出張へ
遅くなりました。
様々な準備と期間を経て、遂に出張前日になった。
マグノリアには専用のラボ型パワードスーツを開発して渡して置いてある。これからのことも考えて小型化して出力が下がったが簡易的なFCジェネレーターを追加。注文にあった機能はいくつかオミット。その代わりいくつか独自に機能を追加しておいた。
あと今まで俺が借りていたシャツは伯爵の古着があったのでそれを使わせてもらっていたらしい。ただ伯爵のサイズと俺のサイズが割と合っていたのでそのままいくつか貰うことにした。
必要になりそうな服は庶民的な店に行って動きやすい私服と下着を買い、仕立屋に行ってそれなりのものを作って貰った。この世界にはスーツは割と普通らしいので、中世風なスーツとジャケットを一式で作ってもらった。ベルトはおまけしてくれた。靴も革靴を履いていきたいので靴屋に行ってそれなりの靴を買った。店主曰くモンスターに噛まれでもしない限りそうそう壊れないとか。伯爵に紹介してもらった店でもあるので信用できる…したい。これでそれなりに悪くない格好にはなった。
色々と衣料品店を回ってマリの着る物も確保し、露店を物色してマリが欲しいと言う魔術系の指輪なんかも購入。紫色で闇属性の魔力を強化してくるものだとか。綺麗だし悪くない。流石にエンゲージリングはつけたままにしていくみたいだ。
帰ってきた頃には夕方。それも日がかなり沈んでいた。夕食とシャワーを浴び、あとはゆっくり寝て明日に備える。それだけなのだが…
「…マグノリア君。こんな夜中に何をしに来たのかね?」
「…いや何も」
「嘘つけ。さりげなく俺のPCから何か抜き取ったろ。怒らないから話してみな」
「…暗号通信のサンプル用ダミーデータ」
「なんだ?通信規格でも合わせるつもりか?」
「…別に」
マグノリアは何か話すわけでもなく俺の部屋から出て行ってしまった。まあ通信規格がバレたところで魔術的な見地からはまず解析不能。傍受もできない。だがマグノリアがそれを知らないはずはない。あいつと俺の記憶領域は直結してるんだからな。仮に裏切るとしても、なんのメリットもない。俺がまず破られることはないと自負するレベルであることを分かってまで何をするつもりだ?
「ケイ君。マグノリアちゃんは…今頑張ってるんだよ」
「マリ?」
俺の隣で寝ていたはずのマリが少しだけ起き上がる。
「私も少ししか見てないけど…一生懸命に何かを作ってたの。きっとケイ君に知られたくないんじゃないかなぁ?」
「そりゃなんでまた…」
「自分で努力して作ったものほど嬉しい物は無い…でしょ?」
「隠し事の一つや二つ、あってもおかしくは無いか…」
「それに裏切るなんてことは私はしないと思うな」
あいつも一人で何かをしよう、と考えるまでになったわけだ。本当に俺から離れ始めて来ている。やっぱり少し寂しい。だが、同時にマグノリアは自分で何をすべきで何をしてならないのか、という自己判断も可能な領域に踏み入っていると言うこと。これ以上にない成長っぷりは喜ぶべきなのだろう。
「ふぁ…まだ2時…ケイ君おやすみ…」
「寝直しだぁ…」
色々と思うところはあったが、精神の成長が見えた機会はいくらでもあったので今更だった。眠たさが強かったのでそんなことも忘れ、マリの横でゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。
そして何か夢を見ることもなく、朝を迎える。時計は5時42分を示している。静かな寝息をたてているマリを起こさないよう、ゆっくりと立ち上がろうとするが、何かに手を掴まれてまた布団へと引きずりこまれてしまった。
「ケイ君…どこ行くの?」
「コーヒー飲もうかなぁって。食堂開いてるだろうから、マリも淹れてもらって外に行って飲まない?」
「行く!」
流石にだらしない格好で行くのはまずいのでワイシャツや普段着として使っているズボンを履いて身支度を整える。マリは買ったばかりの動きやすいワンピースのような普段着を来てネックレスをつける。うん。かわいい。
それなりに身の回りも片付けて一階にある食堂へと向かう。するとそこでは新人の料理人達が必死に大量の食材の下処理を食卓用テーブルの上において作業していた。動きが拙い料理人もいればそれなりの速さで下処理を終わらせて行く人もいる。細かい作業も彼らで終わらせてしまうのか、大量のボウルもいくつか一緒に置かれていた。
「公爵様⁈ああっすいません!」
「おはよう。気にしなくていい。皆、作業を進めてくれ」
「「はい!」」
再び作業を始める料理人達。使用人も含めて食べる人は沢山いる。下処理も大変だ。
とりあえずユアンさんを呼んだが、中から出てきた料理人曰く業者廻りで今は外しているとのこと。自分で淹れようかと考えていたところ、折角なのでコーヒーを淹れるのが上手い夜中にこっそりカフェ兼バーを開いているという女性料理人に用意してもらってはどうか、と言われたのでその人に注文することにした。俺はブラックでも大丈夫なのだが、マリがブラックは飲めないかもとの話をなのでミルクと砂糖を入れてもらった。
温かいコーヒーが入ったマグカップを受け取った俺は銀貨を3枚ほどチップという名目で渡し、その足で裏庭へと向かい朝日を見ながらコーヒーを飲む。
「やっぱりシラル産のコーヒーは美味い…」
「おいしい…」
少しだけ冷たい風が吹いていく。この地域は秋のような気候だ。それなりの暖かさもあるが、寒さもある。さて、と。コーヒーと寒さで頭もスッキリした。今日すべきことを確認しておこう。
まず荷物をまとめて再チェック。それから港に行って許可書と一緒に同封されていたチケットでトシュメロ連邦まで向かう。海路なので7日間ほどかけるらしい。少しきついな…。前に一度伯爵と雑談している時に飛行船もあると聞いたが、基本的に貨物特化型。それに各国による空路の国際的な法律が存在しないために空路に特化した飛行船運用会社同士による独自の共同声明に従って空路の安全は保たれている。つまり国としては旅客輸送として飛行船は推奨していないということだ。昔、伯爵の知人が一度乗って近くの国まで行ったらしいが、乗り心地は最悪とのこと。貨物輸送に進化した結果だ。仕方ない。
7日間、それなりの船には乗れるだろう。だが内部がどうなってるかは全く分からないので場合によってはあまりよろしくない可能性も考慮しておかなければならない。そのくらいだったら…いや、このプランはよろしくない。プランBは残しておく。まずはプランAだ。時間的に少し早いが、出航時間は15時。内部を確認しておくのも大事だ。
「マリ。少し早めに港に行こう。何かあるかもしれない」
「行きたい!行こ!」
「身支度は整ってる。と、その前にマリ。荷物をまとめて置いてくれ。ちょっと伯爵に用があるから」
「うん。ケイ君、早めにお願いね?」
「あいよー」
少し早めではあるが、知りたいこともあるので伯爵の部屋に向かう。
ノックをしてゆっくり扉を開くと、そこには慌ただしく資料を纏めたり論文を書いているリリスがいた。何故かリリスが書いているのはまあともかく、珍しくロアやミーティア、ジュリアさん、伯爵までもが集まってわちゃわちゃしていた。
「あー…終わらない…終わらないぞリリス君」
「伯爵様よぉ…何がどうなったらこんなことになるんだよ…」
「溜めに溜めこんだらこうなんのよ。もう…いつになったら終わるのかしら?」
「あら〜。でもリリス君がお婿さんに来てくれるのでしょう?」
「ま、まあそうなんだけどさ…」
「修羅場中失礼します。伯爵。ちょっと色々聞きたいことが」
「簡潔に言うのだ…」
「まずアルスのある大陸地図、それと世界地図が欲しいです。あと俺が乗るような船の内部について聞きたいんですが」
「あぁ…地図は…ミーティア。渡してやれ。船内は悪くないだろう…海賊には気をつけたまえよ…」
「海賊⁈」
「あ、お父さんの言うこと間に受けないでね。たしかに出るときは出るみたいだけど」
「公爵…海賊に襲われている船を見ても助けようなんて考えない方がいいぜ。海は国家主権が及ばない未知の領域だ」
「忠告痛み入る。無茶はしないさ」
修羅場になっていた部屋から出て、ミーティアに渡された大陸地図を小型スキャンカメラでデータ化。更に以前、航空レーザースキャナードローンから取得した測量データを不可思議で呼び出し地図データと重ね合わせる。いくつかズレていたりする場所は修正し、残りは予測可能な範囲で地図を作り出した。
「いくつかズレはあったが…さほど問題はないと見る。いや待てよ?確か宇宙にいるGPS衛星は既に起動済みのはず。ネットワークも《極》をサーバーに稼働している…。画像測量データが使えるじゃないか!」
すぐさまクーガーに接続して各GPSに自動撮影させておいた写真を読み込み、簡易的ではあるが2D測量データを作成。再び大陸地図と重ね合わせて予測範囲に存在していたズレを全て修正。これで正確無比とまでは言えないが、少なくとも今ある大雑把な大陸地図よりもかなり精密な地図を入手できた。これでGPSの即位データに同調にすれば、この世界でもナビゲーションシステムがしっかり誘導してくれる。
次は船だ。別に船に乗りたくないわけじゃない。問題は海賊だ。海の中にモンスターもいるかもしれない。だが、それなりの船に乗れると言うことは海中モンスターはそもそもいないか、或いはさほど脅威ではないということだろう。となると海賊に襲われる可能性をまず第一に考える必要がある。いくらなんでも俺が乗ることになる船を改造するなんて無茶だ。1隻以上の船に囲まれた日なんかには侵入を免れることはまず不可能。仮に迎撃するとしても俺のような人間が戦ったら船の風通しが良くなるだけで何のメリットもない。
…プランB。これだけは使いたくなかったが仕方ない。艦隊決戦構想の実現。通称名は2号計画。本来ならやらないはずの計画だった。だが国家主権領域に近海ならともかく排他的経済水域が含まれていない…というか海洋法など存在しない世界だ。敵なんぞいくらでもいる。俺の祖国こと日本はシーレーンこそ最後の砦。考えが正しいかどうかはともかく、大日本帝国海軍があそこまで肥大化し、陸軍が疎かになったのもよく分かる。自衛隊が出来てからもその考えは変わっていない。海を守らずして国を守ることなど到底不可能。ならば艦隊決戦構想こそ今必要な海軍ドクトリンだ。
実を言うと、既にプランBを発動する為の艦隊構想及び艦の設計はある程度終わっている。元々実行に移すつもりではあったが、過剰な軍備に他国からとやかく言われるのが怖かった。しかし考えてみれば、黒鉄の城が海に浮かぶなどこの世界の人間からすれば謎。俺が無駄なことをしなければいいだけの話に過ぎない。この世界にワシントン海軍軍縮条約なんてものは存在しない。まあ元の世界でも有名無実化した条約だったが。それに艦隊決戦構想とはいえ、ww2をまるまる真似するわけじゃない。
俺の頭にあるのはミリタリー雑誌や書籍に書いてあったテンプレートな戦術。それも基本的な包囲殲滅戦術。だがやり方を知っているだけで指揮はできない。俺ができるのは、せいぜい其の場凌ぎの対処。そして戦力をギリギリまで隠すことのみだ。それに今回は渡航だ。戦艦を中心に4隻の空母機動部隊、巡洋艦10隻、駆逐艦30隻、潜水艦4隻などというミッドウェー並みの最高戦力を用意する必要はない。もし用意することになるのであれば、それはアルスが大国や連合軍と戦う時のみだろう。或いは…『全世界を味方につけても勝てない国、或いは組織』が戦闘を仕掛けてきた時か。いずれにせよ、そんな戦いは起きないでほしいものだ。
「さぁて。やる事は一つだ。抜本的に改造した重巡洋艦を生成してトシュメロ連邦に行こう」
抜本改造した重巡洋艦。それこそが俺が一番最初に改造し、以降改造する際の指標にした初めての艦。その名も、重巡洋艦『加古』。いや、正しくは『11式多目的重戦闘艦 加古』と言った方がいい。それほどまでに、そう呼べるほどまでに重巡洋艦加古は改造されている。この多目的重戦闘艦はこれから先、ハインド騎士団の海上戦力としても活躍してくれることだろう。
他にも多目的軽戦闘艦や総司令戦闘艦、駆逐型戦闘艦、航空機動母艦、潜水戦闘艦と作ったが、それはまたいずれ出るだろう。本当に戦闘艦として出ない日を祈りたいところだ…。
「ケイ君いた!全部準備できたよ!」
「お、ありがとなマリ。そんじゃあ行こうか」
「いざ!仕事兼新婚旅行へ!」
73式トラックに荷物を全て積み込み、挨拶だけして屋敷を離れ不可思議をナビモードにしてGPSシステムを起動。港まで一気に向かった。
「…行ったみたいだよ。マグノリアちゃん」
「お父さんには悪いけど、これもボクなりのやり方なんだよ。いつまでもお父さんに頼ってちゃいけない。ボクがやらなきゃ…」
「で…?どうするの?一応ローディーと連絡は取れてるけど」
「ジェノサイドキャノンは試作段階だけどまだテストもしてない。アレを…『ボク達の原型』を倒すには足りない…」
「アドヴァトラについて何か分かった?」
「全く。でも理論じゃなくても分かる。あのシステムは全て解放する、というよりもボク達の体を活性化させてる。励起してるんだよ」
「リミッター的な?」
「だったとしても励起状態は基本的に無制限。多分アドヴァトラは、本来のパワーを発揮する為のもの。低エネルギー状態下のボク達がいきなり発揮すると身体に負担がかかる。でも次第に慣れてくんだろうね」
「無意識に発動する機会が多い。やっぱり…来てるのかな?」
「来てるかも…いや、来ているんだろうね。だからボク達の原型とボク達は共鳴する。場所は知られてないと思う。でも、情報は漏れてる可能性がある」
「…ローディーから魔術通信。エーキル伯爵から情報が来たって」
「何か起きた?」
「別の大陸で怪事件発生…ギルドは対策を検討中。被害者は皆妖精だって」
「まだ探してるみたいだね。到達予想は1ヶ月以上はある。でも、これは私達が片付ける。お父さん達に迷惑がかかったとしても最小限にとどめないと。その為にも…」
「強くならなくちゃね」
残りは明日22時以降に投稿予定です。




