第17話:交差する視線と迷宮の入口
青く澄み渡る空の下、王都遊園地のゲート前は、色とりどりの街灯や風船で華やかに彩られていた。休日ということもあり、大勢の家族連れやカップルで賑わう中、Aクラスの生徒たちもその高揚感に包まれていた。
「えー、みんな集まったね! 午前の班を発表しまーす!」
クラス委員の三雲弥生が、柚木樹と共に集団の前に立った。
「午前中は混雑を避けるため、シンプルに名簿順の六人グループで行きます! 呼ばれた班から入場してね。昼食もその班で取って、十三時半に中央広場へ再集合! そこから午後のシャッフルくじ引きをやります!」
一班から順に名前が呼ばれ、生徒たちがゲートをくぐっていく。
別の班になってしまった刹那が、離れ際に「あとでねー!」と大きく手を振って去っていった。
「同じ班になるなんてな。名簿が前後してたなんて俺、全然覚えてなかったわ」
人波に揉まれながら歩く澪の隣で、柊夜一がケラケラと笑う。
「席も訓練の時の並び順もバラバラだもんね。入学式以来じゃない? 名簿順なんて使うの」
「確かに! 炤なんて一番だから絶対嫌がってるぜ。あいつ、目立つの嫌いだからさ」
(……目立つの、嫌いなんだ。赤霧くん……)
「おいおい、僕なんてラスト(二十四番)だぞ〜。一番よりキツイって」
後ろから追いついてきた柚木が苦笑いで会話に混ざる。賑やかに笑い合いながら、ジェットコースターの長い列に並んでいると、藤原織衣が「ねえねえ」と声を弾ませた。
「もうすぐ私達の順番だけど、その前に次何乗りたいか決めときない?」
「そうだな。何か希望ある人いる?」
柳沢純が問いかけると、三雲委員長が少し照れくさそうに挙手した。
「もしよければ……私、ティーカップに行きたいかな」
「いいんじゃない! ここから近いし!」
「じゃあ、そのあとはお化け屋敷行こうぜ!」
夜一が乗っかると、織衣が「えっ、お化け屋敷……!?」と顔を引きつらせた。
「お? 藤原、怖いのかよ〜?」
「違いますー! 驚くのが嫌なだけ!」
そんな他愛のないやり取りで次の目的地が決まっていった。
絶叫ジェットコースターで風を切り、ぐるぐると回るティーカップで爆笑し、午前中を満喫した一行はいよいよ目的のお化け屋敷『暗黒館』の前に到着した。
その時——反対側のルートから歩いてきた一班のメンバーと、鉢合わせた。
「あ、炤じゃん」
夜一の声に反応し、澪は咄嗟に視線を向けた。
だるそうに肩をすくめて歩く炤。その両脇には、女子生徒(宇佐美奏たち)が楽しそうに腕や袖を引っ張っていた。
(……なによ。見せつけちゃって……)
むっと胸の奥が熱くなり、澪はぷいっと顔を背けて胸の前で腕を組んだ。
その一連の動作を見逃さなかった夜一が、澪の耳元でニヤニヤと呟く。
「ほう……姉さん、何かあったのかな?」
「はぁ!? 何もないわよ!」
「じゃあなんでそんなに怒ってんのさ?」
「怒ってないし!!」
むきになって言い返したその瞬間、すぐ背後から低い声が降ってきた。
「……深月、怒ってんのか?」
ハッとして振り返ると、目と鼻の先に炤が立っていた。
不意に視線が真っ直ぐ交差し、澪の胸がドクンと跳ねる。炤は一瞬、気まずそうに頬を赤らめると、すぐに視線を夜一へと逸らした。
「……お前たちもここか。お前の発案だな、夜一」
「よく分かったね、赤霧くん。三雲さんなんて、列に入ってからずっと手のひらに『人』の字書いて飲んでるよ」
柚木が苦笑いする横で、先に入場案内が出された。
「嫌ぁぁぁあ! やだ、怖いぃ!」
三雲委員長が本格的におどおどし始めると、柳沢が「しょうがないな、じゃあ男女ペアで——」と乗り出そうとした。だが、澪がすかさず三雲の手をギュッと握りしめて前に出る。
「うるっさいわね! 三雲さんが本気で怖がってるじゃない! こっちの女子だけで行くからね!」
「えぇー!?」
頼もしく三雲を引き連れてお化け屋敷の闇へと消えていく澪の背中を、男子勢は見送るしかなかった。
残された夜一は、炤の肩をポンと叩き、小声で呟いた。
「……良かったな、炤」
「……はっ? 何がだよ」
素っ気なく返す炤だったが、その表情には隠しきれない安堵の色が浮かんでいたのだった。
◇
お化け屋敷を無事に(?)通り抜け、各班はそれぞれ賑やかな昼食タイムへと突入した。
午前中の余韻と、午後のシャッフルへの期待に胸を膨らませ、遊園地はますます熱気を帯びていく——。
(第17話・了)




