託された意志
翌日。
ラルフとオスカーは、獣騎士団団長バルトのもとを訪れていた。
重厚な扉の前で一度足を止める。
ラルフはわずかに息を整え、そのまま扉を叩いた。
「入れ」
扉を開けて入室した。
「久しぶりだな」
部屋の奥で待っていたバルトは、二人を見据えていた。
ただそれだけで、場の空気が引き締まる。
「お時間を頂き、感謝いたします」
ラルフが頭を下げる。
オスカーもそれに倣った。
バルトはゆっくりと腕を組む。
「我が息子になる二人、か」
その言葉に、空気がわずかに変わる。
すべてを見透かしている声だった。
「やはりあなたには隠せませんね」
オスカーが静かに呟いた。
バルトはわずかに口元を緩めた。
「隠す必要もないだろう」
そのまま視線を動かす。
「立ち話もなんだ。座れ」
応接用のソファーへと穏やかに促した。
ラルフは小さく頷き、先に歩く。
オスカーもそれに続いた。
二人が腰を下ろすのを確認してから、バルトも向かいに座る。
ラルフは懐から手紙を取り出した。
「クラウス・ローゼンから預かってきました」
バルトは無言で受け取り、ゆっくりと封を切った。
紙の擦れる音だけが響く。
視線が文字を追った。
――わずかに、目が見開かれた。
そのまま動きが止まる。
静寂。
やがて、ゆっくりと顔を上げた。
視線がラルフに向く。
「君は、この内容を知っているのか」
「はい」
ラルフは迷わず答える。
「彼女の幸せのために」
その言葉に、嘘はなかった。
バルトはしばらくラルフを見つめた。
「……そうか」
小さく呟き、それ以上は問わなかった。
静かに席を立ち、執務机へ向かった。
ペンを取り、短く返事を書いた。
迷いのない筆運びだった。
書き終えると、それを折りたたみ、ラルフへ差し出す。
「頼む。こちらも準備しておく」
「お預かりします」
ラルフはそれを受け取った。
バルトは応接ソファーに戻り、腰を下ろした。
「明日は城下を案内しよう。夜は、ゆっくり酒でも飲もうじゃないか」
先ほどまでの張り詰めた空気が、少しだけ崩れる。
ラルフはわずかに口元を緩めた。
「ぜひ。楽しみにしています」
オスカーも小さく笑う。
「久しぶりに落ち着いて話ができそうですね」
和やかな空気が流れた。
――その時だった。
扉が勢いよく開く。
「失礼します!」
サーヴィルが駆け込んできた。
ただならぬ気配。
空気が一瞬で張り詰める。
「アルトシュタイン王国にて、魔物の暴走を確認しました。至急、帰還された方がよろしいかと」
ラルフとオスカーの表情が変わる。
一瞬で、戦場の顔に戻る。
「行くぞ」
ラルフとオスカーが立ち上がる。
「サーヴィル、お前たちも同行しろ」
「承知しました」
ラルフとオスカーは一礼し、そのまま部屋を後にした。
バルトは頷き、黙って見送った。
――城外に用意されていた馬に跨り、手綱を握った。
「急ぐぞ」
「案内は我々がいたします」
サーヴィルが告げた。
一斉に駆け出した。
ただ一つの目的へ向かって。
全速力で――アルトシュタインへ。




