Side自衛官山田
鳴るスマートフォンのアラームを手探りで止める。
熟睡した身体を起こし軽く伸びをする。しっかり寝て身体を休めるのも任務の一環だ。
まぁ任務中とは思えないほど快適な環境なのだが。手早く身支度を整え、部屋を出る。
廊下へ出ると、護衛の男性が立っていた。
「おはようございます」
目を見て笑顔で挨拶すると、相手も笑顔で返してくれる。言葉は分からない。
それでも、昨日から同じ護衛として共に行動しているからか、どこか仲間意識のような空気があった。
男性がリビングのほうを指差し、頷く。
「ああ、はい」
案内されるままリビングへ入ると、すでに政府職員の佐々木さんとカメラマンの高橋さんがいた。
「おはようございます」
「おはようございます、山田さん」
挨拶を交わしながら、自分も席に着く。二人が昨日見た事を論じているのを聞き、やはりこの二人、相当な場数を踏んでいるんだなと思った。
昨日の調査でもそうだった。何が起きても妙に落ち着いていた。経験も度胸もある。
二人の話に耳を傾けながら、素直に感心していると護衛の男性が飲み物を運んできた。
「ありがとうございます」
頭を下げ受け取る。それを口にしながら、三人で今日の予定を簡単に確認する。まぁ色々あるが、自分の役割は警護だ。やるべきことをやろう。
そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。
「あ、おはようございます」
田中さんが姿を現した。
「おはようございます」
続いて森田さん、田辺さんも入ってくる。
そのまま朝食は田中さんの提案で、町の食堂で食べる事になった。
朝から活気のある通りをぞろぞろと歩き、店へ入る。多数の料理がずらりと並んでいる。
「バイキング形式なので、好きに食べて下さい」
田中さんに言われ、それぞれ皿を手に取る。
我々調査団も護衛の人たちも、町の人たちに混じって思い思いに料理を取っていく。
「いただきます」
どデカい肉を頬張る。
「……うまっ」
思わず声が出た。他のも全部美味い。味付けは確かにほとんど塩だが、素材の味が活きていて美味い。
中には試行錯誤したのか、醤油もどきのような味付けのものもあり、面白かった。
満足して食事を終えると、田中さんが護衛含め全員分の支払いを済ませた。
「いや、田中さん。さすがにこれは……」
佐々木さんが渋るも、田中さんは気にした様子もなく笑った。
「いえいえ、こちらでは全部私持ちで大丈夫ですので」
「そういう訳には……」
なおも言いかける佐々木さんに、田中さんはのほほんと首を振る。
「いえ、本当に。どんどん使っていかないと逆に困った事になるんですよ」
「……」
「だから、気にしないでください」
……まぁ確かに、石油を一手に引き受けていると思えばそうなるか。
そんなことを考えていると、護衛たちが次々と田中さんに声をかけ始めた。どうやら、食事の礼を言っているようだ。
「はいはい」「いえいえ」「ふふふっ」
田中さんは一人一人に笑顔で頷いている……福祉厚生がものすごく手厚そうな職場だ。自分たちもご馳走様でしたと頭を下げる。
田中さん家の庭へと戻ってきた。腕時計で確認する。そろそろ、日本から外交団の五人をこちらへ招集する時間だ。
じっ、と虚空を見つめる田中さんに、佐々木さんが少し遠慮がちに声をかけた。
「田中さん。あの、すみません……外交団の方々をこちらへ呼ぶ方法について、お聞きしても構いませんか?」
「あ、はい。いいですよ」
田中さんは頷くと、目の前の何もない空間を指し示す。
「これをですね」
そう言って、空中で指を動かし始める。
何かあるのかと目を凝らしてみたが、自分には何も見えない。佐々木さんたちも同じようで、田中さんだけが何かを操作するように指を動かしている。
「こんな感じです」
田中さんがこちらを振り返ると同時に、外交団の五人が白く輝く魔法陣と共に現れた。
どうやら、田中さんのスキルは、本人にしか見えないものらしい。
田中さんと外交団が次々と挨拶を交わすのを見守る。
五人はそれぞれ洒落た籠を手にしていた。中には調味料の瓶がいくつも収められている。
どうやら昨日話に出ていた、国王陛下への手土産らしい。
そのまま全員で移動手段である空飛ぶマンションへ向かう。エントランスにいたレオン先生に挨拶するとあっという間に空の上へ。
最上階にある操縦室で質問を重ね、変わりゆく景色を眺めているともう王都に着いてしまった。
森田さんと田辺さんはマンション内で待機することになった。護衛の人たちも何人か残る。
会談の前に、念のため田中さんから王国側へ、本当に問題ないのか確認してもらった。
返ってきた答えは、何の問題もないらしい。マジかよ。
ということで、本当にこのまま会談が始まる。
案内された応接室で待っていると、すぐに国王陛下一行が姿を現した。思っていたより、ずっと気の良さそうな王様だった。
国王陛下と田中さん、レオン先生がとても親しげに言葉を交わしている。
国王陛下が何か楽しそうに話しかければ、田中さんも笑って答える。かなり仲が良さそうだ。
田中さんの紹介で日本側の外交団が前へ出る。代表の一人が一歩進み出る。
「このたびは、我が国との会談の機会をいただき、誠にありがとうございます」
外交団一同が深々と頭を下げる。
「異なる世界にいる我々がこのたび、田中愛子さんを通じて、こうして皆様とお会いできたことを、大変意義深いものと考えております」
さらに一礼。
「本日は、互いの国について理解を深め、今後、両国が末永く友好的な関係を築いていくための第一歩となればと願っております」
とにかく丁寧だった。持参した籠が護衛によって前へ運ばれた。
「こちらは、我が国で広く使われている調味料でございます。肉料理や魚料理、生野菜など、様々な料理にお使いいただけます。
それぞれ味や香りに特徴があり、少量加えるだけでも料理の味を大きく変えることができます。
ドリアラ王国の皆様にも、ぜひ一度お試しいただければと思い、持参いたしました」
ひと通りの挨拶が終わり、田中さんが国王陛下へ向き直った。
「えーー、お会いできてとても嬉しいです。こちら美味しいので是非どうぞ、だそうです」
…………だいぶ端折ったな。
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