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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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確かな場所

ある日。


リリアのもとへ王女からの手紙が届いた。



――――――――――――――――――――――――

リリア様


本日、午後三時より薔薇庭園でお茶をご一緒しませんか。


突然のお誘いで申し訳ありませんが、ぜひお話ししたいと思っております。


お会いできることを楽しみにしております。


王女 フローラより


――――――――――――――――――――――――


リリアはすぐに返事を書いた。


――伺います、と。


ドレスはアンナが選んでくれた。


柔らかい色合いの、上品なものだった。




王族専用の薔薇庭園。


中央にはテーブルと椅子が用意され、すでにティーセットが整えられていた。


アンナが椅子を引いてくれたので、リリアは静かに腰を下ろした。


少しして、王女が姿を現す。


「遅くなってしまってごめんなさい」


「いえ、本日はお誘いくださりありがとうございます」


「そんなにかしこまらないで」


柔らかく笑う。


「私はあなたと話したかっただけなの。歳も近いんだし、フローラって呼んでね」


リリアは小さく会釈した。


「湖に行った時以来ね」


「はい」


二人は紅茶を手に取り、穏やかに話し始める。



しばらくして。



王女がふと問いかけた。


「ラルフおじ様とは、うまくいってる?」


「おかげさまで」


リリアは笑顔で答えた。


王女は、その顔をじっと見つめる。


そして、はっきりと言った。


「嘘ね」


リリアの動きが、わずかに止まる。


「あのおじ様と上手くいくなんて、女神様くらいじゃないかしら」


さらりと言う。


リリアは思わず、ふっと笑ってしまった。


王女はそのままラルフの真似をする。


「“ああ”とか、こんな感じでしょ?」


無愛想な声色。


リリアは今度こそ、自然に笑った。


「……そうですね」


その笑顔は、作ったものではなかった。



王女はそこで、真剣な表情になる。


「リリアさん」


静かな声。


「本当に辛い時は、周りを頼っていいのよ」


言葉が、真っ直ぐ届く。


「一人で立つなんて、できないし……続かない」


王宮は敵も多い。


けれど――味方もいる。



その言葉に、リリアの中に次々と浮かんだ。



ラルフ。

オスカー。

アンナ。

クラウス。

ノル、ジーク。

獣騎士隊の子供たち。

騎士団の人たち。



「ラルフおじ様はね、言葉は少ないし、何を考えているか分からないけど、絶対にあなたを裏切らない人よ」


「……フローラ様」


その言葉で、抑えていたものが溢れた。


涙が、こぼれる。


「大丈夫よ」


王女はそっと近づき、背中を撫でた。




「ありがとうございます」


涙を拭き、落ち着いた声で言う。


王女はぱっと表情を明るくした。


「今度おじ様に会ったら、こてんぱんにしておくからね」


冗談めかして笑う。


「私もね、近いうちに隣国の王子と結婚するの」


フローラは少しだけ視線を落とす。


リリアは驚いて顔を上げた。


「好きな人とは結婚できなかったけど……これも運命ね」


どこか吹っ切れたような声。


「だから、あなたには幸せになってほしいの」


その言葉は、飾りではなかった。


心からの願いだった。



その後、お茶会は穏やかに終わった。




部屋へ戻る途中。


「少し散歩してきます」


アンナにそう告げ、別れた。


向かったのは、あの木陰。


静かに座り、訓練場を見る。



今日は―― ラルフがいた。



リリアは立ち上がり、そのまま駆け出した。



ドレスを少しだけ持ち上げて、訓練場へ。



扉を開けると一斉に視線が向いた。



ラルフの目が、リリアを捉えた。


「リリア、どうした」


リリアはまっすぐ歩く。


近くの剣を手に取り、ラルフの前に立った。



「お相手、お願いします」



揺れのない瞳。


ラルフはそれを見て、短く頷く。


「わかった」


周囲が自然と下がる。


中央に、二人。



「いつでも来い」


その一言で、リリアは剣を握る手に力を込めた。


――瞳が、淡く色を変える。



ラルフの目がわずかに動く。


次の瞬間、リリアが踏み込んだ。


鋭い一撃。


打ち合いが続き、空気が変わった。


――そして、止まった。



リリアが一歩引いた。


ラルフは剣を構えたまま、静かに息を吐く。


(強いな……獣人の力か)


ラルフがわずかに押されていた。


「ありがとうございました」


リリアは剣を下ろす。


息が上がっている。



団員たちが一斉に近づいた。


「今のすごかったな!」

「どうやったらああなるんだ?」

「ローゼン卿、変わってなくて安心した!」


思い思いの言葉。


その中で―― リリアの目に涙が溜まる。



「おい、泣くなって!」


笑い声が混ざる。


その空気に、リリアは息をつく。



ラルフとオスカーは少し離れて見ていた。


リリアは涙を拭き、ラルフを見た。


走ってそのまま抱きついた。


ラルフは何も言わず、受け止める。


そっと、頭を撫でた。


周囲がざわつく。


「最近の団長、機嫌悪かったからなー」

「ローゼン卿、ちゃんと面倒見てやれよ!」


好き勝手な声が飛ぶ。


「うるさい」


ラルフが返すが、誰も気にしない。


リリアは顔を上げた。


その顔は満面の笑みだった。



そして静かに離れ、隣のオスカーにも抱きついた。



「オスカー、いつも側で支えてくれてありがとう」


まっすぐな言葉。


オスカーは一瞬だけ止まり―― そのまま頭を撫でた。


周囲がざわついた。


「ずるくないかそれ!」

「名前呼び捨ても!」


笑い声。


オスカーはリリアに顔を寄せた。


「俺は特別なんですよね」


柔らかい声だった。


ラルフが無言でリリアを引き寄せた。


「そういうことするな」


空気がまた揺れる。



けれど―― どこか柔らかかった。



久しぶりに、穏やかな時間が流れていた。

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