欠片を探して
忙しくてなかなか更新できませんでした…
まただ。またこの夢だ。よく夢を見るもんだな。いや、今回夢を見せてくれるのは俺自身の脳みそじゃあないな。
「ウラル。お前か。毎度毎度ふざけるなよ」
「ヒューッ!彼女を前に欲情してる君に言われたくないネ!」
ウラルは俺にイラつかせる言葉を放つと、直ぐに机と椅子を用意して俺を座らせる。今回はコーラとポテチという明らかに高カロリーな間食を用意してきた。しかも菓子パン付きだ。どう見ても太る未来しか見えない。
机から出てきたコップにコーラを注ぎ、取り敢えず飲み干す。ウラルはそれを見てから話を始めた。
「さて、と。今回は僕が関与しにきたわけじゃないんだ」
「どういうことだ?」
「いや、実は彼女についてなんだけどね?確かに僕は彼女にこちらに来れば転生させて会わせてあげるとは言ったんだけど、まさか会話を覚えてるなんて分からなくてさ」
「そりゃお前のミスじゃね」
「いやいや。僕がそんなミスするわけ・・・ナイヨ。ウン」
おいコイツ間を開けた挙句、後から棒読みになったぞ。本当に神の御使いなんだろうな?時々ウラルの仕事ぶりが不安になることがあるんだが、間違いではないだろう。その後、色々と言い訳じみたことを延々とウンザリするくらい聞かされた。ただ、マリに関しては3つの助言を与えられた。
まず、闇の守護龍は欠番であったはずなのだが、どうやらマリの覚醒と共に闇の守護龍としてのスペックがマリに備わったらしい。しかし既に闇の守護龍としての資質を持つ人物にいくつかのスペックが移行しており、かといって守護龍を辞退できるわけでもない。もしかしたら、闇の守護龍を決める為の戦いがあるかもしれないとのことだった。
次にマリ自身の身体について。この身体のような魂を移しただけのツギハギみたいな俺ではなく、完全かつ純粋なこちら側の世界の身体。なのでやはりいくつかの制約があるという。色々と機能を後付けされている俺の身体と比べると、オリジナリティーは高くレーヴェリーアに適応しているようだ。
最後に言われた助言は、マリにはもう時間がないということだった。寿命が短いのは魂に刻まれた一種のルールのようなものであり、来世だろうが何だろうが神でさえ変えることはままならないらしい。なら寝かせてやった方が良かったんじゃないのかとウラルに強い口調で責めたが、ウラルは基本的に神の命は絶対だからと何度もはぐらされた。だとしたら、神様とやらはふざけてる。苦しみを見て何が楽しいって言うんだ?俺は絶対に理解できない。いや、理解したくない。
それから静かな雰囲気が漂い、ウラルは最後に夢から覚める前にとある事実を俺に言った。
「ハインド君。確かに神様は苦しみを見たいからというのは間違いないよ。でも、いや絶対に確信を持って言えることがある。神様は苦しみの先にある、君の決断を見たいんだ」
「ここまで来て神様とやらは俺すら弄ぶか⁈そんなに楽しいか⁈人の恋心を踏み躙るのがよォ!」
「・・・反論はできない。僕からもこれ以上擁護することは控えておく。基本君達寄りとはいえ、中立だからね」
分かってる。お前に責め立てたって何の解決にもなりゃしない。だが怒りをどこに飛ばせばいいというのか、俺にはわからない。
また俺は彼女を見捨てる事になるのか?死を眼前に、俺は何もしてやれないのか?不老不死は超人でも何でもない。自分にできることといえば、せいぜい彼女の最後までその場にいることだけだ。
「無力、か。君は不老不死だ。それだけの存在に過ぎない。でも僕はこの世界から見れば『語り手』だ。それも君達寄りの」
「・・・は?」
「更に助言をあげよう。彼女を助けたいなら、エヴィロイドに向かうんだ。そこに、君がやるべきことがある」
「いいのか?そんなことを言って・・・」
「君のことだ。足掻くことはするだろう?でも無駄足に終わるのは後味が悪い。早く行きなって」
上から目線なのが少しイラついたが、マリを助ける術がそこにあるのだとしたら行くしかない。俺は静かに目を閉じて吸い込まれるような感覚に襲われる。次に目を開けると、そこはまたベッドの上。隣にはマリが寝ている。
「マリ。君を救う手立てがあるんだ。ちょっと出かけてくるよ」
ベッドから気づかれないよう起き、部屋から出る。使用人達は何やらニヤニヤしながらこちらを見ているが、添い寝でも見られたか。まあ、そんなことはどうでもいい。
伯爵の部屋へと向かい、途中で見つけたマグノリアとミーティアを招集。更に途中俺を探していたらしい伯爵を見つけて、部屋にて早速マリについての話をすることにした。
「ウェスター伯爵から先にお願いします。マリについてですよね?」
「マリ?そうか。彼女はマリというのか・・・。取り敢えず、私が彼女が身につけていた物品から説明しよう」
そう言ってウェスター伯爵が机の上に出したのは小さな首飾り。大したものではないが、その飾りのメインとなる場所には磨かれ8角形に加工された緑の宝石がぶら下がっている。
「実は君が彼女と添い寝している間、学者仲間と連絡を取り合ってな。この宝石について議論した。その結果、これは『神花の巫女』のものだと結論付けられた」
「なぜです?」
「まず8角形に加工されている理由。これは古くから聖なる数字とされ、魂と命の浄化・再生を示している。次に神花の巫女である証拠に、私が触っても何も起きないが彼女が触ると、謎の防護壁のようなものが発生する。彼女が弱ってるからかどうかは分からんが、私程度でも簡単に突破できるがな。更にこの鉱石だが、現代の技術力を以ってして加工することは不可能。すなわち」
「失われた技術・・・」
「そうだ。と、なるともはや疑いの余地はない。彼女は神花の巫女だ。なぜ弱ってしまっているのかが全く分からないがな。それに今、彼女の魔力は使用可能魔力がなく生命魔力がかなり低い。いつなくなるか、分からないぞ」
生命魔力・・・つまり生命を維持する為に必要な魔力って感じか。いや待て、少ないってことは、危ないんじゃないか?早くしないといけないぞ。これは。
「魔力を移植することは出来ないんですか?」
「不可能ではない。が、彼女にとっては微々たる延命措置に過ぎないだろう。私も一度調べてみたのだが、彼女の魔力限界量はあまりに高すぎる。我々が頑張ったところで意味はない。私の見立てだが、制限は1週間後だ」
「一週間・・・」
「そうだ。だからハインド君。君がどうするかを聞きに来た」
「無論、エヴィロイドに向かいます。あそこは神花の巫女に一番近い地。資料は沢山あるはず」
「エヴィロイド、だと?あそこが神花の巫女に近いのか・・・」
「伯爵。つきましては、例の魔法陣をもう一度使いたいのですが」
「ん?あ、ああ。使ってくれて構わない。資料探しならミーティアも連れて行くといい。私の仕事を手伝っているから、探し物は得意なはずだ」
「最初からそのつもりだったんですが」
「なら話す必要はなかったか。ミーティア!行ってきなさい」
「はい!」
マグノリアとミーティア、俺が転移魔法陣の上に立ち伯爵が起動する。そのまま光に包まれたと思えばまた再びあの場所へと辿り着いていた。俺がビッグサルとして活動し、異世界に来て仲間と共に国家転覆を起こした始めての場所。エヴィロイド。だが今回は国家転覆ではなく調査だ。それに心強い伯爵の助手と武器を大量に持っている妖精のオマケ付き。何も怖くない。
取り敢えず、俺が前に新設したいくつかの関所の内、近くにある関所へ向かい、兵士に冒険者証明書を出してエヴィロイド国内へと入国した。見たところ、前よりも商売やら色々と繁盛しているようだ。良かった。
しばらく歩いていると、未だに埋め立て工事の真っ最中であり騎士団の兵士によって規制されている箇所があった。そう。俺が派手にぶち壊したせいで崩落したあの場所。そして、その先にあるのは、国の中枢でありヤバめ歴史が隠されていた大きな屋敷。現エヴィロイドの復興指揮を行なっているファローズ・エヴィロイドの仕事場だ。
屋敷に近づいていくと、やはり騎士団に止められる。
「申し訳ないが、ここは崩落事故現場だ。危険なので、立ち入らぬように」
「用がある。ファローズはいるか?」
「ファローズ様は復興指揮を執っている。今は面会できん」
「分かった。ならこう言えば通してくれるか?『ビッグサル』とな」
「な⁈」
「この名を知るのは、当時エヴィロイドで戦った騎士団、ジョシュア、ファローズ、そしてビッグサル当人のみ。他の住民に関しては、彼は偽名を使っていた。さて、これだけ言ってまだ分からないか?」
「し、失礼をしてしまって申し訳ない!ビッグサル。ファローズ様は中に居られる。そのまま行ってくれ」
「仕事頑張りたまえよ。騎士団の諸君」
兵士に通してもらい、屋敷へと入る。この前入った時は警戒せざるを得ないほどの酷いものだったが、今は掃除が行き届いて様々な書類が整理されて置かれている。更にメイドや執事もいた。1週間が経ったとはいえ、かなり進歩している。ファローズの心意気を感じさせる行いだ。
兵士が通しているということか、警戒する人間はほぼいなく俺が部屋を訪ねると素直に答え、案内してくれた。2階にある大部屋へと到着し執事が扉を開ける。
「ファローズ様、御客人でございます」
「誰?」
「ええ、御客人は拝見すれば分かる、と」
「久しぶりだな。ファローズ」
「その声・・・まさかビッグサル⁈」
ファローズが顔を上げて俺を見る。服装が全く違うし仮面もつけていないが、どうやら気づいてくれたらしい。
「久しいですね。御身体は大丈夫でしょうか?あなたのおかげでアルスと国交を結ぶことが叶いました。このご恩は忘れません」
「いや、気にしなくていいんだ。ところでこの屋敷に資料室ってあるのか?」
「はい。ありますが?」
「神花の巫女について知りたいんだが・・・」
「神花の巫女、ですか。なぜその資料を?」
「要約するとアレックドールで派手にドンパチやらかして洞窟内で保護した」
「何だか色々と話が飛躍し過ぎてますけど・・・。分かりました。資料室をお貸しします」
「すまないな。ああ、俺の本名を教えておこうか。俺はハインド・ウォッカ。アルス王国公爵、第六席だ。何か困りごとがあったら、構いなく呼んでくれ」
「分かりま・・・公爵⁈」
「ご案内します。どうぞこちらへ」
俺は執事の案内に従って資料室へと案内してもらう。何だが一瞬だけ見えたファローズの顔が呆然としていたが、きっと疲れているからだろう。
少し歩くと地下に繋がる階段があり、そこから地下へ潜って少し埃臭くて広い資料室についた。執事は1Fで待っていてくれるらしいので、俺とマグノリアとミーティアの3人による大捜索を始める。
「よぉし。いいか!神花の巫女に関する資料は片っ端から調べる!なんかアレ?みたいなやつも全部調べろ!」
「先生、あの」
「マグノリア!怪しい資料があったら全部スキャンして保存しろ!」
「いえっさー!」
「先生。私、資料検索用の術式を渡してもらってるんですが」
「そんなもんあるなら早くだせぇい!」
「あ、はい」
ミーティアはなんかいつものような目で自身の周囲に魔法陣を展開。何やら言語をいじり始めると本棚がカタカタとなり、いきなり本やら小さなメモやら大量の資料がミーティアの前へと吸い込まれるかのように移動していく。更に全てのページがパラパラと高速でめくられて、いくつかの言葉だけが光ってその場で浮遊しながら静止する。
「検索終わりましたよ。これで簡単に調べられます」
「流石は伯爵。こんな術式を作ることすらできるのか」
「片付けもできます」
「何それめちゃ欲しいんだけど」
「これは譲れません」
どこぞの青い一航戦の空母らしき声が聞こえた気がしたが気のせいだとしておこう。しかし、検索できただけでまだ調べられたわけじゃない。
浮遊している資料をとにかく片っ端から目を通していき、デフォルトとして設計図が完成していた手持ち型スキャナーを使って不可思議にデータを送り込んでいく。マグノリアにもスキャナーは渡してあるので、それも不可思議に送り込むよう設定した。ミーティアにはスキャンした資料はどんどん片付けてもらった。そうしてから30分ほどで全ての資料がスキャン完了し、不可思議を一度確認してみてもスキャナーの異常による掠れなどは一切なかった。
用も済んだので資料室から出て、再びファローズの部屋に向かってみると、なぜか大きめの机が一つといくつかの椅子と茶菓子が用意されていた。
「まあお座りください。積もる話もあるでしょうし」
ミーティアと俺が座り、マグノリアは飛んだまま俺の肩に乗る。
「ビッグサル、いえハインド公爵」
「どうしたんだよファローズ。かしこまって」
「申し訳ありませんでした!まさか、貴方がアルスの公爵様とは思いもよらなかったものでして」
「気にするなって。そんなこと言ったら、ファローズ、ファローズ様は立派な国を導く王ではありませんか」
「そうでしたね・・・。取り敢えず、かしこまるのはやめにしましょう。私としても話しにくいですし」
「そう言ってくれるのは有り難い。ところで」
「兄様のことですか?」
ファローズといい、何でこんなに勘が鋭いんだ。やはりこういう人間は王とかに向いてるんだろうかね。
「ああ。あまり聞きたくないことかもしれないが」
「ハインド公爵。実は、それに関してある事が分かりました」
「は?」
「兄様の遺体が消えました…。いえ、正しくは発見出来ていません。どこにもないのです」
今年も終わりに近づいて参りました。来年は就活も来ますので不定期更新になります。(元々からじゃないか、だとか言わないで。泣くよ?)
ただ、出来る限りは更新していきたいと言ったので思っていますので、来年もよろしくお願いします!
では皆様、良いお年を!




