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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
7人の姫達
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過去を…

 

 異国での朝。どんな場所であろうと、朝は等しく訪れる。そう。それが自分の妻が半裸で寝ていたとしても。

 なぜ…なぜ半裸なんだ…?昨日はしっかり服を着ていた筈だ。ゆったりした服だった筈なのにボタンとかいくつか外れて下着どころか綺麗な二つの実が俺の身体にしっかり密着されている。慣れてはいるんだが俺だって男であって…あと、ここ出張先。何とかしないと…。

 一応端末を開いてGPSに接続。部屋にある時計とアルスの時差を設定してやる。とりあえずまだ6時だ。確か朝食は7時半。マリを起こして引き離さなければ…。


「マリ…起きて…」


「ん…ダメだよぉ…ケイ君…」


「どんな夢見てんだか…」


「えいっ」


「んぐふぅっ⁈」


 いきなり俺の頭をぐっと自分の胸に埋めてきたマリ。腕の力が地味に強い!首の力だけじゃ離脱はできないなこれ…。引き離そうにも起こすのは少しかわいそうだ。あ、でもこれいいな…。柔らかい…。


「あ…ダメ…」


 前言撤回。今すぐにマリを起こす。俺はそこまでするような人間じゃない。いやまあやってみたくないわけじゃないんだが…。そうじゃない!この参事を見られるなんてことはないだろうが、万が一の可能性がある!


「マリー!起きろー!いや起きてくださいおねがいします何でもしますから!」


「ケイ君…離れちゃやだ…怖いよ…」


「マリ…!マジヤバイから…!」


 引き離そうと身体を少し押しただけで余計に強まるマリの腕の力。普通の女性の力を明らかに凌駕している。おかげで全然離れることがなく1時間過ぎた。が、7時過ぎになっても離してくれる様子はなかった。あと少しで使用人が呼びに来るだろう。まさか勝手に入るとは思わないが、待たせてしまうのはよろしくない。早急にマリから離れて着替えなければ…。


「ケイ君…助けて…怖いよ…」


「マリ…?」


 様子がおかしい。ここに来たから…ってわけじゃなさそうだな。昨日の件で警戒心MAXになったせいか?あまりいい影響とはいえない。何かあった場合の為に、一応技術検索をかけておくか。


「えー…と、あったあった」


 実はこの機械技術スキル。医療系技術もある。といってもこの世界の医者や人間による医療技術には到底及ばない。あるのは医療を可能にする道具、或いは簡易的なもののみに過ぎない。だが、そんなものでも役に立つものはある。それこそが俺が探していた簡易的医療技術。体内調整用ナノマシンだ。

 ナノマシン自体には薬用成分は一切ない。代わりに強心剤や鎮静剤のような役割をしたりと『その薬のようになりきって』くれる。とはいえ安全性の面からこのタイプは1時間程度で体外に排出される。故に効果は瞬間的なものに過ぎない。本格的なものになるともはやナノマシン主体の人工血液になるからな。そうなれば磨り減る人工血液を年に一度は補給・専用装置での透析をする必要が出てくる。技術説明欄にも使用は推奨されないとまで書かれているのだから完璧ではないのだろう。

 注射器は痛みを最小限にできる極小針タイプ。マリが痛みを感じることは少ないはずだ。だが一番なのは使わないこと。

 なんとかしてマリの腕から逃れ、半裸になってしまっていた服を整えてやり逆に俺がしっかり抱きこんでやった。


「マリ。起きろ。そっちにいるな。ここに来い。お前がいるべき場所は、そこじゃないぞ」


「…ケイ君だぁ…ケイ君がいる…良かったぁぁ…」


 起きたマリは俺を見た瞬間、涙を流して笑った。しかしその後、何かが切れたようにのようにぷつりと力が途切れてそのまま気を失った。何度か呼びかけたが返事をしない。直ぐに状態確認が可能な機器を生成してチェックしたが、表面上では一切の問題は無かった。ただ、今日何か予定があるのだとしたらちょっとキャンセルさせてもらおう。社交辞令的にはあまりよろしくないのだろうが、今はマリを優先したい。

 7時半にマリが起きることがなさそうだったので近くにいた使用人に朝食を遅らせてもらうよう頼むと、こちらに運ぶこともできるといっていたので軽いものを運んでもらうことにした。使用人に言伝を頼んでおいたおかげか、様子を見に来たカレンには申し訳ないと謝った。しかしカレンは今日、明日と予定は入っていないのでゆっくり休んでほしいと言ってくれた。有り難かった。


「予定がないことはよしとしよう。さてマリは…まだ起きないか。バイタルサインも安定。問題無しと」


 しかしなぜあれだけ怖がっていたのかが分からない。悪い夢を見ていただけ、で片付けられるならいいんだが…。この国に何かあるのか。或いは何かしらの状況が既に始まっているのか。この国に来てから1日しか経っていない。判断は時期尚早ではないのだろうか。仮にマリが警戒するほどのやばい団体がいたとしても、あの殺気丸出しシスターズが気づかないはずがない。

 不安になった俺は安らかな顔をして眠っているマリに鑑定スキルを使って解析してみた。しかし呪われているだとか、魂がやばいだとかそんなことは表示されていなかった。書かれていたのは自律神経に若干の不安定性を確認、とだけ。今は側にいてあげることだけが俺にできる最善の方法だ。

 しかし心配とは裏腹に30分後には目を覚ましてスッキリした顔になっていた。解析機関を使って鑑定しても異常は無し。その代わり俺の匂いがないと不安になるとかでベッドの上で抱きついている。俺は一向に構わない。マリの匂いは癒される。一生嗅いでいたい。

 だがなぜこうなってしまったのか?これをしっかり聞いておこう。


「マリ。怖い夢でも見たのか?」


「…ケイ君には話してなかったよね。私の、遠い遠い、ケイ君に出会うまでのお話」


「マリの過去…?」


「あ、前世じゃなくてこっちに生まれてからね?ちょっと長くなるけど…」


「マリが辛くなければ俺は大丈夫さ」


「じゃあ…まずはエヴィロイド。昔の国名で話すならサジェルタンかな?」


「さ、サジェルタン?」


「エヴィロイドって言うのは私より後の世代の人が定着させたんだと思う。私の頃はサジェルタンって国だったんだよ?」


 国家転覆を手伝って以降、まさかの真実だよオイ。エヴィロイドはかつて全然違う名前だっただと?もしファローズが聞いたらそんなの有り得ないなんて言いそうだな。


「うーん、でもなんていえばいいのかなぁ?偉い人達の言い合いもあったし…でも私が会ってた人はみんなサジェルタンって呼んでたよ」


「国名でも言い争うのか…」


「初代の王様はエヴィロイドって呼んでたけどあまり定着しなかったみたい。私はちっちゃかったしそんなの分からなかったから気にすることもなかったけど」


「へぇ…」


 俺の適当な返事を気にしたのか、マリがじっと見つめてくるので顔を覗くといきなりキスをしてきた。しかも舌を入れてくるおまけつき。おかげで頭の中が完全にゆるふわになっていく。うん。もう語彙力とかいらないんじゃないかな。可愛さだけでもうお腹いっぱいです。

 ちょっとだけ俺が長くキスしてから離れると唾液が糸を引く。マリの方を向くと完全に頭がゆるふわになっていた。瞳には俺しかいないようで、言葉は無かったがもう一度要求してきた。もちろん何回でも求められる度にキスを続け、いつの間にか5分以上もイチャついてしまっていた。

 自分の欲に負けていたのに気づいたのか、マリはわざとらしく咳払いをした。


「…ゴホン!あまりキスをしちゃうと終わらなくなるから始めちゃうね」


「お菓子は?」


「ただみはダメだけど、ケイ君だから特別に許してあげる♡」


「ありがたき幸せ」


「じゃあ…とある物語のはじまりはじまり〜」


 …むかーしむかし、どこか遠い場所に小さな国がありました。そこでは色んな人達が仲良く暮らしていました。とても良いところでした。でも王様は不安です。王様はみんなの未来を見ることができたからです。

 そんなある日、王様は自分が殺されてしまう夢を見てしまいました。王様は自分の見た夢が信じられず、4人の皇子達と家来をお供に連れて色んな国を旅しているという、とてもとても偉い占い師さん達に会いに行きました。二つの山と3つの谷を越え、ようやく占い師さんに会えた王様は相談することにしました。


「ワシは最近、自分が殺されてしまう夢を見てしまう。何とかならないだろうか?」


「王様。残念ながらその夢は実現してしまいます。ですがご安心下さい。王様の意志は必ず受け継がれることでしょう…」


 王様はがっかりしました。占い師さんも残念そうな顔をしています。でも王様は思いました。今自分がやられても、何年先かの自分の子孫達が必ず受け継いでくれるなら、お妃さまや皇子達を守らなければと。その日、王様は直ぐに帰らずに占い師さんがいるところでゆっくり休むことにしました。

 その夜です。皇子様の一人が占い師さんの娘さんと恋仲に落ちてしまいました。皇子様は娘さんと離れたくないあまり、なんと占い師さんの一族を国に招いて定住させることにしました。王様は反対しましたが、皇子様の説得に根負けし、更にその皇子様は娘さんと結婚することになりました。二人はとても幸せでした。

 でも、いいことばかりではありません。悪い人達が4人の皇子達を仲違いさせようとしていました。皇子様のお兄さんも結婚していて、お妃様のお腹には赤ちゃんがいました。占い師の娘さんも同じでした。お妃様は皇子様お兄さんの言い付けを守りお腹の赤ちゃんを守るため、国から逃げ出しました。でも占い師の娘さんは逃げません。何故なら、占い師の娘さんはもう長くなかったからです。皇子様は逃げるよう説得します。


「君が生き残ってくれれば、それで助かるんだ。頼む。逃げてくれ」


「…私は元々、長くは生きられません。それはお腹の赤ちゃんも同じです。でも、この子には生きて欲しい。それにそろそろ生まれます。この子には、私が作った魔法の中でも強いものをかけます。生きる為に必要な魔力を残せば、更に10年は生き長らえるでしょう…」


「だが…」


「私のお母様に既に話しています。この子が生まれたら、すぐに引き渡します。私は最後まで貴方と一緒に…」


「…君はそれでいいのか?君の子とは二度と会えなくなるんだぞ」


「私達の子ですよ?強く生きてくれます。それにこれは私のわがままなんです。長く生きられない。それでも恋ができた。それで十分なんです」


「…この子の未来は、どうなると思う?」


「私が見る限り…大丈夫です。貴方みたいな立派な人がそばについていてくれていますから…」


 その後、占い師の娘さんは元気な女の子を生み、マリーと名付けました。たった1年という短い間でしたが、それでも自分にしてやれるだけの愛情を注いであげました。そして女の子が1歳になる日、自分のお母さんに託して最後まで皇子様の横にいました。

 その女の子はその後、立派に成長しましたがそれでも命は長くありません。おばあちゃんになった占い師さんは15歳になった女の子に言いました。


「マリー。とても残酷なことですがはっきり言います。貴方の身体は長くはありません。あと数年が限度でしょう。でも貴方には選択する権利があります」


「選択する…権利…?」


「この場所で最後まで生きるか、或いは神花の巫女の儀礼室で、貴方のお母さんが占った未来を信じて100年眠るか…。もちろん、確実に出会えるかは分かりません。もしかしたら誰にも見つけられないかもしれません…」


 とても悩むところでしたが、女の子はなぜか迷いなんてありませんでした。誰かが、自分の大切な人が必ず見つけてくれる。そう思えたからです。


「おばあちゃん。私は…最後まで諦めないよ。100年先になっても絶対見つけてもらえる!」


「…あなたを見ていると、あなたのお母さんよく似てる。無茶をするところも一緒。でも本当にいいのね?後戻りはできないのよ?」


「覚悟はできてるよ!」


「わかったわ…」


 女の子は洗礼を受け、特別な魔法をかけられて宝石の中に閉じ込められました。その間、何年経ったかは分かりません。でも苦痛も感じることはありませんでした。

 そしてある日、宝石が割れて少しだけ感覚が戻ります。誰かに抱かれている感覚でした。とても大きな身体で、でもどこか懐かしい気持ちになれます。女の子はそのまま連れ出され、起きた時はふかふかのベッドの上にいました。そこには、姿が変わっても何一つ変わっていなかった、大切な人がいました。


「それがケイ君だったってこと…ってあれ?ケイ君?泣いてるの?」


「いや泣いてない。泣いてないぞ!」


「ふふ」


「…マリ。これだけは聞きたいんだ。確定的じゃなかったのになんで…」


「ケイ君ならきっと見つけてくれるかなぁって」


「その為に100年以上も中に入っていたと…。マリ。ちょっと来て」


「うん」


 すり寄ってくるマリ。笑っているがどこかおかしい。なので御構い無しに思い切り抱きしめてあげた。少し落ち着いて密着すると、小刻みに震えているのが分かる。


「マリ。怖かったな」


「大変だったんだよ…?いっぱい人が追ってきてね…一度捕まって、なんとか助かってまた逃げて…どこに行っても怖かったの…」


「大丈夫だから。何も心配するな」


「ねぇ、ケイ君…」


「ん?」


「私って…みんな不幸にしちゃうのかな…?みんな…みんな私がいたから…殺されちゃって…いやだよ…もう誰も死ぬところなんて…」


 マリはその一言を言ったあとに何かが崩れたように泣き出してしまった。子供のように。泣くところなんて見たことがなかった。いつも笑っていた。怖さを知らないものだと勝手に思い込んでいただけだった。この世界に生まれ落ちて物心ついた時から、彼女は恐怖しか感じなかっただろう

 あぁ…俺は馬鹿野朗だ。いつも笑っていて、俺の側にいたがるのをおかしいと思うべきだった。マリは…いつも怖かったんだ。だから恐怖を少しでも押し殺して笑った。笑って不安から逃れようとしていた。家族や周りに迷惑をかけているのだから、怖いなどと言ってる暇などない。少しでも足手まといにならないようにと必死になっていた。家族もいない彼女に頼れるものは何もなかった。ただ、俺という存在に賭けた。占いだって100%当たるわけじゃない。まさに生死をかけたギャンブルだ。殺気を感じやすいのも身を守る為だったのだろう。とても敏感に、敵に反応できるようそうなってしまった。

 今マリには同情も慰めの言葉も効果などない。必要なのは彼女が頼れる存在。俺だ。黙って何も言わずに彼女の側にいる。それだけでいい。気が済むまで泣かしてあげよう。


「辛かったよな。悲しかったよな。もう耐える必要なんかない。これからは俺がいるからな…」


「怖かったよぉ…!みんないなくなっちゃうよぉ…!もういやぁぁぁぁ!」


「一緒にいるから…いくらでも泣いていいよ」


「ああぁあああん…!」


 それからマリは5分ほど泣き続けた。色々あったろうに、過去や態度などをしっかりと察してやれなかった俺が悪い。だが、以降マリも落ち着きを取り戻した。そのあとは泣き疲れたのか、また寝てしまった。が、離れるわけにはいかない。まだあまりいい顔はしてないからな。

 しかし…結構大変な過去を持っていたもんだ。俺なら気が狂ってしまうかもしれない。だがそれもこれも全て『俺』という個人に託された運命。そう簡単に切り捨ててはいけない。むしろ切り捨てられてたまるか。

 初恋の人を妻にもらって手放しなどしない。やっと出会えたんだ。あの時、夕日に照らされた茶色がかった髪が長いあの女の子を。


なんとか時間を作ってみてもこれが限界でした…。11月はせめて3話は投稿したいと考えていますので、よろしくお願いします。

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