第16話:友情の温度と連休の予感
あの日——激しい魔力訓練があった日の夜のことを、澪は今でも鮮明に覚えている。
放課後、自室でぼんやりと過ごしていた澪の耳に、玄関のチャイム音が届いた。
ドアを開けると、そこには少し心配そうな笑みを浮かべた刹那が立っていた。
『少し、話せる?』
『うん、大丈夫だよ。上がって』
部屋へ通し、丁寧に淹れた紅茶を差し出すと、刹那はフッと肩の力を抜いてカップに口をつけた。
『ん〜、いい香り。いただきます』
一口含んでホッと息を吐いた刹那は、カップを見つめたまま、静かで優しいトーンに声を落とした。
『ねぇ、澪。何があったかは知らないけど……ここ数日、何か考え込んでることが多いよね?』
『……!』
『別に、理由を話してとは言わないよ。切り出しにくいことや、誰にも言えない秘密だって人にはあると思うから……。だけど、一人で抱え込まないで』
顔を上げた刹那の瞳には、真っ直ぐで温かな光が宿っていた。
『力になれないかもしれないけど、澪は一人じゃないってこと、忘れないで。まだ友達になって日は浅いかもしれないけど……頼ってよ。私が、側にいてあげるからさ!』
弾けるような満面の笑みを向けられ、澪の視界が瞬時に滲んだ。
胸の奥から込み上げる温かさに耐えきれず、一筋の涙が静かに頬を伝って落ちていく。
(……あの時の刹那の言葉、嬉しかったな……)
あの訓練の日、夜一や炤と交わした短い言葉。そして家に駆けつけてくれた刹那のぬくもり。
それらが固く閉ざされかけていた澪の心を解きほぐし、少しずつ平穏を取り戻させてくれたのだった。
◇
「——というわけで! 明日のクラス会は朝9時に遊園地前に集合だから、遅刻しないようにね!」
ホームルームの終わり、クラス委員の少女・三雲弥生の元気な声が教室内に響き渡った。
「はーい!」と、Aクラス二十四人の生徒たちが一斉に明るい声を揃える。
新しい学校生活にもすっかり慣れ、クラスの仲をさらに深めようと企画された今回のクラス会。
行先は王都にある有名な遊園地、そして夕方からはカラオケで食事を取りながらの交流会だ。
遊園地では、六人ずつ四つのグループに分かれ、午前と午後でグループのメンバーをシャッフルして回るルールになっている。
(午前と午後でグループ替え……。誰と同じグループになるのかな……)
ふと目線を送ると、教室のドアの前で夜一を待ちながらカバンを肩に担ぎ、欠伸を噛み殺している炤の姿が視界に入った。ほんの一瞬視線が重なり、澪は慌てて目を逸らして頬を赤く染める。
明日から始まるのは、誰もが待ち望んでいたゴールデンウィークの連休。
夕暮れのチャイムが鳴り響く中、錬成院の生徒たちは期待に胸を膨らませながら、それぞれの帰路へとついていくのだった。
(第16話・了)




