放置はいけない
4話分投稿予定です。
通信問題を解決したと思えば直ぐにこれだ。マグノリアが絶対成功するとは思っていたわけではないが、まさか完全にバレるとは。しかも笑いながら俺を見ているマリが怖く感じる。
「ケイ君?私に隠して何をしてるのかな〜?」
「いや…やましいことは何もない。絶対に」
「私に嘘までついてしに行くことって何があるの?そんなに私が嫌いなの?」
ヤバイ。まさかこんなところでマリの欠点が影響してくるとは!
マリはある意味子供のまま大きくなった大人だ。死や物理的な苦痛についてはある程度の耐性があるものの、誰かに嫌われるという精神的な苦痛については一切の耐性が無い。子供さ故の独占欲。それが大きく影響してしまえば俺が現実でもアニメ・ラノベでも最も恐れ、凶悪な性格へと変貌してしまう。そう。つまるところのヤンデレやメンヘラと言われるものに。
緊急招集時はともかく今回は流石に適当な理由で宇宙開発に行ってしまった俺に非がある。
「すまなかった。言い訳するつもりはない」
「ケイ君も私から離れちゃったら…私には何にも残らないんだよ…?空っぽのままになっちゃうんだよ…?」
まずいな。このままだとマジでどうなるか分からない。
「…お母さんはずっと強いよ。自分が思っている以上に」
「え…?」
「お父さんを待ち続けた。数百年近く封印されながらも。もしかしたら見つけられずにずっと自分独りぼっちだったのかもしれないのに。だからお母さんは孤独に打ち勝って運命を手に入れた。それだけで十分だよ。それに」
「それに…?」
「熊すら一撃で殺す50AE弾を軽々扱う女の人なんて普通いないから」
「あ…」
マリは少し笑ってそういえばそうだ、なんて顔をしていた。先程までの暗い感じが一気に無くなって寂しさは既に消えている。まるで何かに気付かされたような感じだ。
「ごめんねケイ君。まだ不安だったの。本当にこれから先…私がまた一人になっちゃうんじゃないのかなって…」
「マリ…」
「でも大丈夫!私にはもっと楽しいことがあるもん!マグノリアちゃんにジュリアさんにウェスターさんに…友達もいっぱいいる。 ケイ君も、私から離れてもきっと私のことを思ってくれている。それだけで十分だから!」
これはまずい。非常にまずい。俺がマジでマリを嫌う訳がないのだが、余計に悲壮感を増した感じで俺にダイレクトアタックしてきた。こんなことを言われたんじゃあマリから離れるわけにはいかないじゃないか。緊急時は仕方がないとして。
マグノリアめ。狙ったな。
「マリ。実はとっておきのプレゼントを用意していたんだ。それで許してくれないかな?」
「私に?」
「マリがきっと憧れてた場所。行きたくない?宇宙旅行に」
「え…?宇宙旅行⁈行きたい!」
「ではこちらへどうぞ!」
ゲートの前に案内し、入ることに少し躊躇っている彼女の手を繋いで宇宙ステーション《クーガー》へ入る。入った瞬間、低重力によりふわりとあがり、後ろを振り返るとスカートがめくりあがって赤くなっていたマリが見えた。平手打ちでもされるかと思ったが逆に抱きつかれた。スカートがめくり上がったことより恥ずかしい事を経験しているとはいえ、まだ恋する乙女的な感じが抜けていないのがいい。
「…見えた?」
「ばっちり」
「エッチ…」
「男の本能なんで仕方ない」
「もう…」
「さ、見えるところまで行こうか。綺麗な星が見えるよ」
展望デッキに手を繋いでゆっくり進む。水の中を泳いでいるような感覚だが、水圧があるわけではないのでスイスイ行けた。展望デッキに到着すると、覆われていた装甲板から専用の厚く作成したアクリルドームが解放され、綺麗な星々を見せてくれる。まさに天然のプラネタリウムだ。マグノリアも一緒に来ていたので展望台デッキまで飛んでついて来てもらう。
「綺麗…」
「月はいつもそこにある…か。やっぱりフラッシュシステムの構築を急がないと…。D.O.M.Eの開発も…」
「マリへのプレゼント。宇宙旅行…ていうのは少し味気なかったかな?」
「十分だよ!いつか星と一緒に泳いで見るのが昔からの夢だったの!ケイ君大好き!」
俺の顔に小さくキスをしてくるマリ。まあこれで解決したんだ。少し嫌われても、それだけ喜んでくれたのならよしとしよう。俺は嫌われるのは別に好きじゃないが、そこまで人間関係を崩していきたいなんて願望は一切ない。マグノリアは何だか気になることを言っていたがどこで聞いたか忘れた。気にしないでいこう。
1時間ほど楽しんでもらったあとは伯爵の屋敷に戻ってゆっくりさせてもらうことにした。何せ魔力の大量使用がかなりきついことがわかった。趣味のスポーツをやった後のような感覚だ。ただ、前はそんなことはなかったのでこれは大量使用した時のみに起こる現象なのだろう。或いは守護龍故の体力があるのか。そこはさして重要ではないので考えなくてもいいだろう。
しかしマグノリアが俺の部屋から出たのを見たマリは俺がベッドに横になってからすぐにオートロック式のドアの鍵を閉めてしまった。カーテンも閉じて何を始めるのかと思いきや、俺の真上に乗っかってきた。
「ケイ君の匂いだぁ〜」
「俺なんだからそりゃするだろ…」
「この匂いがしないと安心できないの〜」
「…マリ?なんかおかしくないか?」
「え〜?」
マリの顔を見たのが失敗だった。目を見た瞬間、急に身体の動きが制限されてしまった。なんとか解除を試みるが全然外れない。ふとマリがベッドから離れた隙に解析機関で俺の状態を調べた結果、魔術的な麻痺状態にかけられていたのが判明した。しかもその麻痺状態の備考として闇の守護龍というものが含まれていた。そうかなるほど。闇の守護龍の魔法を使って俺を拘束したわけだ。魔法の飲み込みが早いなぁマリは…。
違う、そうじゃない。拘束された状態からじゃ制御が効かない。おまけに俺自身のスキルすらも封じられてるときた。つまり今、俺は何一つできない。抵抗することも叶わない。何せ相手は同じ守護龍。まず突破は不可能。仮に医療用の筋肉外部電気信号送信機を作り出せたとしても無理だろうな。
「ケイ君〜ダメなんだよ〜」
「な、何が?」
「ケイ君は私の旦那さんなんだから…私をちゃあんと気持ちよくしてあげないと〜」
「間違いじゃない…間違いじゃないけどさ」
「限度があるって言いたいんでしょ?でも、今日はだぁめ。私。ずっと切ないままなの。疼いて仕方ないの。でも気づいたんだぁ…。ケイ君と同じ力を持ってる私なら…ケイ君と一緒に気持ちよくなれるんだって…」
「ほお…流石だマリ。と、言いたいところだが残念だな」
「え…?」
マリの手を掴んでベッドに引きずり込み、一転攻勢の形になる。顔をよく見るとなんだか淫魔のような顔をしているように見えた。マグノリアか誰かに吹き込まれたか?いや、マリがやったのか。この子猫ちゃんめ。
「なん…で…?」
「まだちょっと甘いんだなぁ。気が抜けてきたところで拘束が弱くなった。この程度なら俺だってなんとか抜け出せる。さて…マリ。攻められるのはお好きかな?」
「け、ケイ君。今回のはノーカンでお願いでき…ないよね…?」
「Exactly!マリが誘ってきたんだからな?後悔するなよ!」
「んむぅ⁈」
結局、自分からマリを襲うことになってしまった。彼女の体も正直になってきている。これから何時間と可愛がってやろう。実はマリに襲われてみたいという願望は無きにしも非ずなのだが、ただ俺は自分が主導権を握ってた方が好きなのであまりリードされたくない。
ああ、そういえば…マグノリアは今何をしてるんだろうか?最近、顔を出さなくなったが…ま、大丈夫か。
「…違う違う!そんなんじゃできないんだ!」
貸し部屋に響く自分の声。お父さんならこれくらい容易く作ってしまうのだろう。でも、雷の守護龍の端末としてボクに許されているスキルの利用権限は『設計・開発の技術解放、及び開発』だけ。設計は自分でやらなきゃいけない。
「無線給電の技術体系は出来上がってるんだ…あとは受信部を何とかしないと…!」
単に受信させただけじゃ意味がない…それを貯蓄した上でボク独自に作り出した試作超大型加速粒子砲に電力を送り込む必要がある。ただその際にバッテリーに貯蓄するという手順を踏んでしまうが故に電力がどうしても減衰してしまう。かといって直接通電させてしまうと無線給電さえすれば実体弾以外は完全無補給で戦闘可能になるというボク専用外骨格こと試作5号機の売りとなるメインがなくなってしまう。何かないかな…電力を全く減衰させずに通電可能なマテリアル…そんな夢のような材料なんてあるはず…あ。
「超伝導…」
超伝導なら減衰させずにできる!これなら完璧だ!通電する箇所に超伝導現象が起こせるマテリアルを組み込んで設計を少し変えてやれば…よし!これなら外観を変えずにできる!
…でも受信部がダメかな。デザイン的に似合わない。パラボラとかダサい。基本的にどんな形でもいいのだけど、やっぱりかっこよさと強さは比例させなければならない。比例する、じゃない。させる。お父さんから習った大切なこと。やっぱり羽みたいに広げた方がいいよね。
まず背中にリフレクターを装備して受信率を最大に。リフレクター本体には反射率重視で専用合金を使おう。それと認証システムは…どうかな。いや、魔術も科学も似たようなところがある。セキュリティが甘すぎて認証プロセスを読み込まれてサテライトシステムを乗っ取られる可能性も考慮しなくちゃならない。念のため、というか重要なことだから認証プロセスについてはまた構築しておこう。お父さんが作り出したセキュリティシステムを流用して内部情報はボクが構成する。これで完成する。
「さぁて。サテライトシステムの開発はこれで一息ついた…あとはコイツだけ」
開いた設計図はボクが初めて造ることになる戦略級兵器。試作超大型荷電粒子砲。まあ名前をつけるのだとしたらジェノサイド・キャノンってところかな。今のところは加速器自体が不安定だからジェノサイドといえるほどの破壊力はない。それでも絶大な力はある。
実はお父さんに隠れてちょっとずつパーツを作る予定だったりする。まだ作ったことはないけど、ちまちま作っていつか完成を目指す。お父さん風に言うならばデ◯アゴス◯ィーニの週間作るシリーズに近い。円とか言う外貨の価値は分からないけど、少なくとも普通の人にとってはとてつもない金額になるらしい。お父さんの記憶から読み取れる限りだと、感情としては達成感と後悔の2種類しかない。…あまり見ない方がいい記憶もあるんだね。
それにしても驚いたなぁ。お父さんが宇宙ステーション造るとか言い出してから数時間後にいきなり、制限付きだけどボクにも同じ開発スキル『忘れ去られた智慧』が使えるようになっているなんてさ。いや、まあボクとしては嬉しいから気にしないんだけど。むしろ喜ばしいことなんだけど。何故か鑑定スキルも使えるようになってたから試しにやってみたら、ボクの設定が守護龍の端末になっていた。すごく気になる。
「やぁ。元気にしてるかい?マグノリアちゃん」
「近接レーダーに反応が無かった…⁈誰⁈」
「僕は…あぁ。言う必要はないか。君はそうだったね。守護龍の端末。世界の防御機構が自ら創り出した『進化』の結果」
「…これだけは聞かせてもらう。貴方は敵?味方?」
「中立!…っていうか、もう知ってるんじゃないの?君の主人…お父さんの記憶を読み込めるならさ」
「じゃあもしかして…108発の弾丸を撃ち込まれたふざけた事しかしなさそうでしょうもない野郎こと御使ウラル…その人?」
「うわぁ…僕そう思われてたのか。ハインド君もひどい」
「でもそんな人が何故ここに?」
「何故って…君の状況を説明しに」
「ボクの状況?」
「今の君は守護龍端末、すなわちハインド君の下位互換として世界に登録されたんだ。だからスキルが使えるようになった…。こう言うことさ」
「じゃあなんで今までボクにこのスキルが使えなかったの?」
「この世界自体、まだ学習が未熟な子供でね。世界っていうのはさ。修正する力を持ってるんだ。分かりやすく言うならば人類含めた全ての生命を生かすための防御機構だよ。その防御機構が学習し、色々と考えた結果、君はハインド君、つまり雷の守護龍の端末、下位互換として登録された。こんなところかな」
「その言い方からすると今まで端末は無かったように聞こえるけど?」
「無かったように、じゃない。無かったんだ。今回鑑定スキルが君に搭載されたのも登録された効果の一つさ。もちろん、ハインド君と同じアップデート方式だから僕が改良しないと意味がないんだけどね」
「はぇー。壮大すぎてわけわかんない」
「世界なんて壮大だから気にしたら負けだよ。あとコレ、ハインド君と君の分のアップデートデータが入ったやつね。いや〜マグノリアちゃんとハインド君の鑑定スキルが全く同じもので制限無しだから良かったよ。制限あったら個別にやんなきゃいけないからさぁ」
「魔法の世界なのにデータ…しかもフロッピーディスクじゃん!古っ!」
「うるさいなぁ!アメリカの核運用部門だって今もフロッピーディスクを使ってるんだ!」
「それって最新機器にするための資金が無いからじゃ…」
「サイバー攻撃されないためにと言って欲しいね!それにまだ動くからいいんだよ!」
「あれ?でもフロッピーディスクの供給元ってもうないから…」
「…そうだよ。リサイクルショップからの買い込みだよ」
「お父さんのいた世界の天下とも言えるアメリカがフロッピーかぁ…しかもリサイクルショップ」
世の中、どんなことが起きているか分からない。そんなものなんだろう。私はそう考えることにしてフロッピーディスクを預かり小さな机の上に置く。
「ねぇウラルさん。闇の守護龍について聞きたいんだけ…ど」
振り返った時、既にそこには何も無かった。あの人の姿はどこにもなく、ただ無機質な部屋が見えるだけ。確かにお父さんの記憶通り不思議な人。何かを楽しんでるような…かといって悲しい終わり方を許さないような雰囲気がある。確かに面白い人だ。御使という割には…何よりも『人間臭さ』がある。人に造られたボクが言うのもおかしいとは思うけど。
「案外、ウラルさんの上司らしき神様なんかも元は人間だったりして…。それはないかな?ま、想像するのは悪いことじゃないもんね」
次は19時付近に投稿します。




