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今回はかなり短いです。ごめんなさい
Mi-35.Mk-Ⅲに全員を乗せ、ペンデュラムの空路指示に従って軽快なフライトを楽しみながら約10分。ペンデュラム曰く、実のところ本来なら獣道にも突っ込んでいかなければならない歩きでは5時間どころか7時間ほどかかるらしいのだが、スーパーハインドにかかればこの通り。あっという間についた。
街の前で着陸するというと、何故かギルドーザーが拒否。せっかくホバリングしていたのに移動しろと言われてなんとフォリエト国の宮殿のど真ん中へと降下することになった。当たり前だが人が集まってきて騒ぎ始めた。
《本当にいいのか⁈大丈夫なのかよコレ⁈》
《大丈夫大丈夫。安心してくれー》
《何で棒読みなんだよ!》
結局庭のある程度広さのある場所へと着陸し、そこで降りることになった。もちろん色々と騒いだり怪しい目で見てくる者達で溢れていた。近くにいた兵士も寄ってきたので流石に文句を言われるな…と言い訳を考え始めていると兵士達は人を退避させて周囲から野次馬を完全に排除させてしまった。何があったのかと思ったが、いつのまにか兵員輸送室から外に出ているギルドーザーが兵士と話している。おそらく彼が話をつけてくれたんだろう。
しかし、まさか宮殿のど真ん中にヘリを降下させるとは思わなかった。当たり前だが武器を搭載した状態ではあるものの射撃システムは一切使ってない。いや…だからってなぁ…ホワイトハウスにモデルガンを数丁抱えて突撃するに等しい暴挙だぞコレ。
とりあえずメインエンジンを切ってキャノピーから出てヘッドセットを外した。座れるとはいえ軍用ヘリのコックピットの居住性が決していいわけじゃないからな。しかし輸送室を中からどうやって開けたんだ?内部はスーパーハインドだから英語で書かれてはいるが…
「なぁペンデュラム。ギルドーザーはどうやってハッチを開けたんだ?」
「なんか赤い何かがあったっすから。それ押したんすよ」
ギルドーザーが勝手にハッチの開閉用ボタンを押して偶然にも空いた、ってわけか。納得できないわけじゃないが…なんかなぁ。まあいいか。
取り敢えず大きな庭にスーパーハインドを放置した俺はギルドーザーに呼ばれて続いていく公爵達の後を追った。
宮殿に入ると、ついていけばいくほど豪華になっていく装飾やアルスの城にはさほどいない沢山のメイドや執事などの使用人に驚かされる。というかこれが本来の中世と言った感じだ。アルスほど必要最低限かつ、軍備に特化していた名残はない。いやあったらあったで困るわ。そんな軍事国家がいくつあってもたまったもんじゃない。
近衛兵はそれなりにいい装備を持っている。ただ、やはりというか全体的に装飾が多い。あまり実践的なものとは言えないな。儀礼用の類なんだろう。
しばらく歩いた先に見えたのは、人一人が開けるには明らかに無理そうな巨大な扉。そこはある程度開いており、その先には若い男性と年老いた老人がいた。二人の前に立った他の公爵達はそのまま跪いたので俺もそれに倣う。すると、少し枯れた声で国王らしき老人が話し始めた。
「アルス王国公爵諸君。この度は招集させてもらってすまなかった。だが、これは国を揺るがす一大事だったのだ…」
「フォリエト国皇子としても謝罪したい。この度は本当に済まない…」
「いえ。問題は既に解決済みです」
「つまり何か?あの動く鉱石を倒したというのか⁈」
めっちゃ食い気味だな皇子様。いや驚くのも無理はないと思うさ。あんなバケモン俺だってタイマンしたらまず勝つのは無理だ。オマケに普通の魔法ときたら絶対に無理だ。コアを割るしかなかったんだからな。
「その通りです。殿下」
「素晴らしい…やはりアルスは仕事の質が違う。我々も、こう在りたいものです」
「しかし殿下。実は悪い話が一つだけあります」
話を切り出してきたのはベリア。諜報戦の中を戦う情報騎士団の力、見せてもらおうじゃないか。
「この者の言う通り、敵は倒しました。しかし敵を完全に破壊したわけではありません」
「ど、どういうことだ?」
「この者…アルス王国の新しき第六席公爵、ハインド・ウォッカと融合したのです」
おいおいおい。マジかよ。まさか本当のことを言い出すとは思わなかったぞ。俺を売り渡すつもりじゃないだろうな…⁈
「融合…だと⁈いやしかし…」
「これは事実です。しかし、危険なものを体内に封じることによりフォリエト国が安全になったのも、また事実です。我々としてもこのままの状態が一番最善の選択かと考えています」
「…私には判断し兼ねない。ここは…王に聞くべきだと私は判断する。では父上…」
「うむ。確かに融合してしまったのは事実のようだ。しかし、あの危険なものを輸出しようとしていた我々としても今更回収しようとは思ってはおらん。守…然るべき者が管理すべきである。アルスの公爵達よ。其方らならば大丈夫だろう」
「光栄です」
なんだ…?こんなあっさりと済ませられるものなのか?済むのなら気にはしないが、なんとも言えない。普通なら俺を引き止めるのが当たり前だろう。フォリエトリウムは膨大な魔力を生み出せる夢の鉱石だ。それが俺の中にある。仮にも輸出しようとしていたんだ。まさかそのまま放置してサヨウナラって訳にはいかないはず…
しかし、俺の予想とは裏腹に話はどんどん進んでいきベリアの少しばかり虚が含まれたストーリーが展開された。それから礼と輸出の件が無しになった詫びとして色々と取り決めをすることになった。これはギルドーザーがサインしていたのであまり気にする必要はなさそうだった。
で、結局何か俺にあるかと思いきやそのまま帰ることになった。何もないのが余計にモヤモヤしてくる…。
「では、我々は帰投します」
「アルス王によろしく頼む」
「承りました」
ノルゴルが最後にそう言って部屋から全員出て行く。俺に何も言われなかったのは何故なんだろうか…。色々考えてみたが結果は出ず、もう何も考えないことにした。知らなくたって死ぬわけじゃないし。
帰り道も案内してもらいながらスーパーハインドへ戻った俺は公爵全員が乗り込んだのを確認し、全体の点検を済ませた後再びアルスへ向かう為にギルドーザーが作り出したゲートに飛び込んだ。
「父上。良かったのですか?あの者…ハインド公爵に鉱石を奪われてしまったようなものですが」
「否。我々には、今の人間には過ぎた物なのだよ。アレは然るべき者…雷の守護龍に渡してこそだろう」
「水の守護龍…ハルアキ殿の助言が役立ちました」
「うむ。あの鉱石もまた、『招かれざるモノ』であったと聞いた時は驚いた。しかし…この世には幾らあるのだろうか…」
「その為に守護龍は存在しているのでは?」
「そうだな。しかし我々も彼らに頼ってばかりではいかぬ。自衛手段や危機意識を持たなければならん。再び彼らに『同じこと』が起きないようにしなければ…」




