第8話:水色のワンピースと鋭利な鉄
放課後。巨海町の街並みを抜け、賑わう大規模ショッピングモールへとやってきた。
刹那のドレス選びに付き合い、フィッティングルームの前で待つこと数分。カーテンが開くたびに、華やかなドレスに身を包んだ刹那がキラキラと輝いて見えた。自分に似合うものをよく知り、堂々と着こなす彼女の姿に、澪は胸の奥でどこか眩しさを感じていた。
「よしっ、私のドレスも、澪のピアスもバッチリ! まだ時間あるし、ちょっと服見ていこうよ〜!」
元気いっぱいの刹那に引きずられるように、ふと一軒のショップへ足を踏み入れる。
整然と並ぶハンガーを次々と流していく中、澪の手がある一着の服の前で止まった。
(……あ)
目が離せなくなったのは、水色のオフショルダーのワンピースだった。
薄紫とピンクの小花柄が散りばめられた、可憐でありながら上品さも兼ね備えた一着。
吸い寄せられるようにその生地に触れながら、澪の表情は少しずつ陰っていった。
(……可愛い。でも……)
「えぇ〜っ! 可愛い! いいじゃんいいじゃん!」
背後から覗き込んできた刹那が、声を弾ませる。
「……可愛いよね。刹那、試着してみる?」
「何言ってるの? 澪に似合うと思って言ったんだよ?」
「私には……こんな可愛いの、似合わないよ」
澪は自嘲気味に、少しわざとらしい笑顔を浮かべた。
「何言ってんの、似合うに決まってんじゃん!」
「でも、私こうゆう服着たことなくて……。刹那はまだ私の私服見たことないから分からないと思うけど、これとは真逆の系統だし……」
「だから何!? その服も、このワンピースも好きなんでしょ? 系統なんて関係ないよ! ひとつに縛らないといけない決まりなんてないの!」
「……絶対変になるよ。私は、こんな可愛いの着る自信ないな……」
ぽつりと漏らした本音。俯く澪の肩を、刹那が力強く両手で掴んだ。
「私が自信つけさせてあげる! ひとりじゃ勇気がなくても、ふたりならできるよ! 私が一緒にワンピース着て、デートしてあげるから!」
「……刹那」
「お! はいっ、お買い上げ〜! 気が変わらないうちにレジ行くよ!」
そう言ってワンピースを手に取ると、刹那はもう片方の手で澪の手を強く引いた。
(……こんな私でも、いつか刹那みたいに、女の子としてキラキラ輝けるのかな……)
◇
家に帰り、自分の部屋で紙袋から水色のワンピースを取り出す。
ベッドの上に広げ、ハンガーにかかった生地を静かに見つめた。
(……いつか、着られるといいな)
鏡に自分とワンピースを映し出し、ほんの少しだけ、未来の自分を想像して微笑んだ。
◇
翌日。学校の訓練場は、重苦しい緊張感に包まれていた。
「今日から対人戦闘模擬訓練を始める!」
整列する生徒たちの前に、教官が厳しい表情で立った。
「学生だからと手を抜く気はない。甘い考えは捨てろ。今日は2人1組での対人戦だ。ペアは事前にこちらで組ませてもらった。掲示板で自分のペアを確認したら、訓練用の武器を選んで再び集合しろ。……ああ、言い忘れたが、今日の訓練は『魔力使用禁止』だ。体術と武器の技術だけで行くぞ。以上!」
教官の言葉に、生徒たちの間にどよめきが広がる。
各自がペアを確認するために張り出されたシートへと群がっていく中、澪は人混みを避け、先に武器棚へと向かった。
(本当は『槍』が得意だけど……ここで本気を出すわけにはいかないし、短剣にしておこう)
扱い慣れた短剣を手に取り、ペアのシートを見に行こうとした時、一人の男子生徒がにこやかに声をかけてきた。
「深月さんだよね? 僕、西連寺 冴。今日のペアなんだ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
「僕たち、さっそく一番手みたいだよ。早く行こうか」
冴は迷いのない手つきで一本の剣を取ると、爽やかに笑って中央の訓練スペースへと向かっていった。
この時の生徒たちはまだ知らなかった。
この訓練で、自分たちが集められた『錬成院』という学校の本当の厳しさを、思い知らされることになるなんて——。
(第8話・了)




