やりすぎ禁止
「要するに・・・ハインド君のそのECMとやらは魔法陣などの術式を全て狂わせ、破壊する兵器と言うわけだな?」
「はい。そんな感じです」
「その辺りはよぉく分かった。では、ビジネスの話といこうか」
「・・・やっぱり?」
「もちろんだ」
屋敷の魔法陣を全て破壊して、ハイごめんなさいで許してもらえるならこんな話の場が作られるわけがない。正直言って、何も言わずとも金額を知りたいなどという気持ちにはなってない。多分伯爵だけでやれる範疇を完全に逸脱している。
いや、多分じゃないな。絶対に逸脱してるわ。だって分かるもの。外面は笑ってるけど身体からパチパチ雷出てるもの。怒ってるよコレ。
だがしかし!俺だって簡単に諦めるタチではない!
魔法陣が高度な処理が可能なAIを搭載したサーバーだと考えることができるならば、その復旧も可能なはず!
ただ『高度な処理が可能なAIを搭載したサーバー』なんて回りくどい言い方はしなくていいか。普通にスパコンって言った方が早い。確かスパコンはサーバーとしての役割も持ってるしな。
「さて。今回の金額だが」
「ちょっと待って下さい。復旧なら・・・俺にやらして下さい」
「ハインド君がやると言うのかね?」
「はい。復旧方法はおそらく全く別の観点からによるアプローチになるとは思いますが」
「・・・う、む・・・」
ECM・・・EMPとかの機械工学からの観点になるけどな。不可能ではないはず。
とりあえず頭の中で鑑定スキルを呼び、『忘れ去られた智慧』を起動。俺の持ち得る技術の中で最高峰のノートPCを作ることにした。
目の前に大量の技術が表示されていく中、完全にその時代のもので、高価で庶民が必要ないレベルにまでなっている究極のノートPCを選んだ。それと魔法陣だから端子があるわけじゃない。非接触タイプの接続機器を追加しておこう。
生成開始と命令すると、作製時間はなんと数十秒
。ECMの時とは比べ物にならない速さだ。
あれ?ってことはECMは別の技術も使われてたってことか。あとで調べておくか。
「ううむ・・・」
未だに悩んでるから今のうちにECMを調べてみるか。ECMの内容は・・・
・携帯式空中浮遊型ECM
西暦2582年にドイツにて開発された新型のECMを西暦2623年の技術で縮小・反重力処理が施工されました。西暦2016年の間でイージス艦と呼ばれる艦のECMの妨害威力を上回ります。
全バンドに強力なジャミングを出力することが可能であり、その領域は半径100kmです。
このECMは対破壊用としてEMPを備え付けています。EMPは任意でオンオフできます。
敵ECMの対策としてECCM・ESMを搭載しています。また、EMP対策として新型の専用光ファイバーを搭載しています。
ESMは特定の機器と接続することで詳細が表示出来るようになっています。
よし。ちょっと落ち着くか・・・。
おい!EMPはオンオフできるって書いてあるぞ!
これって完全にあれだよな?工場から出荷された際にはこれに設定してあるからあとでユーザー様が勝手に変更して下さいってやつだよね?
失敗したァァ!完全に見落としてた!これがなければ魔法陣の破壊なんてなかった!
つーか流石ドイツ。ゲルマン民族の技術の結晶であり誇りだな。
「分かった。ハインド君に一度だけ任せてみよう。ただし、出来ないようであれば直ぐにやめてもらう」
「分かりました。場所は?」
「そうだな・・・。屋敷の六ヶ所にある結界魔法陣をやってもらおうか」
「分かりました」
伯爵の部屋から出ると庭へ行き、更にグラウンドを通って鬱蒼とした森のような場所へと連れて行かれた。おそらくここも屋敷の敷地内ではあるのだろうが、全く整備されている様子がない。
ツルやら低木やらの中を突き進み、伯爵が歩みを止めた場所には、小さな井戸があった。
そこには大きな魔法陣が一つ、井戸の背後にある岩にしっかりと刻まれていた。
「これは屋敷の周囲を防護している結界を支えている魔法陣だ。見ての通り、今は使っていないがな」
「なぜ使っていないのです?」
「数年前に不具合で壊れて以来、修復に多大なる時間がかかることが判明したのだよ。ハインド君がこれを修復できるかどうかで私は判断することにした。早速やってみたまえ」
「分かりました。やってみます」
左手に先ほど作製したノートPCを生成し、右手に非接触タイプの接続機器を用意する。
非接触タイプの接続機器は、最強と謳われたクラッカーが間接的に内部に侵入する為に作り出したもので、対象の機器に触れさせただけで対象のサーバー、或いはその機器にアクセス権無しで侵入することができるという超がつくほどの便利品だ。
ノートPCは未来の製品名をそのまま使うとするのであれば『不可思議』。もはや京とか垓を超えたよく分からないものになっている。
無論その内部搭載メモリー容量も大変なことになっており、説明によると開発者ですら分からず仕舞い。それと世界初のノートPC型量子コンピューターでもあるという。
本来ならただの計算にしか特化出来ない量子コンピューターだが、改良に改良が加えられ計算どころか自己学習能力まで備え付けてあるらしい。
この二つがあれば大都市の二つや三つ、簡単に壊滅させることができる。俺の世界はIoTが注目されてる。もしこんなものがあったら洒落にならないだろうね。
要するに悪用厳禁ってことですな。
「ほんじゃあ始めてみますか!」
ノートPC『不可思議』を起動し、侵入用機器を接続。不可思議が瞬時に認証したところで侵入用機器を魔法陣のど真ん中に置いてみる。
するとどうだろうか。大量のコマンドプロンプトが見ただけで頭が痛くなりそうレベルにまでズラズラと高速で表示されていく。
が、これもスキルのおかげなんだろうか。俺は高校程度の情報教科しか受けてないにも関わらず、プロンプトに表示されている内容が瞬時に理解できてしまっていた。
そういえば『忘れ去られた智慧』には凡ゆる機械工学技術が使えるようになると書かれていた。機械工学技術の中にプログラミングも入ってるということなんだろう。
「はあー。こりゃまた厄介な・・・」
プロンプトを見ていくと、そこで見られたのはところどころに見え隠れする膨大な量の設定ミス。もしもこれが普通のPCでプログラミングされていたら、まずどうなるか分からない。
でも量子コンピューターならやれるはずだ!
「CダイバーからIALローに996復旧プロトコルを実行開始。jtdagをadtpへ修正。タイプq0273apeの実行を中止。タイプdjwpmia7を実行後、レベルEMで再構成を開始。マニュアルgjdtwを設定。アセンブリコードをデフォルトへ変更。拡張メントを解除・・・」
とにかく魔法陣の途轍もないこのミスを直し復旧しなければならない。ただ、俺は一つだけ思い違いをしていた。
量子コンピューターなら『できるはず』ではなかった。量子コンピューターなら『瞬時にできてしまう』というほうが正しかった。
何故なら、俺がいくつか工程をやっている間に不可思議は接続され魔法陣を読み取った瞬間には既にミスを修正していたからだ。
あれ?これ、俺いらなくね?
結果、かかった時間は俺の無駄な工程の数十秒を含め1分。最後にテスト起動をして、しっかり起動することを確認した。
「とりあえず終わりました」
「・・・待ちたまえ。まだ2分も経ってない。本当に終わったのか?」
「ええ。今はスタンバってるんで、いつでも起動できますよ」
「では起動してくれ」
テストモードから通常モードに移行し、いくつかの注意事項を確認してエンターキーに指を向かわせる。そして大きな声で叫んだ。
「よろしくお願いしまぁぁぁす!」
エンターキーを叩き、起動しはじめる魔法陣。すると屋敷中に結界が展開されていく。
「おお・・・!私の悲願が!私の夢が!今、達成された!」
「は、伯爵?」
「ハインド君!すまなかった!実はこの結界は先生の理論を元に私が昔開発した、支点を必要としない雷属性の結界魔法陣だ!壊れて以来、私では修正できなかった。君ならやれるかもと思って利用する形になってしまったのだ・・・。申し訳ない」
「いえ!俺の方こそ、今回はすいませんでした!それより伯爵。早く別の魔法陣を修復しに行きましょう!案内してください!」
「ああ!」
ウェルディ先生。ハインド君という友人の手を借りてでの形になってしまいましたが貴方の夢、一つだけ叶えることができました。
次の投稿は2月1日を予定しています。
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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