出し物会議
朝の9時。俺達はエスコートしてくれる姫達が通っている学校にいた。カレン含む複数の姫達に案内されての移動。美人どころの姫様達に囲まれて移動が楽しいかと言うとそうではなかった。増築された校舎がごとく迷いそうな構造をしているせいで地図が欲しくなる。しかも無駄に疲れる。いくら彼女達がブレザーらしき制服を着ているとはいえ、この移動量はイカれてる。そう思ったくらいだ。最終的にたどり着いた講堂では、静かにそばに置いてあった椅子に座りなんとか休むことができた。
しかし講堂内はやけに騒々しかった。これから朝礼があるとは聞いていたが、一体何を話すつもりなんだろうか。しかしこれだけ騒がしいのだから、きっと生徒達にとっては楽しみなことに違いない。そして、校長らしき人物が壇上に上がると講堂は一瞬で静かになった。何かを待っているようだ。
『みなさん。おはようございます。これより我が校は、守護龍祭に向けて準備期間に入ります。みなさん。今年も豪華な内外に出す課題であることを忘れず、大いに楽しみましょう!今この瞬間を以て、準備期間突入とします!』
その一言のあと、講堂の雰囲気が一気に変わった。静かなはずの場所に溢れたのは、楽しさと負けたくないという思いと言ってもいいのかもしれない。学生の身分だからこそできる無茶をやるには最適な機会。それこそが文化祭というもの。だが、俺が知る雰囲気とは全くかけ離れていた。
覇気と抵抗心が同居している。一部の生徒は面倒なだけかもしれないが、それでもどうせやるなら派手にやってやろうくらいの気持ちもあるやつもいるみたいだ。いずれにせよ、この講堂にあるのは凄まじいほど高い士気と言ってもいい。
ぞろぞろと生徒達が去った後、何やら教師達がこちらに来て色々話しに来た。とはいえ大した話でもない。自己紹介や軽い雑談程度だ。しかし、その雑談の中で不思議なことを聞いた。若い男性教師だ。今年はどんなものを考えているのか楽しみだ、と言ってきた。俺はもちろんすかさず聞き返した。すると意外な答えが返ってきた。どうやら俺は一応、伝統に則ってエスコートの姫様達と共に、何かしらしなければならないらしい。もちろん断って姫様達がそれぞれのクラスに分かれて通常通りにもできるらしい。が…
「ケイ君!私やってみたい!」
そう切り出したのはマリだった。劇でもなんでもいいからやってみたい。みんなで何かを成し遂げたいと言った。たしかにマリからしてみれば、俺に出会うという大きな賭け以降、何か達成したことはあまりなかっただろう。せっかくマリがやる気を出してるわけだし、何かやらせてあげるのもいいだろう。俺もここまで来て、ただのんびりしすぎてた挙句に政治の汚いところに協力したおかげか元気になれる要素が全然なかった。ここは一つ、姫様達と協力して何かやらせてもらおう。
教師達と話している途中にやってきた校長にはすぐさまやると返答した。もちろん姫様達の意見も必要なので講堂に残ってくれていた彼女達に聞いてみることにした。返事としては全員okをもらった。しかしエリザベートに関しては歪な解答をもらった。
「私は来年に卒業予定です。しかし国外追放を受けた身。ハインド公爵の騎士団に合流するには問題が発生します」
「どうするつもりなんだ?」
「運がいいことに、学校の理事に上手く話をねじ込んだおかげで、私は学校を飛び級で卒業できる手筈になりました。守護龍祭が終わり次第、お供させていただきます」
「…いいのか。友人は愚か、家族にも会えなくなる」
「もちろん寂しさはあります。しかし今となっては詮無きこと。しかしそれだけではありません。アルスでの生活。楽しみにしていますよ」
「下手に強がらなくていいんだからな」
「まさか。私は合理的なだけですよ」
そう言って、彼女は笑った。これがまだ20歳も超えていない人間に判断できることなのだろうか。いや、この世界と前世を同じものと考えるべきではない。比較対象にはならない。とはいえ俺は心配になった。
一方で他の姫達からは悪くない解答をもらった。まずカレンだが、ある程度の指示は終わっているらしくちょっとやそっとの抜けは問題ないらしい。ルーモルトやアヴァロン、ルンレイ達は二つ返事で許可を得られた。リリィは商談が忙しく、あまり参加できないができる限りは協力してくれると言ってくれた。つまり買い付けなどは彼女に任せればいいということだ。強力な後ろ盾ができた。良かった。だが最大の問題があった。okをもらったとはいえ、あまりに不安定な身柄。俺達なんぞより一番危険な地位にいる人物。シャルロット・イスカリオテ。彼女が何もなく、この守護龍祭を乗り越えられればいいのだが…。
ひとまず、俺達はテーマを決めるべく広い会議室を借りることにした。まあまあ広い一室だ。とはいえ9人が入るにはちょっと大きすぎた。そのあと移動式黒板を持ってきてもらい早速会議が始まった。
「では主題を決めます。進行は私、エリザベートが務めさせていただきます。何か案がある方はいらっしゃいますか?」
「はーい。劇でいいんじゃない?」
「ルーモルトさん。理由をお聞きしても?」
「伝統というか、まあ困った時には…」
「却下です。それは煮詰まらなかった際の切り札にしましょう。他の方は?」
「はい!リリィ家直伝。商談におけるネゴシエーションの法則勉強会」
「自分の仕事でやってください。あとここは学校です。関係ないセミナーは外でお願いします」
「守護龍祭の歴史とかならどうかしら。エリザベート」
「大変恐縮ですがお姉様。伝統を調べるのはいいのですがインパクトがありません」
「希少果実の育て方は?」
「シャルロットさん。いい視点ですが、残念ながら魔法生物学部が似たようなのを前回提出しています。おそらく、今回はそれの最新版といっても差し支えないでしょう」
「護身技術の講義セミナーとかいいんじゃないんですの?」
「あのですね…。そもそもお二方の教え方になれば間違いなく教わる側が危険になります。却下です」
「面白そうなのに」
「残念ですわね」
「忘れたとは言わせないわよ…」
ルンレイが出した案に対してやけにエリザベートが警戒しているな。ルンレイとアヴァロンの2人には何の悪意もないようだが、前に何かあったんだろう。重箱の隅をつつくような真似はやめておくか。ああだこうだと事実がこんがらがってもしょうがない。話が進まなくなるだけだ。
しかし…1時間経ってなお決まることはなかった。俺はエリザベートに一度解散して各自で考えてきて明日に持ち越すことを提案したが、残念ながら今日決めなければ書類の関係上、後で厄介なことになるらしく持ち越すのは悪手だと主張してきた。どうやら話は単純じゃないらしい。あれ、これ学校だよな?厳しくない?
「仕方ありません。切り札を使うしか…」
「待った!まだ提案してない人がいます!」
「あら。忘れてましたわ」
「たしかに。2人います」
「いるね」
「いますね」
「ハインド公爵。何かしらの提案を」
「え?あ、えーっと…」
正直ノープランだ。なにせ彼女達は姫。上に立つ人間であり貴族。俺のような前世が庶民の人間の提案なんて却下されるに決まってる。そう決めつけて何一つ考えていなかったが、今、俺は公爵であり非常に高い地位を持っている。何か彼女達に示して当然というものだろう…と偉そうにしたのはいいが、何も考えなどなかった。メイド喫茶でもやればいいなんて言ってみろ。頭がおかしくなったとしか思われない、軽蔑した冷めた目で見られる。それだけは嫌だ。だが何か考えなければそれはそれで…。
ふと、部活時代の記憶を思い出した。宴会芸部の部長が作っていた服。どこかの出し物で使うと言って手伝っていた。そうだ。アレは…確か…。
「…男装」
「男装…?」
「私達が男性の服を着ると言うことですか。しかしそれだけでは足りませんね。何かインパクトのある付加価値を」
「…喫茶店だ」
「喫茶店ですか?」
「いや男装喫茶だ…!そうだ!君達には…執事になってもらう!なんてどうでしょうか⁈」
「男装喫茶。いえ男装執事喫茶ですか。あまり聞いたことはありませんが…」
「あら?いいんじゃないんですの?この学校は貴族や平民といった身分に関係なく受け入れていますわ」
「なるほど!私達みたいな人以外に執事のいる生活を体験してもらうというわけですね!」
「でも準備がかなり必要になりますよ。教室の確保にメニュー決め。食材の確保。服のデザイン。他にもやることは盛り沢山で…」
「シャルロットさん。その為の今日です。今日中に決めれば、全ての面において優位に立てます」
「そういえばそうだったね。で、戦いしか頭にない私達はどうしろと」
「あなたと一緒にしないでくださる?」
「それは今後決めていきます。いくらでもやりようはあるので」
なんか男装執事喫茶の計画が立ってきてるぞ。いいのかこのままで…。いやここは何も否定する必要はないだろう。彼女達が上に立つような人間であるにも関わらず、なぜこういったことを嬉々としてやるのかは理解できない。いや…こういったことをやろうとするからこそ、新しいことを進んで楽しもうとしてきた姿勢こそが、この連邦を維持してきた理由だったりするかもしれない。先入観はいけないな。
その辺の推察はここまでとして…彼女達の準備は既に始まっているようだ。
「お姉様。指揮権をお譲りします。私は補佐に回らさせていただきます」
「いいでしょう。エリザ。あなたは教室確保を優先しなさい。場所は2階。目立たないところに。それと搬入がしやすいような準備室を付近に作ります。つまり最大2部屋確保が条件です。手段は問いません」
「分かりました。お姉様」
「ルーモルト。搬入通路の確保、及び周囲の情報遮断を。生徒会に協力を願いましょう。真似されては構いませんから」
「イエスマム!」
「ルンレイ。アヴァ。貴方達はこちらの集合がかかるまでの間、情報収集を。偽情報の流布も許可します」
「まあ、それなりにうまくやりますわ」
「裏の汚れ仕事か。慣れてるからいいけど」
「リリィ。食材等の搬入について全て一任します。あなたの判断で売買してください」
「いいでしょう…。我がファモーアの力をご覧あれ」
「最後にシャルロット。あなたは…」
「私は…?」
「ひとまず、私の元で補佐についてください。追って詳細を伝えます。ハインド公爵夫妻。もしお手伝い願えるなら…」
「なんだって手伝うさ。何かあるか?」
「そうですね…では、一つお聞きしたいことがあります。喫茶店をやるという以上、メニューが必要になります。何かご提案はありますか?」
「メニューか…」
そういえば昔聞いたことがある。あるファミリーレストランでは油を多量に使う料理を排除しているらしい。これは客席側に油の匂いを嗅がせない為の処置であり、店側の人間も匂いがつかないため清潔になりやすいと言うもの。つまり、今の状況にはぴったりと言うことだ。しかし調理する人間がいない。料理できる人がいなければ…。ん?料理できる人…?
「…カレン。俺も聞きたいことができた。喫茶店とはいえ、誰が調理するか決まっていない」
「そうですね。そこは私も懸念材料でした。なので何人か協力者を得るつもりです。それが何か?」
「カレン。君達は全員接客に出るんだ。裏は俺がやる」
「な…何を言っているんです⁈」
「いやぁ…ちょっと昔を思い出してな」
高校生時代、何も両親の仕送りだけで凌いだわけじゃない。バイトだってやっていた。特にある知り合いのレストランにヘルプとして行った時を思い出す。客は入ってくるしオーダーは止まらない。ホールも大変だったらしいがキッチンはもっと地獄だ。アレだこれだと出しまくっても止まりすらしない。いつになったら終わるんだと思いながらやるしかないのだ。
だが、今回は軽食で済ませられる以上簡易的なものになるのは確か。ホットケーキやチョコレートなんかがあるこの世界。なぜかは知らんが甘ったるいお菓子が存在するが故に、砂糖の確保も容易い。ならば裏は全て…とは言わないが、ある程度こちらで半自動化。大量生産させておけばあとは出すだけで終わる。そして暖かい気候ならではの最終手段!冷たいものは予め作り置きしておき、温かいものは極力減らす!サンドイッチくらいが関の山か。まあいいさ。
「ひとまず…ハインド公爵がそれでいいのなら、一任したいと思っています。よろしいでしょうか?」
「ああ。任せてくれ。メニュー草案も直ぐに取り掛かる」
「ありがとうございます。ところでマリ公爵夫人」
「私はマリで大丈夫」
「失礼しました。マリさん。何か出来ることは?」
「ちょっとしたお裁縫なら…」
「分かりました。手芸部の顧問に協力を申し込む手筈にしますので、そちらの担当をよろしくお願いします」
「分かった!」
「では各自、最適の健闘を」
最後の言葉が放たれた瞬間、矢継ぎ早に自分達の仕事をしに行った姫様達。俺達4人だけ会議室にポツリと残されてしまった。しかし、カレンは間違いなく数時間以内に彼女達は戻ってくると断言した。そして、この広い会議室を橋頭堡にすると言い出した。
「しかし、よく分からないな。何でこんな提案を受けたんだ?上に立つ人だろ?君達は」
「上に立とうが下に立とうが人であることに変わりはなく。面白いものには進んで挑む。政治が絡まない、好き勝手できる唯一の機会に堅苦しくなるくらいなら、派手にやる。エスコートの姫達は、代々こんな人ばかり集められるのです。私もその1人と言う裏返しにもなりますがね。誰も否定的な意見を出さなかったのも、その証拠です」
「…いいんじゃないか?瞬間を大切にする生き方は難しいからな」
「ええ。人は過去を生きられない。今を生きるしかないのですから」
そんな話をしてメニュー草案を作っている間に、何人かの姫達が帰ってきた。まだ1時間も経っていないと言うのに、よく帰ってこれたな。とはいえ、それぞれがひとまずこなせる仕事をやってきたようだ。
エリザベートは教室の確保を難なくやってのけた。隣接する教室含めて。カレンが目立たない場所にした理由はよく分からないが、そこはいずれ聞こう。しかも喫茶店の許可印までもらってるのは早すぎる。こんな人材が仲間になるのか。ヤバいな。
ルーモルトは生徒会に話して搬入ルートを通常ルートではなく学園の裏に別ルートを設けさせてもらえたらしい。情報遮断のために立ち入り禁止にしてもらったと言う。
リリィはまだ帰ってきていない。商談関係は時間がかかる。あとで帰ってくるだろう。
最後にルンレイとアヴァロンだが…この2人はもはや違うと言っても過言ではなかった。この会議室全体に防諜魔法をかけた上で各クラスを偵察。更に変装魔法で偽情報をもう流してきたと言うではないか。しかも既に各クラスが作っていると言う草案を回収し分析。挙げ句の果てに出てきた言葉は脅威度判定と来た。ここCICじゃないよな?
「大方の判定は理解しました。大体のクラスは脅威度が低いですが、中でも似たようなテーマを決めたクラスは脅威です」
「潰す?」
「私達ができるのはせいぜい撹乱のみ。こちらに物理的損失がない以上、余計なことは無しにしましょう。それとルーモルト。搬入路の確保、ありがとうございます」
「問題無し!」
「エリザ…。感謝します」
「ありがとうございます」
「さて、この会議室は後夜祭まで借用できることになってます。よって、ここを発令室とします。必要以上の情報を漏らさせないよう、細心の注意を払いながら活動してください」
早速得られた情報やこれからのことについて、シャルロットを書記として話し合いが始まった。服をどうするのか。3日間に渡る開催期間中の活動。俺のメニュー草案など決めることはとにかくたくさんある。だがそれだけに熱中してしまう。アレだコレだと話し込み、時に予算の話になり、時に武力制圧の話になりと紆余曲折を経た俺たちは、昼食も取らず5時間の追い込みでいつしか憔悴していた。と言うか気づいたら憔悴していた。しかし、目の前の黒板には何度も消され、苦悩した後と共に様々な複合した案が絞り込まれていた。協力者や各自で用意できそうな内容も。
だが疲れ切った俺達に判断力は皆無として黒板をそのままに一度帰ることになった。それくらいにまで気力を削っていた。リリィは帰ってくる様子がなかったため、明日には来るだろうとされた。
だがその後が問題となった。俺やマリはガウディ付近にある迎賓館に帰れば良いかもしれないが、他の姫達は学園にある仮泊所に泊まると言った。学園としては問題ないらしいが、帰らないと困るのではないかと聞いてみると…。
「私はガウディに帰らずとも通信魔法で仕事もできます。エリザも似たようなことを言うでしょう」
「私は馬車嫌いなのでスレイヴ呼んで帰るくらいならここにいようかなぁと」
「わたくし達も泊まりますわ。早朝ならちょっとした話も聞けそうですし」
「外泊は嫌いじゃない」
「私は身分が身分なので…。ルーちゃんと寝ます。あまり宮は好きじゃないので…」
と、それぞれの答えを聞いた。エリザは分かっていたので聞かなかったが、シャルロットは不安だからここにいるつもりなんだろう。別に嫌なわけじゃない。エスコートがなくとも、この会議室に来るくらいは何も苦労する話しじゃない。だが俺だけ帰ると言うのも何だかなぁというわけだ。もちろん客人なのにこんなのは違うかもしれない。が、それはそれ。ちょっと違う生活を楽しんでみたい。
と言うことで仮泊所の一部を借りれることになった。もちろん男女は別だが。しかし、同時に面白いことも体験できた。着替えを持ってきてなかったが故の成功。下着はともかくとして学園のブレザーを借りれることになったのだ。前世の高校時代を思い出す…。いや高校生だったけども。
そんなこんなで俺は、この後1週間学園に寝泊まりすることになったのだった。
ズレ発生の影響を今更把握しました。(2022/04/23)
許してつかぁさい…。




