内情
「次に、現在の兵站事情についてお話します」
食事を終え、空になった容器をテーブルの隅に置くと、ペルーダは内部事情について話し始める。
「現在陸軍は十万人の兵力を派兵する準備を進めております。
第一波として五千人の兵力を揚陸、そこから二万刻みで部隊を上陸させ占領を進めていきます」
ファイルを二人の前に広げる。
そこには軍が備蓄していた食料と放出した量が記されている。
「ご覧の通り、民間からの買い上げはありません。
確かに戦争の長期化によっては民間業者からの買い上げや配給制への移行などもありますが、現時点では三年分の食糧を確保しており、例の噂がすぐに現実化することはありません」
「それは何より、だ。
ペルーダ、このことの発表を頼む。
それと、買い占めなどを行っている悪徳業者について調べてリスト化してほしい。
俺たちが片付ける」
「わかりました、内務省に極秘で調査を要請します」
ペルーダの返事を聞くと、すっと立ち上がるケスタとギオ。
乗車すると、開発の進む金鉱山への視察に向かう。
=====
ロレスカトラより四十キロの都市、エルガノーレ。
ミサに集まった信徒を背に、大聖堂にあるパイプオルガンをハッバは奏でる。
神話に登場する神々に息吹を表すかのような荘厳な音色が聖堂の外まで響き渡る。。
食料品販売の元締めであると同時に著名な音楽家である彼。
国家、思想、宗教、何一つ関係なく、あらゆる音楽や楽器に精通している。
「お疲れ様です、先生」
演奏を終え、控室で一息ついたハッバに弟子であるルートビィヒが水筒を手渡す。
「ありがとう」
受け取り、水を飲む。
「先生のオルガンの演奏はいつ聞いても素晴らしいものです。
私の耳にも、はっきりと届きました」
「それは良かった」
水筒のふたを閉め、棚に置くハッバ。
「ところで先生、最近よくない噂が出回っているとか?」
「君の耳のも届いたか、下らんデマだ。
だが嘆かわしいことに鵜吞みにする奴がいる」
件の噂に辟易しながらも、好きなコーヒーを飲む。
「ところで、どうして先生は食料品の販売を?
先生ほどの方ならば音楽だけでも十分生活できると思いますが…」
「君は飢饉に遭ったことはあるか?」
「いえ」
「それは幸運だな。
飢饉というのは酷くてな、空腹のあまり最後は人間同士を食べあってしまうようになる。
とてもひどい話だ。
私はそれを少しでも減らしたい、それだけだ。
腹が減っただろう?近くにいいコーヒーとケーキを出す店がある。
奢るぞ?」
「いただきます」




