クラセフト王国へ
あけましておめでとうございます。2019年もよろしくお願いします。昨年は12月、11月と投稿できませんでしたが、本音はもう少し頑張りたいと思います。
滞在してから4日目。何とか精神的にも持ち直したのか、或いは俺に過去を話して泣いて中に溜まっていたものが全て吐き出せてスッキリしたのかマリの容態は1日経ってからはかなり安定していた。表情も柔らかくて問題はない。むしろ前よりも良い顔つきになった。好きな人には心から笑ってもらいたいものだ。
それなりに着替えて朝食を食べに行こうとすると丁度良いタイミングでメイドが案内しに来てくれた。メイドに着いていって小さな食堂らしき部屋に入ると、そこには朝食としてはやけに豪勢な食事が用意されていた。ディナーほどではないがそれでもかなり高い食材を使っていそうだ。しかも温かい。出来立て…とまでは行かなくても、食べる人のことを考えている。やっぱり食についてはこの世界、最低ラインは進んでいるな。
「美味しいな…」
「とても美味しいよ。きっと頑張って作ってくれたんだね」
「そうだな」
「ねぇ、ケイ君」
「ん?どした?」
「あの…ね?実は…ケイ君にお話したらお腹減っちゃって…」
「しっかり食べとけって。朝食は大事だぞ」
「じゃあ…遠慮無く!」
と…これがまた食べる食べる。今まで少食だったのが嘘みたいだ。というか、いっぱい食べてるマリも可愛いなぁ。あれ?俺もしかしてマリの事しか考えてないか?まぁいいか。仕事は仕事で考えれば。それから30分ほどで朝食は終わり、マリはとても満足した顔になって一緒に自室へと戻った。
「はー、お腹いっぱい!」
「よく食べるねぇ」
「急にお腹減ってきちゃってさ」
「おいしそうに食べるマリを見ると…」
「見ると?」
「俺も腹減るんだよなぁ」
「ふふっ。じゃあこれからはケイ君の前でいっぱい食べなきゃ」
「俺が食べらんなくなっちゃうだろ?」
他にも色々な冗談で笑いあった。今までこんなことは一回もなかった。マリが元気になって良かった。今はそれしか考えられない。しばらく話し込んでいたら1時間を超えていたので部屋に設置されていた洗面台やシャワーなどで身支度を整える。マリを心配して様子を見にきてくれたカレンはいくつか声を掛けてくれた。元気になったマリを見て安心したらしく、あとは淡々と今日の予定についての説明を始めた。
「本日はクラセフト王国に向かいます。護衛は…」
「ラグエルが来てくれるんだろ?」
「…どこでその情報を?」
「本人達が来て私達にそう言ってたけど?」
「…あの二人が、ですか。やりますね。この警備を掻い潜るとは」
「掻い潜るだと?」
「お気になさらず。問題はありません。次はあの二人を確実に捕まえられる警備陣形を組み上げますので」
「そ、そうか。頑張ってな…?」
「ええ…次こそは…逃がしません」
目が笑ってねぇ。マリを心配してくれた時のあの優しい目はどこへいった。戻ってきてくれ頼むから。つか警備を掻い潜って来てたのかい。あの二人は。
我に戻ったカレンに案内され、外にあるターミナルらしき場所で数分だけ待っていると少し大きめの馬車がやってきた。ただ周囲には前と違って護衛らしき馬車や兵士がいない。少し不安を覚えたがカレンは何もその件について触れることはなかった。ここは彼女を信用してみることにしよう。緊急時に備えてある程度は装備するが。
必要最低限の荷物を運び込まれ、扉が閉められると馬車がゆっくりと走り出した。
あまり変わらない景色をちらっと見てみる。しかし行く先にあるのは、それなりに整備された道や平原が広がるばかり。本当に何もない。せいぜい冒険者らしき人達や商業用馬車が通るのが時折見かけるくらいだ。護衛が誰一人として未だに見えないのが怖いが…。だがそう考えてみると、林やら若干薄暗い道やら通ってる割にモンスターや盗賊といった類を全く見ない。マリも一度スッキリしたとはいえ、完全に警戒を解いてるわけではなさそうだ。
「ねぇ、ケイ君…外のことなんだけど…」
「気持ち悪いほど何もいないな…」
「うん…。私も一応探知してみたんだけど、全くいない。ていうか、『障害になりそうなモノは完全に無くされてる』みたい。なんか草刈りしたあとっぽい感じがするよ」
「草刈り…か」
妙にスッキリとした感じ。かといってモヤが残る。まさに草刈りしたあとだな。
それから休憩を挟みながらとはいえ1時間近く馬車に乗っていたわけだが、結局何かしら問題が起きたわけでもなく、護衛の兵士も一切無しであるにもかかわらず比較的快適な旅が続いた。監視団体ラグエル…彼らの戦いぶりを直で見れると期待していた。
しかし考えてみればそんな戦いなど見れるわけがなかった。彼らは名前だけ知られているものの、その実態を知られるわけにはいかない特殊部隊。公安調査庁やFBIに相当するのだからそんじょそこらの組織とはやり方はもちろん、立場も責任も違う。知られるべきではない。むしろ誰一人にも知られることなく国民の安全を守らなければならない。他国の政府高官のような存在である俺に対してそんな重要なものをホイホイ見せるはずがない。俺に会いに来たのは何故か分からないが。いやもしかしたら…どこかで俺がエヴィロイドの反政府軍に加担していたことが漏れている可能性もある。いざという時は言い訳も考えておいた方がいいかもしれないな。まあ、大人しくしているに越したことはないか。
「ケイ君」
「ん?」
「ボーっとしてるけど…大丈夫?」
「ああ。大丈夫だよ。ちょっち後ろめたいことはあるけど…」
「大丈夫!ケイ君に後ろめたいことなんてないはずだもん!」
「マリには無いんだけどねぇ…ただ、ほら?彼女達にはさ」
「アヴァちゃんと、ルンレイちゃんに?」
「教団監視団体『ラグエル』。彼女達がただ挨拶に来たわけがない」
「…?」
「…時間もあるし、少し話そうか。実はな。エヴィロイドのあの貴族達による政治は180年ほど続いてたそうなんだ」
「ひゃく…はちじゅうねん…⁈」
「普通の人間が生きてるわきゃねぇ。何かしらの裏ワザを使ったんだろうが…」
「でもそれって私が封印された頃から考えても…まず250年は超えてるんだよ⁈」
「よく分かるな」
「封印された年数だけは逆算で一応わかるからね」
「伯爵に今の年数を聞いたのか?」
「ううん。あのミーティアって妖精さんに」
ミーティアに聞いたのか。本人はやけにマリに好奇心があった。気になったので接触していたのだろう。それで偶然年数を聞き出せたみたいだな。別に問題はないのだが、まさか250年近くとは。どんな裏ワザを使ったかはわからないが、あの国の過去は壮絶だな…。
「でもその話と、ケイ君とあの子達に関係があるの?」
「…実は、その政治に終止符を打った反乱軍に俺も加担していたのさ。危険因子扱いされたっておかしくはない」
「ケイ君。大丈夫。ケイ君は私の生まれ故郷をちゃんと元通りに戻しただけなんだよ?何も悪いことなんてしてないよ」
「はは…そう言ってもらえると助かるな」
「私はケイ君の奥さんだもん。支えてあげるのは当たり前だよ」
「そうか…。ありがとな。マリ」
マリのおかげで楽になった。大人しくしておけば問題ないだろうし、何より間違ったことはやっていないだろう。向こうにも向こうなりの正義があったのだろうが、俺は俺が間違えていないと思うことをやるだけだ。
…となんだか堅苦しいことばかり考えていたらいつのまにか俺はマリの頬をめちゃくちゃにもみまくっていた。
「へいふんやめふぇぇぇ」
「柔らかいなぁ…もっちもちしてるぅ…」
「おもひになりゅううぅ」
「もっちもち…もちもちだぁ」
「うりゅぅぅ」
「…あれ?俺何やって…」
「ケイ君〜顔がお餅になりゅうぅぅ」
「え?あ…ごめん」
あれ?俺は一体何を…?なぜか記憶がない。なんでこんなにマリの頬をこねくり回してたんだ?ついに俺も現実逃避か?
ヤバイヤバイ。こんなに記憶が一瞬切れるのがはっきりわかったのは夏休み後半に学校から宿題を倍加されて以来だ。二度と味わいたくない。前半全てを後半遊ぶために宿題につぎ込み、仲間達と分かち合ったあの前半を俺は忘れない。だが後半。テメェはダメだ。そして先公ども。次会った時は覚えてろよ。もしオレの代役にそんなことしようものなら、ナパームを使ってでも全て燃やし尽くしてやる。
「ケイ君からなんだかしょうもない憎しみを感じる…」
「クックック…」
「…私よりケイ君の方が情緒不安定な気がするなぁ…」
そんなことがありながら、俺達は奇妙なほど安全すぎる旅路を楽しんだのだった。




