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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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失う存在

翌朝。


オスカーは騎士団宿舎へ向かっていた。


「お前たちに頼みがある。ついてきてくれ」


そう言って、ラビィ、リッカ、ガルムを連れて戻る。



部屋に入ると―― リリアはベッドに横たわっていた。



青白い顔にかすかな呼吸。


まるで、今にも消えてしまいそうだった。



ラルフが静かに口を開く。


「彼女の身体を……治せないだろうか。体温が上がらないんだ……」


その声は、かすかに震えていた。


「……やってみる」



ラビィがリリアの手を握る。


優しい光が、そっと包み込むように広がる。



――だが、すぐに消えた。



「……ごめんなさい……私の力、効かないみたい……」


ラビィは目を伏せた。


空気がさらに重くなる。



「僕が……話しかけてみるよ」


リッカが静かに目を閉じた。



『お姉ちゃん、聞こえる?』


――返事はない。


『お姉ちゃん!』


何度呼びかけても――


『……』


何も返ってこなかった。



その時、ガルムがそっとリッカの腕を掴んだ。



「……やめて」



「どうしたんだ」


オスカーが問いかける。


ガルムは、ゆっくりと目を伏せた。


その頬を、涙が伝う。


「何が視えたんだ」



ガルムは震える声で言う。


「お姉ちゃんは……元には……戻ら……ない」



――その言葉で部屋の空気が止まった。



ラルフもオスカーも動けなかった。



その時、扉が開いた。



「リリア……」



入ってきたのは、クラウスだった。


視線の先には、動かない妹。


クラウスの表情が、一瞬で変わる。



次の瞬間―― ラルフの胸ぐらを掴んだ。



「なんでこんなことになった!」


怒りが露わになる。


「お前たちが、ついていたんじゃないのか!!」



鋭い声。


その圧に、子供たちが後ずさる。



「……子供たちがいる」


オスカーの静かな一言。


クラウスの手が止まり、ゆっくりと離した。



ガルムは空気を察し、ラビィとリッカを連れて部屋を出ていく。



扉が閉まった。



――沈黙。



クラウスが口を開いた。



「リリアは、俺が預かります」


静かな声だった。


だが、迷いはない。



「それは許可できない」


ラルフが即座に拒む。



クラウスは淡々と続けた。


「あなたは同盟締結式で国を離れることもあるでしょう。その他にも、やらなければいけないことは多いはずです。

副団長も、団長を支えなければならない。

国にとって今一番必要なお二人が、リリアに付きっきりになる余裕はないはずです」


正論だった。


誰も否定できない。


それでも。


「分かってる」


ラルフが言う。


「でも、ダメだ。許可しない」


はっきりとした拒絶。



クラウスは何も言わなかった。


ただ―― 静かにリリアを抱き上げた。



その瞬間、身体の冷たさにわずかに目を見開いた。


(……これで、生きているのか)



そう思うほどだった。



「どいてください」


クラウスはラルフを見た。


ラルフが立ちはだかる。


視線がぶつかった。



「どいてください」



もう一度、強く言った。



オスカーが、ラルフの腕を引いた。


ラルフはうつむいたまま―― 静かに道を開けた。




クラウスはそのまま部屋を出た。



扉が閉まった、その瞬間。



ラルフはその場に崩れ落ちた。


「……っ」


声にならない、涙だけが零れる。



オスカーは―― ラルフが泣いている姿を初めて見た。




クラウスは執務室へ戻ると、その奥の仮眠室へ向かった。


リリアを、ベッドへ寝かせる。


ローゼン家へ連れ帰ることはできない。


ここで守るしかないと、判断した。



静かに見下ろした。


その時――ノック音がした。


「失礼します」


入ってきたのは、オスカーだった。



王族専用治癒師ルークの診断。

ラビィの治癒。

ガルムの言葉。


すべてを伝えた。



「申し訳ありませんでした」


オスカーは深く頭を下げた。


クラウスは、オスカーを見ずに言った。


「今日からここで過ごす。見舞いは許す。団長にも伝えてくれ」


それだけだった。


「ありがとうございます」


オスカーは頭を下げ、そのまま部屋を後にした。



扉が閉まる。



クラウスは、リリアの側へ戻る。


何も言わず、寄り添い続けた。

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