管理サーバー
俺は屋敷の保護に重要な魔方陣6つ分以上の結界出力を持つ、伯爵の恩師が開発したという巨大魔方陣を復旧させることに成功させた。
ただ、巨大魔方陣だけでは心配になったので、今まで支えてきていた6つの魔方陣をサブシステムとして運用する事にした。何か巨大魔方陣に異常が発生した場合、すぐさま復旧プロセスを実行できるよう設定してある。
生活に必要な魔方陣・・・いわゆるライフラインならぬライフ・マジック・スクエア、といったところか。これを復旧するのにさほど時間はかからなかった。
という経緯を経て、今俺は部屋でスナイパーライフルをベッドの横に置き、ゆっくりゴロゴロしていたりする。ギリースーツを着ながら作業するもんじゃなかった。
マグノリアには伯爵の魔方陣を復旧したところで、自分の部屋に戻るよう命令してあったので帰ってきてから色々話している。
「まあ、水仕事をしたり火を使う使用人達にはこっぴどく怒られたけど」
「ご主人って以外と抜けてるんだね」
「マグノリアよ!俺だって何も対策しないわけじゃないッ!全ての魔方陣にあるプログラムを仕込んでおいた!」
「ぷろぐらむ?」
「今、俺の部屋にはこの不可思議ではない別の専用のマルチプル量子式サーバー『那由多』がある。こいつを管理サーバーとして屋敷全体の魔方陣に繋げた」
「つ、つまり?」
「全ての魔方陣の状況をサーバーで一括管理!魔力が少ないとか水がないとかそんなことが一目で分かる!すげぇだろ?」
「うん。流石だよご主人!ボクにはさっぱりだけどね!」
さっぱりなのは当たり前だ。マグノリアにC言語なんて教えた覚えは全くない。
それにしてもライフ・マジック・スクエアについては色々と驚かされたなぁ。
魔力が込められた魔石で魔法陣を作動させ、用途に応じた属性の魔法が発動するように設計されていたのを見たときには、流石に言葉を失った。
水は使うときのみ魔石が水属性の魔方陣にセットされ、仕切板が上がり水が流れ出る。
シャワーヘッドからお湯が出るのは火属性の魔方陣で銅製配管を熱し、水を瞬時にあったかくしているから。その火属性魔方陣はコンロとしても使われていた。
さらに電気の代わりに光属性の魔方陣で光の玉を光源代わりにしている。
生活水準は日本のそれと大差ない。何かしらあるとするならば、魔石の魔力節約の関係で、ロビーを除き消灯は11時と決まっていることくらいか。
ちなみに魔力は使用人全員から徴収して使っているらしい。まあ、減るもんではあるけど結局回復するわけだしな。
「とにかく管理サーバーで管理しつつ、魔力が少なくなったら補給タイミングに合わせて通知しておくようにするか。不可思議・・・はいいや。こういうのはデスクトップにして繋ぐもんだ」
感想な備え付けの机にデスクトップ用の巨大なディスプレイを3つ、取り付け器具、キーボードを2つ、最後に那由多のマザーボードをもう一つ生成。
壁に穴を開けないように軍用の銃の支脚を生成して工夫しながらディスプレイが落ちないようにしていく。そんな取り付けては生成し、取り付けては生成するを繰り返し行った。
12時の時報が時計から流れる。その時に俺は我に返って、自分の部屋が大変なことになっているのに気づいた。
「これは・・・」
何ということでしょう。
ディスプレイを乗せる簡素な机がいつの間にか未来感溢れる素敵な机に早変わり。たった二つしかなかった那由多は15個まで増え、配線までしっかりとなっています。
銃の清掃作業ができそうなしっかりした机が更に追加され、清掃に必要な工具が一式全て揃っています。その机の真横には未来の発電機『イオン発電機』が追加されているではありませんか。
空調設備も完備。室外機が必要ないタイプが天井にしっかりと固定されています。
必要ないはずの無線機まで配置。ドアには後付けのオートロックシステムと顔認証システムが追加されています。これで防犯は完璧です。
ハッカーにとって天国のような設備が完成。依頼主がいないのに見事な作りです。
「ご主人ー。ボクお腹へったよー。お昼ごはん食べに行こうよぉ」
「・・・マグノリア。俺はいつからこんなことしてた?」
「んー、二時間ちょっと前くらいかな?」
・・・あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。『俺はデスクトップを組み立てていた』。と思ったらいつの間にか『部屋が大改装されていた』!
こんなの俺は望んじゃいないんですけど。
「ごぉしゅうじーん!ごーはーん!」
「あ、ああ。行こうか」
マグノリアの腹の虫を抑えることができるのは食堂しかない。俺も気づくのが遅かったが空腹感が常に続いていた。
食堂へゆっくり歩いていると、見慣れない黒い服を着た人がウロウロしていた。使用人の顔を全員覚えられるほど記憶力がいいわけではないが、流石に見慣れない人間はすぐに分かる。服装や行動もそうだが、顔も全く見慣れない。
髪が長いから女性だろうか?頭に包帯を巻いているから怪我人か。こんなところでほっつき歩かれているというのも邪魔だし、とりあえず聞いてみるか。
ただ流石にマグノリアをこれ以上待たせるのは男としてちょっとひどいものがある。悪いが先に行ってもらおう。
「マグノリア。とりあえずアレだ。先にメシ行っとけ。今日はミートソースパスタだから」
「ご主人は?」
「二杯分の手配をよろしく頼みたい」
「ボク専用のやつとご主人の合計三杯分だね。分かった」
「それとパン追加で。コーンスープも」
「浸しパン・・・ボクも食べたい」
「じゃあ二つ」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「接客用語、上手くなったな。あとは頼んだよ」
「はーい」
マグノリアは別のルートから食堂へ行き、俺はその人に話しかけてみることにした。一応腰にリボルバーはさしてある。いざという時は発砲するだけだ。
ゆっくり歩いて行き、肩を叩く。後ろを振り返るその人物は驚いたような顔で俺を見たまま硬直した。
「俺の名前はハインド・ウォッカ。貴方は誰ですか?迷いましたか?」
「あ、あ・・・うあ」
「よし。とりあえず落ち着こうか。まず君は?」
「ア・・・」
「ア?」
「ア、アナトリア・キーファ、です」
「ではアナトリアさん。貴方は何しにここへ?」
「えー、ええ・・・はい。あの、その・・・友人に会いに来ました。はい」
「友人?使用人の?」
「あ、いえ。そうではなくて・・・ここに騎士団本部があるって聞いて・・・。その、手紙が届いて・・・」
「騎士団本部、ですか。では騎士団に何の用で?」
「あの、入団希望で・・・」
「キーファ!何やってるんだ?」
その声は俺の忠臣にして元Sランクハンター最強の男、コレンの声だった。
身体にいくつか補助用の器具をつけていながらも機敏に動き、早足でこちらに来た。服装はコレンにしては意外なラフな格好だ。
「おはようございます。ハインド公爵様」
「身体は大丈夫なのか⁈まだ寝ていた方がいいんじゃないか?ああ。それと、これ、団員証書な」
「いえ!この程度で倒れていては・・・。証書ありがとうございます。これで色々やれるようになりますね。それよりキーファ。何故ここに?」
「え、エヴィロイドから来て・・・おばさまから手紙預かって・・・」
「母さんから?」
失礼ながら覗き見させてもらったのだが、書いてあることは特別なことなど何も無い。息子を心配する母親の言葉が綴られた手紙だった。
内容も田舎の母親が都会で頑張る息子に書き送るのと同様のもの。あるひとつの文を除いては。
コレンは黙って俺に見せて来た。
それは、本人には見せてはならないことが書かれていた。
『アナトリアの両親が騎士団により粛清という名目で処刑された。ここに居ては危ない。おまえの元で守ってやりなさい』
「こ、コレン?どうしたの?」
「・・・キーファ。お前、これからどうする気だ?」
「え?えっと・・・おばさまはコレンに会えば何とかしてしてくれるかもって・・・もし無理ならハンターとしてギルドで・・・」
「コレン」
「・・・公爵様」
「お前の判断でいい。彼女のランクは?」
「ランク・・・B、いやAくらいですかね。魔法を直接武器に発動できますから。アナトリアは」
「時間はなくなりつつある。とりあえず入れてやれ。空き部屋は俺から伯爵に頼んでみる」
「っ・・・!ありがとう、ございます!」
「ありがとうございます。公爵様」
俺の予想以上にエヴィロイドの状況が悪すぎた。いくつか準備してからでもよかったが、これは流石にまずい。仮面を確保次第、エヴィロイドに向かわないと。
これ以上はどうなるか分かったもんじゃないぞ!
次の投稿は2月6日を予定しています!
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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