第11話:潮風の告白と黄昏の影
ドクン——ッ!!
「……っ!?」
激しい鼓動の跳ね上がりに弾かれたように、澪はベッドの上で跳ね起きた。
肩で息を吐きながら、自分の右手をじっと見つめる。
昨夜、無為城の階段で炤の手を取った瞬間に走った、あの異様な衝撃。
脳裏に焼き付いた、赤々と狂暴に燃え盛る巨大な火災の光景——。
(昨日の……アレは、なんだったんだろう)
頭を抱え、小さく考え込む。
あの悪夢のような火事は……あの凄惨な光景は、一体。
(赤霧くんは……何も感じなかったのかな。普通にしていたけれど……)
思考を巡らせていた澪だったが、ふと昨夜の去り際に掛けられた言葉が耳奥に蘇った。
『……お前の髪、綺麗だな』
「っ……!」
突如として記憶がフラッシュバックし、澪は顔を一瞬で真っ赤に染めた。
耐えきれなくなってそのままベッドへ倒れ込むと、掛け布団に顔をうずめながら、そっと自分の髪の毛先に触れた。
(……もう、なに思い出してるの私……!…私の髪、綺麗って…)
◇
照れくささを振り払うように部屋を出て、家の隣にある喫茶店へと顔を出す。
店内では、翌日の開店準備を進めるお父さんの姿があった。
「おはよう、澪。美味しい紅茶が入っているよ」
「おはよう、パパ。ありがとう、いただくね。……お母さんは?」
「朱実さんのところに行っているよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
「そっかぁ……」
温かい紅茶のカップを受け取り、一口口に含む。
心地よい香りが広がる中で、澪はふと昨日の出来事を思い出していた。
(そういえば……朱実さんに会った時も、変な頭痛がしたな。この街に帰ってきてから、なんだか私……おかしい……)
そんな考えに耽っていると、ほどなくしてお母さんが帰ってきた。
そこからは家族全員で、翌日の開店に向けた準備を着々と進めていった。
◇
作業がすべて終わった頃には、外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
「ふう、やっと終わったわね〜。澪、晩ご飯を作っている間、海でも散歩してきたら?」
お母さんが汗を拭いながら微笑む。
「うん、そうだね。こっちに来てからまだ一度も行ってなかったし、ちょっと行ってくるよ。すぐ帰るから」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
お父さんに見送られ、澪は一人で浜辺へと向かった。
夕日を受けて黄金色に輝く海。波が寄せては返す静かな音を聞きながら、数分ほど潮風に吹かれて歩く。
やがて、澪はピタリと足を止めた。
背後に漂う、微かな、だが確実な異質の気配。
「……私に、何の用?」
静かに振り返る。
そこには、波打ち際にポツンと立つ、この前遭遇したあの「イバラの少年」が佇んでいた。
「話をしようと思ってね」
少年は相変わらず掴みどころのない笑みを浮かべている。
「この前もそう言って、会話にならなかったでしょう?」
「まぁ、そう警戒しないでよ。今日は本当に、ただ話がしたいだけなんだ」
「……で、話って何よ」
「そんなに焦らないでよ」
少年は夕空を見上げた後、ゆっくりと視線を澪の瞳へと戻した。
「……人を探してるんだ。その人が、君かもしれなくてね」
そう語る少年の瞳の奥に、澪は一瞬、どこか果てしない寂しさのようなものを感じ取った。
(第11話・了)




