表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/141

届かない想い

(オスカーSide)


あの日の光景が、頭から離れなかった。


ベッドの上のリリア。


力が抜けきって、意識も曖昧で。


あんな状態になるまで――


言葉が出なかった。



理由は、分かっている。


リリアの寂しさを埋めるためだったことも。


ラルフなりに考えていたことも。


全部、理解している。


それでも―― どうしようもない苛立ちが、残った。



理屈じゃない。


納得はしても、飲み込めない。


あの時、リリアの前でラルフにぶつけた言葉。


あれがよくなかったのかもしれない。


その直後から、リリアは変わった。



常に笑顔でいる。

隙を見せない。

こちらが手を伸ばしても、掴まない。

ただ、距離だけが残った。



ラルフにも聞いた。


返ってきた答えは同じだった。


――掴まなくなった。


差し出しても、手を取らない。


(……違うだろ)


そう思うのに、どうにもできない。



ある日の訓練中だった。


ふと視線を感じ、反射的に振り向いた。



そこにいたのは、リリアだった。



気配を消して、木陰の影に座っている。

こちらを、ただ見ていた。

声はかけない。

近づいてもこない。

ただ――見ているだけ。



(……こんなところで何してるんだ)


喉まで出かかった言葉を、飲み込む。



あの距離が、すべてだった。


今のリリアの距離。


踏み込めば、壊れる。


そんな気がした。


すぐ近くまで行って、引き寄せて抱きしめてやればいい。


それだけで少しは楽になるはずだ。


分かっている。


けれど足は動かなかった。



リリアはきっとそれを望まない。


(……だから)


視線を外す。


何も気づかなかったように。


そのまま、剣を振る。


――見ないふりをするしかない。



それが、今できることだった。



――――――


(ラルフSide)


オスカーも、アンナも怒っている理由は分かっている。


リリアに無理をさせた自覚もある。


――それでも。


(……あの時は、それしかなかった)



あのすがり方。

あの目。



言葉にしなくても、分かるほどだった。


だから止めなかった。


理性よりも先に、身体が動いた。


あの瞬間だけでもいい。


何も考えずに済むように、現実から切り離してやりたかった。


(……甘いな)


だが、それでも――


間違いだったとは、言い切れなかった。



これから先も常に傍にいられるわけじゃない。


騎士団の遠征があれば、長く離れることになる。


その間、リリアは一人で立たなければならない。


公爵夫人として前に出る。


矢面に立たされる。


どんな言葉を向けられても、折れずに立っていられるだけの強さが必要だ。


守り続けることはできない。


だから――


(……今は)


黙って見ているしかない。


手を貸さずに。


一人で立てるように。


そう決めたはずだった。




ある日の夜。


仕事を終え、部屋へ戻る。


リビングの窓が開いていた。


違和感を覚え、静かに近づいた。



ベランダにリリアがいた。



夜風にあたっている。


背中越しに分かる。


力が抜けている―― 今にも崩れそうだった。



「リリア」


声をかけた。


リリアはすぐに振り返る。


「お帰りなさい」


いつもの笑顔だった。


何もなかったかのように。


隙のない、きれいな笑顔。


ラルフは何も言わなかった。


そのまま、少し距離を詰める。


リリアはそれ以上、近づいてこない。


こちらの様子を窺うように、口を開く。


軽い話をする。


必要以上に踏み込まない。


空気を読むように。


そして――静かに隣に座る。



距離は近い。


だが、触れない。


触れさせない。


その距離のまま。



ラルフは、横目でリリアを見た。


崩れそうだったはずの背中は、もう消えていた。


そこにいるのは、きちんと“立っている”公爵夫人だった。



(……これでいいのか)



胸の奥で、何度も問いかける。


望んでいた形なのか。


これが正しいのか。


答えは出ない。



それでも―― 今できることは、一つだけだった。


無理に踏み込まないこと。


手を伸ばさないこと。


――見守ること。



それが、今の自分にできる唯一だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ