取りながら、今回の事情を説明した。


一通り聞き終えたバルトは、鋭く二人を睨みつけた。


だがすぐに目を閉じ、深く息を吐く。


「また様子が変わったら教えてくれ」


それだけを告げた。



本来なら一週間ほど滞在する予定だったが、五日で切り上げ、アルトシュタイン王国へ戻ることを決めた。



その出発前。


「俺も同行させてくれ」


突然の声がした。


振り返ると―― そこに立っていたのは、セドリックだった。



ラルフの表情が険しくなる。


リリアにあの言葉をぶつけた張本人。


拒絶は当然だった。



「今は方法がないんです。手を借りましょう」


オスカーが静かに言う。


理屈では分かっている。


それでも―― ラルフは一瞬迷った。



「分かった」


渋々、許可を出した。




そして三人は、アルトシュタイン王国へ帰還した。



クラウスの執務室。


扉をノックし、ラルフとオスカーが入る。


「どうだ」


ラルフの短い問い。


「変わりはありません」


クラウスが答えた。



「今日は、クラウスに会わせたい奴がいる。入れ」

ラルフがそう告げると、扉が開いた。



そこに立っていた人物を見た瞬間――



クラウスの表情が固まった。


「……お前、今までどこにいたんだ」


わずかに目を見開く。


「久しぶり、兄貴」


軽い口調で答えた。


「久しぶりって……お前な……」


クラウスは言葉を失う。


セドリックは、どこか素っ気なく視線を逸らした。



その空気を見て、オスカーが口を開く。


「クラウスは……セドリックがどこにいたのか知らなかったのか?」


クラウスはため息を吐いた。


「五年前に家を出てから、行方が分からなかったんですよ」


短く答えた。


「あいつらを家族だなんて思ったことねぇよ」


セドリックは、吐き捨てるように言った。



その言葉に、空気がわずかに張り詰めた。



「とりあえず、座りませんか」


オスカーが静かに場を整えるように言う。


三人はわずかに顔を見合わせ、ソファーに腰を下ろした。


「どういうことか、話せ」


クラウスは真っ直ぐにセドリックを見つめた。


セドリックは一瞬だけ視線を落とし、やがて口を開く。


「昔の話だ」


静かな声だった。


「ある日、俺は自分に力があるって気づいた。

まだ小さかったリリアが、親父に殴られてるのを見た日だ」


空気が、重く沈む。



「……たまらなくなってさ。止めようと思って、親父の後を追いかけようとした」


拳が、わずかに握られる。



「そしたら、あいつ――ボロボロの状態で、俺の手を掴んだんだ」


セドリックの目に、あの日の光景が浮かぶ。



「首を横に振ってさ……止めたんだよ」


押し殺した声。

「そのまま、俺の目の前で――親父は、鞭であいつを叩いて……去っていった」



沈黙。


誰も言葉を挟まない。


「俺は……あいつを助けたかったんだ。

そう願った瞬間―― 光に包まれて、リリアの傷が消えた」


ラルフとオスカーの視線が動く。


「正直、驚いたよ。自分にそんな力があるなんて、思ってなかったからな」


わずかに、自嘲気味に笑う。


「……でもな、喜んだのはほんの一瞬だった。

数時間後、親父が戻ってきた。

傷が消えてるのを見て――薬を盗んだんだって疑った。

エマも“見た”って嘘ついて、笑ってた」


吐き捨てるような言葉。


「……だから俺は、家を出る決心をした。力をつけて、二度と戻らないために。あんな奴らの息子でいるなんて、耐えられなかった。

……兄貴には、全部押し付けて悪かったと思ってる」



それが、セドリックの本音だった。


クラウスは何も言わない。


ただ、静かに考え込んでいた。



ラルフもオスカーも、口を挟める空気ではなかった。




やがて、セドリックが立ち上がった。


「……あいつの様子、見てもいいか」


「こっちだ」


クラウスが立ち上がり、奥の扉を開けた。



仮眠室。


ベッドの上には、青白い顔のリリアが静かに眠っていた。


セドリックはゆっくりと歩み寄り―― そっと、リリアの頭に手を当てた。


次の瞬間。


わずかに―― 血の気が戻った。


ラルフの目が見開かれた。


「何をした……」


静かな問い。



セドリックは振り返らずに答えた。


「治癒や回復魔法じゃ効かない。これは、そういう状態じゃないからな」


ラルフの視線が鋭くなった。


「どういう意味だ」


セドリックは、リリアを見たまま口を開いた。


「こいつは――“仮死冬眠”みたいな状態だ」


部屋の空気が凍りつく。


「獣人には、たまにあるんだ」


淡々と続ける。


「けど……この国じゃ知られてないだろうな」


誰もすぐには言葉を返せなかった。


「ただ……この症状が出る時は――心が限界まで疲弊してるか、体力が完全に尽きた時だ」


その声は、わずかに重かった。


「無理に回復させた場合、どうなるかは分からない。症状は人によって違う」


ラルフがすぐに問いかける。


「どうすればいい」


セドリックは静かに答えた。


「選択は二つだ」


部屋の空気が張り詰める。


「このまま自然に目を覚ますのを待つか。

それとも、無理に起こすか」


誰も動かなかった。


「ただし、自然に目を覚ます保証はない」


その一言で、空気が凍る。


「そのまま……死を迎える者もいる」



沈黙。



重く、逃げ場のない時間。



ラルフは、目を閉じた。



そして――ゆっくりと開いた。



「……どんな状態でもいい。リリアに……側にいてほしい」


それは願いだった。


ラルフの――本音。



オスカーは、その言葉を聞いて小さく息を吐いた。


そして、迷いなく言う。


「俺も共にいたい……」


静かに、だがはっきりと伝えた。


クラウスもまた、口を開いた。


「セドリック……頼んだ」


その声には、揺らぎはなかった。



セドリックは一瞬だけ目を閉じ―― ゆっくりと、リリアへ向き直る。



そして、額へ手をかざした。


部屋全体を包み込むように、淡い光が静かに広がる。


優しく、けれど確かな力で。


やがて―― 光が、消えた。



その瞬間、ぴくりとリリアの指先がわずかに動いた。



ラルフの呼吸が止まる。



ゆっくりと―― リリアの瞼が開いた。

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